第48話・卒業と恋の始まり
竹水門学園高校では、外部の大学入試の日程を考え、1月中旬に卒業式が行なわれる。今日はその卒業式だ。
厳かな音楽が流れ、一人ひとりが壇上へ上がり、卒業証書を受け取った。
下界に落とされて一年半を越えた。
最初は不細工三人衆と呼んでおった者達も、今では良き友となったな。
小梅どの、松乃どのに会えて、本当に良かった…
天界では味わえない充実した日々が過ごせたと思う。
感慨深いものを感じながら、小梅どのと松乃どのの三人で学校の廊下を歩いておると、小梅どのが一人の見掛けぬ殿方に呼び止められた。
「有栖川さん、ちょっと宜しいですか。話があるのですが…」
「はい。何ですか?」
「ここでは何なので…」
小梅どのが殿方と連れ立って行った後、出掛ける約束をしておった三人衆がやってきた。
「あれ?小梅ちゃんは?」
「話があるって、呼ばれたの。ほらそこ。」
松乃どのが指さす先には、少し離れた場所へ行き、俯きながら話す殿方と小梅どのの姿があった。
「あちゃ~!これは告白だね♪冬馬どうする?」
「ダンスパーティーのお誘いじゃぁないかな。冬馬どう思う?」
「…」
秋人どのと春樹どのはわざと煽っておるな。
その時、殿方が小梅どのの肩に手を置き、小梅どのが一歩引いた。
「小梅どの、嫌がっておらぬか?」
「ちょっと行ってくるよ!」
冬馬どのが素早い反応を見せて、二人の元へ行った。
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秋人と春樹の挑発に乗るつもりは無かったが、勝手に身体が動いてしまった。
「おい!嫌がってるだろ!」
「ダンスパーティーのお誘いをしているだけです。空手部の部長さんには関係ないですよね。」
「関係あるよ!俺と行くんだしな!」
「え?約束があるのなら、早く言ってよ。」
声を掛けていた男はすぐに去っていった。
「冬馬くん、今のって…」
「まだパートナー決まってないのか?」
「う、うん…」
「なら、俺と行くか?」
「ありがとう。よろしくね。」
あれ?俺、ホッとしてる?どういうことだ?俺ってかぐやが好きなんだよな?
自分自身が理解出来ないなんて初めての経験だ。かなり戸惑った。
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卒業式の後は、皆で最後の制服を写真に収め、その後は浦和グループのレストランの個室で食事を頂いた。
「そういえば、さっき、冬馬焦ってただろ?」
ぶっ!
冬馬どのがいきなり噴き出した。
「な、何を言い出すんだ!秋人!」
「だってな~。凄い勢いで小梅ちゃんのところへ走っていったし♪」
「嫌がっているように見えたから、助けただけだ。」
「ふ~ん♪」
「何だ!その疑いの目は!」
「だったら小梅ちゃんに彼氏出来ても構わないよね!秋人の知り合いを紹介してあげてよ♪イケメンのモデルでもさ!」
「松乃ちゃん、ナイスアイディア♪」
「ちょ、ちょっと待て!それとこれは話が違うだろ!」
おお、冬馬どのがかなり焦っておるようだ。
「冬馬、素直になれよ。」
「春樹まで…」
小梅どのは倒れるのではないかと思うくらい、真っ赤になっておる。
そんな小梅どのに冬馬どのが向き直った。
「ま、まぁ、パーティードレスはレンタルするんだろ?」
「うん。」
「俺も一緒に行くから、空く日を教えてくれ。」
「冬馬くん一緒に来てくれるの?」
「ある程度タキシードも合わせた方が、見栄えもいいだろうからな。」
「って、お前らニヤニヤするな!」
「二人とも真っ赤になっちゃって可愛い~♪」
ふふ。小梅どのも幸せになると良いな。
帰りは、最後だから歩いて帰りましょうと言われ、春樹どのと徒歩で帰宅することとなった。
「かぐやさん、パーティーまでの間はいかがされるご予定ですか?」
推薦で大学が決まっておる皆は、受験というものが無いので、次に用事があるのは、3月の終わり頃にある卒業ダンスパーティーのみである。それまで二カ月程、暇な期間があるのだ。
「師範の道場に通うことになってな。昇段試験がある故、しばらくは稽古が続くだろう。」
「そうですか。私は車の免許を取りに行くつもりです。免許が取れたら一緒にドライブへ行きましょうね。」
「春樹どのは自分で運転をするのか?」
「運転できた方が何かと便利ですからね。」
「何だか大人だな。」
「ふふ。かぐやさんの発想は、いつも面白いですね。」
屋敷の前まで送ってもらったが、春樹どのはなかなか帰ろうとはしなかった。
「明日からかぐやさんとお会いできないなんて寂しいですね…」
「そうだな。私も皆と会えぬのは寂しいぞ。」
「その皆の中に私は含まれていますか?」
「当然だ。」
春樹どのは何故か嬉しそうに微笑んでおった。
「それを聞けただけで、嬉しいものですね。」
「そうか?」
「ではまた、連絡しますね。」
そう言って、手を振りながら帰っていった。
やはり、春樹ども皆と会えなくなるのが寂しいのであろう。
何となく…何となくだが、胸がキュッとなった。