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第4話・文化祭とは?

 ある日、いつもどおり登校して下駄箱で靴を履き替え、教室に向かって廊下を歩いていたところ、いじめておる輩を発見。


いじめられておる者は、下膨れで糸目、吹き出物面は美しくないが、遠目に見れば中々の美男子だ。一方、いじめておる者は黒と茶色が混ざった不思議な髪の毛で、お世辞にも美しいとは言えぬ。天界とは逆の光景に驚きつつも、声を掛けてみた。


「そこで何をしておる。」

「見ればわかるだろ。楽しく話をしているんだよ。」

「そうは見えぬが…」


ここで、いじめておる輩が初めて私の顔を見た。


「はっ!かぐや様だ!やべぇ!」


何故かあっさりと逃げていった。

声を掛けただけで、あからさまに避けられると傷つくなぁ…


「お前も美男の部類なのだから、もう少し堂々としていれば良いのだ。」


いじめられておった者にそう言い残し、教室へと足を進めた。



 『おい、見たか!』

 『さすがはかぐや様だ。一睨みでいじめを蹴散らしたぞ!』



この日を境に私が廊下を通ると、人だかりが避けて道を空けられるようになった。下界は若干居心地が良いと思っておったが、やはり私を避けるのは何処でも変わらぬものであるな…



 その日、クラスでは授業とは違う話し合いが行われた。


「では、今年の文化祭は、『眠れる森の美女』の劇に決定しました。」


何やら芝居をする事が多数決で決まった。

ところで、文化祭とは何だ?


「では、配役を決めたいと思います。まずは王子役。」

「は~い!浦和くんがいいと思います!」


パチパチ…あっさりと決まった。


「では、続けて姫役を決めます。」

「竹野塚さんがいいと思います!」


へ?私?誰がそのようなことを申すのか?声の主を見てみると不細工三人衆ではないか!


パチパチ…って、承認された!


姫とは一番遠い存在かと思うが、わざとか!嫌がらせか!ならば見ていろ!完璧にこなしてやろうではないか!

闘志を燃やして、図書室で『眠れる森の美女』という本を読み漁った。


ふむふむ…成る程…王子様のキスで姫は目覚めるのか…って、これはもしや接吻か?!

冗談ではない!将来の婚姻となる一大事を芝居で決めれるか!それに公衆の面前で接吻なんぞ、卑猥極まりないわ!


速攻で断ろうと図書室からクラスに戻ると、何やら話し声が聞こえてきた。


「いいな~、春樹。かぐやちゃんとキスしちゃうの?」

「あくまでフリだ。まぁ実際にしてみたら面白そうだけどな。」

「おい、嫌がることはやめておけよ。男性恐怖症なんだから。」

「大丈夫だ。女の子に無理強いする趣味はないさ。」

「でも反応面白そうじゃん♪」


この声は不細工三人衆か!!

バン!と教室の扉を開けて怒鳴った。


「おい!実際にしたら、貴様をぶっ殺すからな!」


三人衆がキョトンとしたかと思ったら、大爆笑し始めた。


「あはは!かぐやはやっぱり一筋縄ではいかないな!」

「ごめんごめん!でも冗談でそこまで怒るなんて、面白過ぎ~♪」

「そこまで本気にとらないでくださいよ。ちゃんと寸止めしますから。」


「もう!かぐやちゃんをからかわないでよ!箱入りのお嬢様なんだよ!」


私の後ろから小梅どのと松乃どのが顔を出した。


「しかし王子のキスを拒否するなんて、かぐやちゃんもやるね~♪」


松乃どのが私を肘でつついた。


「王子とは浦和春樹どののことか?」

「春樹でいいですよ。」

「唇への接吻は即、婚姻となるであろう。故に芝居なんぞ無理だ。」


皆がキョトンとした顔をしておる。


「へ?かぐやちゃんの家ってそうなの?」

「普通であろう。」


いやいや…皆が横に手を振って否定した。



 その日以降、休憩時間を使って劇を練習する日々が続いた。

接吻は寸止めだとしても、おなごのような春樹どのの顔が近づいてくると想像するだけで鳥肌が立ってしまい、思わずギュッ!と目を瞑った。


「ふふ、かぐやさん面白い顔していますよ。」

「貴様!その台詞は無いはずだ!」


ムキになって起き上がると、春樹どのが笑っておった。


「ふふ、すみません。一生懸命目を瞑る顔がどうしても忘れられなくて。」


私の顔はそこまで変か!おぬしは自分の顔を鏡で見たことがあるのか!

