第34話・かぐや奪還!
<ピンポーン>
チャイムの音が聞こえた。ついに来てしまったか…
万が一逃げることが出来なくても、私が幽閉されれば、やよい姉様がすぐに気付くであろう。
「少し早いな。桜小路どの、そなたが見て来るがよい。」
「まぁ、人使いが荒いこと。あなたの使いではなくて?」
「はぁ?黙っておれば化け物のくせに、何と言う口のきき方!」
「化け物ですって?あなたのような不細工に言われたくありませんわ!」
あれ?何やら道彦どのと桜小路どのが喧嘩しておる。この隙に逃げれるか?
コンコン。
「お邪魔しますね。」
部屋へ入ってきたのは、予想外に不細工三人衆であった。
「かぐや!無事か?」
私へ近寄ろうとした冬馬どのの行く手を、道彦どのが塞いだ。
「いつぞやの不細工ではないか!何しにきた!私の婚約者に手を出すな!」
「てめえこそ、何様のつもりだ!かぐやを縛っておいて、何が婚約者だ!」
その隙に、秋人どのが私のロープを解いてくれた。
「ありがとう、秋人どの。」
「どういたしまして♪最初に助けられてラッキーだったよ!」
部屋の入り口では、桜小路どのと春樹どのが対峙しておる。
「桜小路さん、本気で怒らせないでと忠告しましたよね。」
「い、いえ、これは何でもありませんわ。それよりも鍵はどうやって開けたのかしら。」
「あなたのお父様に事情を説明して、預かりましたよ。」
「え?わ、私は何も関係ありませんわ!」
「かぐやちゃん、とにかく外へ出よう!」
秋人どのに促されて外へ出たが、すぐに前を立ち塞がれた。
「お前達は天界の使者!」
「え?かぐやちゃんの祖国の?」
後ろから追いかけてきた道彦どのが叫んでおる。
「いい所へ来た!この者は再度私に暴力を振るったのだ!すぐにひっ捕らえよ!」
だが、天界の使者達は私の前で跪き、頭を垂れた。
「かぐや様、ご無事で何よりです。我らは足利の弥蔵様直属の部隊にございます。」
「義兄上のか?」
「左様にございます。昨日、かぐや様の使いの者より連絡を頂きましたが、満月が本日だった故、到着が遅くなり大変申し訳ございません。」
「お、お前ら!まさか、帝の護衛部隊か?」
天界の使者達は立ち上がり、狼狽しておる道彦どのを囲った。
「この不届き者をひっ捕らえよ!」
「な!何をする!私は何もしてはおらぬぞ!」
「申し開きは天界に戻ってするのだな。」
「ま、待ってくれ!私はただ愛しの婚約者に会いに来ただけなのだ~!」
護衛部隊と道彦どのは林の中へすーっと消えていった。そこから天界への道を繋ぐのであろう。
「何が愛しの婚約者だろうね~。かぐやちゃん手痛くない?縛られてたところ、ちょっと痣になっちゃったね。」
「このくらい大丈夫だ。」
「来るのが遅くなっちゃってごめんね。」
「いや、助かった。礼をいう。」
冬馬どのが建物から出てきた。
「あのおっさん、何か気持ち悪いんだよ。気が付いたら俺の周りに家具が集まってて、動き辛くてさ。倒せなくてごめんな。」
「いや、もう道彦どのは大丈夫であろう。世話をかけたな。」
恐らく道彦どのが能力を使ったのであろう。今回ばかりは、能力をはく奪されるかもしれぬな。
「かぐやさんお待たせいたしました。」
春樹どのが建物から出て来た。その後ろには真っ青になった桜小路どのがおった。
「春樹どのにも世話になったな。」
「このくらい大したことではありませんよ。かぐやさんが無事で良かったです。」
「私は何ともないぞ。」
「では帰りましょうか。車を待たせてあります。」
立ちつくす桜小路どのを残して、四人で春樹どのの車に乗り込んだ。
シートに座ってすぐ、春樹どのは謝ってきた。
「かぐやさん、私が油断したばかりに怖い思いをさせて、すみませんでした。」
「別に春樹どのは何も悪くないぞ。」
「それでも謝らせて下さい。」
「春樹はずっと気にしてたんだ。」
冬馬どのが教えてくれた。
「そうか。でもこうやって助けにきてくれただけで充分だ。礼を言うぞ。」
空気を変えるよう、秋人どのが声を上げた。
「そういえば、かぐやちゃん、お誕生日おめでとう♪」
「そうであったな。すっかり忘れてた。」
「そりゃ忘れるよね!誘拐されてればさっ♪」
「ふふ。そのとおりだな。」
しばらくして眠気が襲ってきた。安心したのであろう。そのままシートに寄り掛かって目を閉じたら、皆の声が段々と遠くなっていった。
「かぐやちゃん寝ちゃった?」
「この一週間、気が休まることが無かったのだろうな。」
「本当に無事で良かったよ。」
「寝顔って結構あどけないよね~♪可愛い♪」
屋敷に戻ると、婆やが私に軽い結界をかけてくれた。外敵を防ぐことは出来ぬが、何かあった場合の異変が分かるようになるそうだ。
翌日、学校に行くと、松乃どのと小梅どのに抱きつかれて泣かれた。二人にも心配をかけたな。
桜小路どのはイギリスという異国へ留学したらしい。理事長は桜小路どののお爺様からお父上に交代されたようだ。
「もう、学校の中でも安心できますよ。」
春樹どのがにこやかに言っておった。また特別な力を使ったのであろうか。
中々のものであるな。