第37話・バカップル?
家に帰ってからも、松乃ちゃんの泣き顔が忘れられなかった。
はぁ…ため息しか出ないな…
リビングのソファーでため息をついていたら、親父が帰ってきた。
「おう秋人、カビが生えそうなくらい辛気臭いぞ。」
「煩いよ!これでも悩み多き年頃なんだから!」
「二股がバレて殴られたか?」
「親父と一緒にするな!泣かれただけだ。」
親父は僕の隣に腰かけた。
「お前が泣かれたくらいで気にするなんて、珍しいな。」
「まあね。」
「やっと本命が出来たか?」
はっ!とした。
松乃ちゃんのことが好きだったんだ!生け花も楽しいけど、それ以上に松乃ちゃんと話すのが面白かった。苦手な教科をわざわざ教えると言ったのも、もっと一緒に居たかったからなんだ!
それを伝えなきゃ!
「たまには親父もいいこと言うね~♪」
「よく分からないが、ふっきれたみたいだな。頑張れよ!」
「おう!」
スマホを持って家を飛び出し、松乃ちゃんの家の玄関前に着いてインターホンを押した。
「はい。」
「夜分遅くにすみません、秋人です。松乃さんいらっしゃいますか?」
ガラッと扉が開いて、松乃ちゃんのお母さんが出てきた。
「秋人くん、松乃に何かあったの?夕飯もいらないって部屋に閉じこもってるのよ。」
「すみません、僕が話してみますので、部屋へ案内して貰えますか?」
「分かったわ。」
松乃ちゃんのお母さんに案内されて部屋へ入ったら、松乃ちゃんはびっくりして目を見開いていた。
「あ、秋人!」
「さっきはごめんね。」
「もう謝らないでよ。惨めになるだけじゃん!」
「謝ったのはキスをしたことじゃあ無いんだ。松乃ちゃんの気持ちを確認しなかったことを謝ったんだ。」
「…え?」
「今、確認していい?」
「…」
「僕はもっと松乃ちゃんとキスしたい。もっと一緒にいたい。」
一歩、一歩、松乃ちゃんに近づいた。
頬が赤く染まっていく松乃ちゃんの傍へ行き、そっと腰を引きよせた。
「わ、私も、もっと一緒にいたい…かも?」
「かも、なんだ♪」
「たぶんね♪」
「じゃあ、キスもしていい?」
「それはわざわざ聞かないでよ!恥ずかしいじゃん!」
「なら、今度から確認は省くね♪」
お互いの気持ちを確かめるよう、二度目のキスを交わした。
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蝉も鳴いて暑さが一層増してくる頃も、いつもどおり補習を受け、クラブが終わってから、冬馬どのと門まで歩いておった。
「今度、神社で夏祭りがあるんだ。花火も上がって賑やかなんだけど、一緒に行かないか?」
「そういえば、正月頃に春樹どのも一緒に行くと言っておったな。」
「ちっ!先を越されたか…」
「何か言ったか?」
「いや、何も!だったらみんなを誘っていくか。」
「そうだな。楽しみにしておるぞ。」
夏祭りとは、浴衣を着て行くらしい。湯上りの着物をわざわざ着るのか?と思っておったが、下界の浴衣は中々可愛らしい柄が多くて選ぶのも楽しかった。
新しく購入した浴衣を着て、皆との待ち合わせ場所に行くと、春樹どの、秋人どの、松乃どのが顔を突き合わせて秘め事の相談をしておった。
「どうかしたのか?」
「かぐやさん、いらしてたのですか。素敵な浴衣ですね。」
春樹どのは本当にお世辞がうまいな。
「ありがとう。新しく購入してみたが、いかがかな?」
「藍色がとても映えて似合っていますよ。」
そこへ、冬馬どのと小梅どのも合流した。
「みんなお待たせ!って、松乃ちゃんどうしたの?」
ん?松乃どのに何かあったのか?
「秋人くんと手を繋いでる!」
「おお!本当だ!」
「じゃぁ~ん♪」
二人は繋いだ手を高く上げ、宣言した。
「僕と松乃ちゃん、付き合うことになりました~♪」
「松乃ちゃん、良かったね!」
「ありがとう、小梅ちゃん♪」
「それはめでたいことだ。して、婚姻はいつなのだ?」
「か、かぐやちゃん、それはまだ早いよ!」
「日本では、まず付き合って、じっくりと仲を育てていくものなんだよ♪」
「では、長い婚約みたいなものか?」
「あはは!そうなるかな♪捨てられなければね!」
何だかくすぐったい感覚が、私にまで移ってきそうだ。
仲の良い友人同士の幸せを、嬉しく思った。
暫く夜店を歩いておった時、春樹どのが急に声を上げた。
「あれ?松乃さんと秋人がいない!はぐれたかな?」
「ほっといても大丈夫だろう。」
「そうはいかないさ。悪いけど、冬馬見てきてくれないか?」
「まぁいいけど。」
「じゃ、じゃあ、私も一緒に探すよ!」
「分かった。小梅もはぐれるなよ。春樹、また後でな!」
冬馬どのと小梅どのが一緒に離れていった。
「春樹どの、もしかして今のはわざとか?」
「かぐやさんも勘が鋭くなってきましたね。秋人と松乃さんなら、先に花火大会の会場へ行っている筈ですよ。」
「そうなのか。それで密談をしておったのだな。」
「その通りです。」
「しかし、会場は広いと聞くぞ。大丈夫なのか?」
「特別観覧席を人数分キープしてありますので、大丈夫です。では花火大会の時間まで、夜店をご案内しますよ。」
「よろしく頼む。」
夜店で色々と食べ物を購入した。特にふわふわの綿菓子には驚いた。
「これは砂糖なのか?何故このようにふわふわになるのだ?」
「あの機械を使えば、誰でも作れますよ。」
「面白いものだ。」
「お?お面なら天界でも売っておるぞ!」
「テンカイにも夜店はあるのですか?」
「ここまで賑やかでは無いがな。金魚すくいが一般的だ。」
「あれは何だ?」
「射的ですね。やってみますか?」
「これが噂に聞く鉄砲か。天界では禁止されておる故、見るのも初めてだ。体験してみよう。」
鉄砲を構えて、お菓子に狙いを定めた。
バン!
「あれ?まったく当たらぬぞ?」
「今のは少し下に当たりましたから、少し上を狙ってみて下さい。」
「こうか?」
「もう少しですかね。」
春樹どのは、そう言いながら私の鉄砲に手を添えて来た!
「うわっ!」
か、顔が近い!瞬時に顔が熱くなり、咄嗟に離れた!
「…失礼しました。撃つ角度は何となく分かりましたか?」
「あぁ…大丈夫だ。」
再び一人で構えて撃った。
「まだ近づくのも無理か…」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ。今のは惜しかったなぁと思いまして。」
「そうだな。当たったが、下に落とすのは難しいな。」
他にも輪投げなど夜店で遊び、花火大会の特別観覧席に行くと、冬馬どのが怒っておった。
「先に行くんなら、そう言えよ!」
「ごめんごめん♪いちゃつく時間が欲しかったからさ♪」
「何だよ!このバカップル!」
「春樹どの、バカップルとは何だ?」
「秋人と松乃さんみたいに仲良しのことを言うのですよ。」
「そうか。」
若干意味が違うような気がしたが、まあ良いだろう。
仲良き事は、良い事だ。