第33話・渦巻く陰謀
「春樹、元気出せよ。」
「そうだよ。春樹のせいじゃあないって。」
結局、一睡も出来ずに翌日学校へ行った。みんなが慰めてくれたけど、気分は晴れなかった。
かぐやさんが学校を辞めると理事長が言いだした時に、もっと桜小路さんを疑っておくべきだった。
「桜小路さんが怪しいが、証拠が無いんだ。」
「そういえば、最近よくにこやかに挨拶してきてたね。」
「小梅さん、本当ですか?」
「何だか媚を売っているような感じだったよ。」
「恐らく警戒心を解いていたのでしょう。」
心配そうに秋人が尋ねてきた。
「春樹、やっぱり桜小路さんが絡んでるの?」
「たぶんな。昨日、父に頼んで桜小路さんの周辺を見張るよう人員をお願いしておいた。」
「流石だね!浦和グループ総出で捜索しているのなら、すぐに見つかるよ♪」
「それまで無事だといいけど…」
重たい空気が流れた。
かぐやさん、無事でいて下さい…
かぐやさんのお誕生日当日、捜索隊から怪しい動きを発見したと、父から連絡が入った。
電話を切った後、冬馬が恐る恐る聞いてきた。
「春樹どうだった?」
「桜小路家の別荘で、下膨れ野郎に似た人物を見かけたそうだ。」
「そこだな!」
「私達も行く!」
「小梅さんと松乃さんは待っていてください。万が一のことがあっては大変です。」
「でも…」
「お願いします。何かあった時、全員を守れるとは限りませんので。」
「分かった!足手まといにならないよう留守番しておくね!」
「絶対無事にかぐやちゃんを連れて帰ってきてよ!」
「お二人とも、任せてくださいね。」
学校を早退し、冬馬と秋人の三人でかぐやさんの屋敷へ行った。爺やさんと婆やさんに怪しい場所を告げて、必ず連れて帰ると約束した。
絶対に…
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…ん。
「ここはどこだ?」
目覚めると見たことの無い部屋であった。手を縛られており、何だか頭痛がするな…薬品のせいか?
「そうだ!桜小路どのに嵌められたのだ!」
「その通りですよ、かぐや様。」
声の主へ顔を向けると、意外な人物であった。
「そなたは道彦どのではないか!」
「ふふ。良い気味だな。お前がそんな格好をしておるとはな。」
「貴様!私に向かってそのような口のきき方を!」
「おっと、まだふらつくであろう。大人しくした方が身のためだぞ。」
私の髪の毛を掴み、顔を近づける道彦どのを睨みつけた。
「おお!そのような怖い顔をしては、不細工がますます不細工になるぞ!」
「では貴様が離れろ!」
「もしかして、接吻でもされるかと思ったのか?」
卑しいものを見る目つきで私を見ておる。
「ふん。お前みたいな不細工に接吻などする筈がなかろう。」
「では婚姻する気も無いのに、何故このようなことをする!」
「婚姻はしてもらうぞ。お前の上流貴族の身分を生かさないでおくのは勿体無いしな。お前みたいな不細工に求婚する物好きもおらぬであろう。」
「やはり身分が狙いか!」
「まぁ満月まであと1週間ある。ゆっくりと過ごすが良い。」
不敵に笑って、道彦どのは部屋を出ていった。
くっ!満月になったら連れ去られてしまう!足は自由だが、手が不自由では脱出も難しいであろう。
何とかやり過ごす手立てはないか…
それから数日、食事を運ぶ以外は道彦どのと顔を合わせることは無かった。
チュン、チュン…
いつも通りソファで目覚めた。恐らく今日は私の誕生日、つまり夜は満月の日だ。
「かぐや、起きておるか?」
部屋へ入ってきて、にこやかに近づく道彦どのを睨み付けた。
「相変わらず不細工な面をしておるな。まあ良い、今夜一緒に天界へ帰るぞ。」
「冗談ではない!誰が貴様なんぞと一緒に帰るか!」
「安心しろ。お前に指一本たりとも触れることは無い。私の屋敷にお前の別室を用意しておる故、お前はそこで一生を過ごすのだ。勿論脱出はできぬがな。」
「何だと!」
「そうそう、婚姻しても赤子が出来ぬと疑われてしまうからな。別のおなごに作っておいたぞ。」
「ならばその女と婚姻すればよかろう!」
「だから、それでは身分が手に入らぬだろ?頭の悪いやつだ。」
「貴様、正念が腐っておるわ!」
バコン!
さっと飛び上がり回し蹴りを入れた!
「こ、この女!一度ならず二度までも!私を何処まで愚弄する気か!」
「その台詞、そっくり貴様に返してやるわ!」
「あらあら、外まで下品な声が聞こえますわよ♪」
私を陥れた張本人の登場であった。
「桜小路どの!騙しおったな!」
「まぁ、そのような下品な顔も今日で最後だと思うと名残惜しいわ♪」
「何が目的だ!」
「目的?特にないわ。春樹さまに近づく虫けらが邪魔なだけよ。それを取り省くことの何がいけないのかしら♪」
「春樹どのは、お主のような根性の悪い化け物に惚れることは無いと思うぞ。」
「まぁ!なんて口のきき方かしら!まるで煩い蝿のようね!私ほど美しい人間もおりませんことよ♪おほほ♪」
桜小路どのは本気でそう思っておるのか?
可愛そうに、桜小路家には鏡が無いのであろう…不憫なやつだ。
空は赤みを帯びてきた。そろそろ夜になってしまうようだ。
「藤原さま、いつになったらこの者を連れ帰るのですか?」
「光輝く満月が天へ昇る頃ですな。」
「そうですか。まだ数時間はありますわね。」
「世話になったな。」
<もう二度とこの化け物の顔なんぞ見たくないわ。>
「いいえどういたしまして♪」
<この福笑いの顔なんて早く視界から消したいわ。早く連れ帰ってくれないかしら。>
「かぐや、もう少しで天界からの使者が参る。もう諦めるのだな。」
「貴様、もう一発制裁を入れて欲しいのか!」
「おお!怖い怖い!天界を追い出されたくせに、まだ同じことを繰り返すとは、不細工な上に頭まで悪いときておる。」
こうなったら、外に出た隙を狙って走るしか無いな。覚悟を決めて体力を温存しておくことにした。