第32話・かぐや誘拐される!
「みんな何処の学部に行くつもりなの?」
お昼休み、弁当を食べておったところ、松乃どのが聞いてきた。
「学部?」
「そっか、かぐやちゃんは日本の制度を知らないかもね!大学の学部のことだよ♪高校よりも専門的な知識を学ぶところかな。」
「ほう。そのようなところがあるのか。」
「そそ!竹水門学園は大学まであるし、かぐやちゃんの成績だったら何処の学部でも希望出来ると思うよ♪」
「皆はもう決めておるのか?」
「春樹は経済学部か?」
「そうだな。父の会社を継ぐかどうかは決めていないが、経営を学んでおいて損はないだろう。」
「そういう冬馬どのは何処なのだ?」
「俺は教育学部にしようかと思ってる。」
ふむ。皆ちゃんと将来を決めておるのだな。
「僕と松乃ちゃんは芸術学部だよ♪」
「秋人どのと松乃どのは二人で同じところへ行くのか?」
「同じ学部でも専攻は違うけどね。僕は何処でもいいんだけど、デザインも興味あるし、松乃ちゃんは日本芸術だったっけ?」
「そうだよ♪お花とお茶以外にも日本の芸術を学んでおこうかと思ってるんだ!」
「小梅どのはどうなのだ?」
「まだ迷ってるけど、教育学部がいいかなって思ってる。」
「そうか。皆、しっかり考えておるんだな。」
「そういうかぐやちゃんは何処にするの?」
何も考えておらぬ。何だか皆が大人びて見え、おいてけぼりにされた気分だ。
考え込んでおったら、春樹どのが何やら提案をした。
「かぐやさん、夏休みに大学のオープンスクールがあります。そこで色々な学部を見て回るのも参考になると思いますよ。良かったらご案内しましょうか?」
「では頼む。」
「ずるい!僕もかぐやちゃんと行きたい♪」
「ならみんなで行こうよ♪」
皆の行動力の速さには大分慣れてきたな。
「その前に、かぐやちゃんの誕生日近いんじゃぁない?」
「松乃どの、よく覚えておったな。」
「そりゃね♪どうする?パーティーでもする?」
「丁度、誕生日が満月の日なのだ。良かったら屋敷へ来るか?そこなら安全だし、皆に礼もしたいので、馳走を用意しておくぞ。」
「お礼なんていいよ!それよりプレゼントは何がいい?大体のものは持ってそうだけど…」
「では小梅どのの手作りで、ケーキをお願いしても良いか?」
「それでいいの?」
「充分嬉しいものだ。」
「分かった!とびきり豪華に作るね!」
満月まで残り一週間。その日も春樹どのが屋敷まで付き添ってくれることとなっておった。
「すみません、かぐやさん。理科研究室へノートを提出してきますので、教室で待っていて頂けますか?」
「分かった。本でも読んでおこう。」
「すぐに戻ります。」
暫く待っておると、桜小路どのが教室へ来た。
「竹野塚さん、春樹さまが先にリムジンで待っていて欲しいそうですよ。」
「そうなのか?」
窓の外を見ると、たしかに爺やのリムジンが停まっておるようだ。
「わたくしが、門まで付き添いさせて頂きますわ♪」
「世話をかけるな。」
下駄箱で靴を履き替え、桜小路どのと一緒に校舎を出ると、こっちよ!と腕を引かれた。
何だ?と思った瞬間、後ろから口を押さえられた!
「何をする…」
何かの薬品のようだ。そのまま意識を手放した。
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「かぐやさん、お待たせしました。」
教室で待っているはずのかぐやさんがいない。
まずい!あと一週間だと思って油断した!
急いで廊下へ出て、通りすがりの生徒へかぐやさんの行方を聞いた。
「かぐやさんを見なかったですか?」
「いいえ。見ていないです。」
「すみません、かぐやさんを見ませんでしたか?」
「桜小路さんと歩いていましたよ。」
「ありがとう!」
急いで外へ出て、かぐやさんのリムジンに行き、かぐやさんが居なくなったことを爺やさんに告げ、クラブ中の冬馬も協力してもらって学校敷地内を探しまわった。
その時、中庭を歩く桜小路さんを発見した!
「桜小路さん!」
「あら、春樹さま。ごきげんよう♪」
「かぐやさんをどこへやった!」
「何のことかしら?」
「廊下を一緒に歩いているのを見た生徒がいるんだ!」
「竹野塚さんなら、クラブに顔を出したいとおっしゃって武道場へ行かれましたわ。」
くそっ!冬馬がいる武道場でいなくなる訳がない!
「それより、今度サマーパーティーがありますの。ご一緒しませんこと?」
「桜小路さん、私を本気で怒らせないでください。」
桜小路さんを睨みつけて中庭の奥へ走って行き、抜け道が無いかもくまなく探した。
結局この日、かぐやさんは見つからなかった…