第36話・ハプニング&キス
夏休みに入り、数学の補習やクラブで忙しく過ごしておった。
そんな中、皆で大学へ見学に行くこととなった。
「ほう!広いな。ここが大学か。」
「高校よりはかなり広いですね。人数も多いですよ。」
「んじゃ、私達は芸術学部を見てくるね~♪」
「後で待ち合わせな!」
秋人どのと松乃どのはさっさと行ってしまった。
「どうしますか?かぐやさんも芸術学部を見ますか?」
「いいや、まずはどんな学部があるのかが知りたい。」
「では、パンフレットを見ながら説明しますね。」
春樹どのに、どの学部がどのような学問を学ぶのかを簡単に説明してもらった。
「かぐや、俺達と一緒に教育学部を見てみるか?空手の指導者になりたいのなら、合ってると思うぞ。」
「冬馬どのは教育学部であったな。では一緒に行こう。」
「かぐやちゃんも同じ学部だったら嬉しいな!」
「そういえば小梅どのも教育学部であったな。」
「妹や弟に勉強を見てあげることも多いから、なんとなく合ってる気がしてね。」
「ん?春樹どのは経済学部へ行かなくても良いのか?」
「私はかぐやさんの案内人ですから、気にしないでくださいね。」
「すまないな。」
ひとまず教育学部を見てまわったが、あまり興味が湧かなかった。
「何やら教育学部は違う気がする。」
「では、経済学部も見てみますか?」
「そうしよう。」
まだ残って見学するという冬馬どのと小梅どのに別れを告げて、春樹どのと一緒に経済学部へも行ってみた。これは更に無理そうだ。そもそも下界の経済の仕組みも一切分からぬ私には向いておらぬであろう。
「すまぬが、経済学部は無理そうだ。」
「でしたら人文学部はいかがですか?」
「人文学部?」
「確か以前、桜小路さんを観察するのが面白いと言っていましたよね?かぐやさんには合っているかもしれませんよ。」
「ではそこへ行ってみよう。」
人文学部という学部に足を運んでみた。人間とは何かをテーマとして、人間の行動や言語など、人間についてのあらゆる研究を行うとこらしい。
「かぐやさん、いかがですか?」
「中々面白かったぞ。特に精神科学という研究が興味深かった。」
「では、人文学部の心理学科が良さそうですね。」
「そこにしよう。」
「かぐやさんの成績でしたら、推薦枠を確実に取れますよ。」
「それは、確か受験とやらが不要な制度だったか。」
「その通りです。冬休み前にはほぼ決まるので、ゆっくりとお正月を迎えられますよ。」
その後、皆で集合した。人文学部に決めたと言ったら、皆でまた同じ学校に通えるね♪と喜ばれた。松乃どのだけがギリギリ上位50番らしいが、日本芸術学科は希望者が少ないから大丈夫だろうと言っておった。
「松乃ちゃん、僕が苦手なところを教えてあげよっか?」
「本当?秋人助かるよ~♪出来れば推薦枠確実にしておきたいしね!」
大学を出て、この後何処かへ行くかと話をしておったが、秋人どのと松乃どのは、生け花のレッスンがあるとかで、別行動となった。
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かぐやちゃん達と別れて、松乃ちゃんの家へ向かった。
「お邪魔しま~す♪」
「あら、秋人くんいらっしゃい♪」
「いつもお世話になります♪」
にこやかに松乃ちゃんのお母さんが出迎えてくれた。もう何度も習いに来てるので、顔パスになりそうだ。
「お母さん、今度秋人が勉強を教えてくれることになったの♪」
「あらそう!秋人くんよろしくね♪」
「いつも生け花を教えて貰っていますからね!このくらい大したことありませんよ♪」
「特に英語を教えてやってね!海外での展示会も多いのに、この子ったら本当に苦手みたいなのよ。」
「もう!お母さんは黙っててよ!」
離れに行くと、いつもどおり花材が用意してあった。
「あ、今日はりんどうだ!濃い紫色に青々とした葉ものを合わせると、夏らしさアップするんだよね~♪」
「へぇ~。さすが松乃ちゃん!英単語は覚えなくても、花の名前はバッチリだね♪」
「もう!秋人まで言わないでよ!」
「ごめんごめん!今度ちゃんと英語も教えるからさ♪」
早速レッスンに入った。
「秋人どう?」
「すごく楽しいよ!自分の思うように空間を表現出来るってすごいね♪」
「でしょ?海外の建築家の人も日本の生け花を習いにくるんだよ!」
「そうなんだ!」
思った以上に生け花が楽しくて、ハマってしまいそうだ。
次は英語を教える約束をして、この日は帰宅した。
「ほう!秋人は生け花を習い始めたのか?」
「親父、こんな時間に家にいるなんて、珍しいな。」
「たまには不良中年を返上してみようかと思ってな。」
「よく言うよ。」
玄関に生け花を飾り始めた俺を、珍しそうに親父は眺めていた。
次のレッスン日、英語の教材も持って、松乃ちゃんの家へ行った。
まずは生け花を教えてもらい、続いて英語を教えることになった。
「ん~、松乃ちゃんは単語をもう少し覚えた方がいいかもね♪」
「やっぱそう?でも英語を見ると眠くなっちゃってさ!」
「その気持ち分かるけど、もう少し頑張って♪」
「秋人先生は厳しいな!」
英語の長文読解を説明していると、足に痺れを感じてきた。
「ごめん、松乃ちゃん。正座し過ぎて足が痺れた!」
「ちょっと休憩する?足を崩した方がいいよ♪」
「そうするね!」
足を動かそうとしたけど、まったく力が入らない!
「うわっ!」
「きゃっ!」
足をもつれさせて、松乃ちゃんに覆いかぶさってしまった!
っていうか、床ドン状態?
「ご、ごめん!もうちょっと足の感覚が戻るまで待って!」
「う、うん…」
松乃ちゃんの顔を見ると、真っ赤になってた。
うわっ!可愛い♪
思わず顔を近づけて、チュッ!とキスした。
「ごめんね!可愛かったから♪」
松乃ちゃんの顔を見てハッ!とした。目から涙が一筋こぼれ落ちていたからだ。
マズい!かなり嫌だった?
「本当にごめん…」
もう一度謝って、そのまま部屋を出た。