喉元まで反論が出かかったが、短い時間の中での練習だ。言葉を飲み込んで続きを行った。



 そして迎えた文化祭当日の劇出演前、先日いじめから助けたであろう殿方から文を頂いた。

手紙を持ったまま舞台に上がることもできず思案しておったら、秋人どのが持っていてくれると買って出てくれた。

容姿はともかく中々気の利く者であるな。


----------


「大変大変!かぐやちゃんが、ぶたおから手紙貰ったよ~!」

「へぇ~。ラブレターか?ぶたおもやるな。」

「いや、勝手に見るな。」

「いいじゃんちょっとくらい♪」



<かぐや様


先日は助けて頂いて、ありがとうございました。

貴女のあの勇姿に一目惚れしました。


明日の代休の予定はありますか?

もし良かったら、僕とデートしてください。


駅前で11時に待っています。


今日は劇のお姫様を演じると聞きました。

客席からあなたをずっと見ています。


田端たばた 琢雄たくお



「うわっ!マジでラブレターじゃん!」

「しかもデートに誘っているな。」

「男性恐怖症のかぐやは嫌がるんじゃないのか?」

「…」


「じゃぁ、予定を作ればいいじゃん♪」

「秋人!それは名案だな。」

「なら、明日はみんなで出掛けるか。」


----------


 練習どおりに本番の劇も進んだ。私は床の上で寝転び、身動き一つとらぬようにしておった。


ガタガタ!


「危ない!!段ボールが崩れる!」


誰かの声を聞き目を開けると、石垣にしておった段ボールが崩れ落ちてきておる。咄嗟に蹴散らそうとすると、急に手足に重みがかかり、動かせなくなった。


ドカドカッ!

…ん?


段ボールが落ちた筈なのに、まったく痛まぬ。よく見ると春樹どのが私の上に覆いかぶさっておった。


「大丈夫ですか?どこも痛くないですか?」

「いや、まったく。ところで何をしておるだ?」

「何って言われても…まぁみんなが段ボールをどかしてくれるまで、もう少し我慢して下さいね。」


春樹どのは苦笑いしながら手を床についておった。なるべく顔を遠ざけてはくれておるようであるが、覆いかぶさらなければ良いだけの話であろう。何故このような面倒なことをするのであろうか…


すぐにクラスの皆が段ボールをどけてくれ、その後も劇を続けたが、リアルで王子が姫を助けたと大好評だったようだ。


「春樹、大丈夫か?」


暗幕が下りて、冬馬どのと秋人どのがすぐに駆け寄ってきた。


「かぐやも何処も怪我は無いか?」

「何事もない。」

「大したことないよ。かぐやさんを近くで守れて役得だったかな。」


「言うね~♪僕もお近づきになりたい!」


ん?役得?軽い段ボールとはいっても、落下をまともに受ければ若干の痛みはある筈。そうまでしておなごに近づきたいものなのか?


小梅どのと松乃どのは、床ドン♪と言いながら、はしゃいでおるようだ。

床ドン…って何だ?



 念のため、春樹どのと一緒に保健室に行くこととなった。春樹どのの腕に若干の擦り傷が見られたが、大したことは無さそうだ。


「そのくらいなら舐めておけば治るであろう。」

「かぐやさん、せめて手当てくらいはして頂きたいのですが、私の腕に触るのも無理でしょうか。利き腕なので自分で手当てするのは難しいのですが…」

「そう言われても、手当の仕方が分からぬ。」

「コットンに消毒液を染み込ませ、傷口を拭いてください。その後、絆創膏でも貼って頂ければ大丈夫です。」

「こうか?」


言われたとおりにやってみた。


「ふふ、私よりも世間知らずがいるとは思いませんでした。」

「世間知らずとは何だ。幼少の頃より怪我が絶えることは無かったが、手当てなんぞ水で洗うか舐めるくらいのものだ。」

「世間知らずというよりは、一昔前のような感覚ですね。」


確かに一昔前と言われても過言ではない。天界に自動車は無く馬車や牛車を使用しておったし、水道ではなく井戸水を使っておるからだ。

思わず天界での出来事を思い出し、クスッと笑ってしまった。


「そうかもしれぬな。」


春樹どのは少し驚いた顔をした後、ふわっと微笑んだ。


「かぐやさんはもっと笑った方がいいですよ。せっかく笑顔が素敵なのですから。」


へ?私の笑顔が素敵?何のお世辞だ?

だが、私が上流貴族ということは知らない筈だ。ということは、元婚約者の顔だけ男のようなお世辞とは違うのか?春樹どのの言動は理解できぬ事が多いな…



 その夜、やよい姉様に劇のことを報告した。


『まぁ、それは素敵な殿方ですね。身を呈してかぐやを守ったのですね。』

「守られるほど私は弱くはありませんし、蹴散らすことも可能でした。そのような痛い思いまでしておなごに近づきたいものなのですか?」

『ふふ♪かぐやは相変わらずのようですね。その後の話も楽しみにしていますね。』


やよい姉様は春樹どのの言動を理解できるのであろうか。そういえば、“床ドン”の意味を聞きそびれたな…


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