第28話・告白
新学期に入り、私が不在だった授業は、春樹どのがノートを取っておいてくれておった。
中を見てみたが、数学だけは難解であったので、ゴールデンウィークという連休に春樹どのが教えてくれることとなった。
そんな折、小梅どのに呼ばれた。
「松乃ちゃんのお誕生日が今月なんだけど、一緒にプレゼントを買いに行かない?」
「そういえば、誕生日には皆、パーティーをすると以前聞いておったが、それはしないのか?」
「お花の流派のお弟子さん達が毎年盛大にするみたいなの。だからプレゼントだけでもと思ってね。」
「そういうことであれば仕方ないな。プレゼントだけとしよう。」
松乃どのは目が大きく、決して美人の部類ではないが、明るく華やかな雰囲気がある姫君だ。装飾品などがよかろう。
放課後、早速アクセサリーショップへ入った。
「ほう、松乃どのに似合いそうな金剛石があるな。丁度、四月の誕生石と書いてあるぞ。」
「え?本物のダイヤモンド?!これ、高過ぎだよ!しかもカラット凄いしっ!」
「そうなのか?」
「松乃ちゃんも遠慮しちゃうと思うよ!」
そういうものか。もう少し下界の値段というものを勉強せねばなるまい…
「ここに、似たようなものが安価であるぞ。」
「本当だ。ジルコニアだね。」
「ジルコニア?」
「人工的に作られたダイヤモンドのことだよ!本物よりも安価で結構綺麗なんだよね。」
そういう物もあるのか。なかなか勉強になるな。
「ジルコニアのピアスだったら何とかおこづかいでも買えるかな。」
「ならば私は同じジルコニアのネックレスにするか。」
「いいかも♪きっと松乃ちゃんも喜んでくれるよ!」
早速、包んでもらい、カフェで珈琲を頂くこととなった。
「かぐやちゃん、実は…」
何やら言い難そうであるが、何かあったのか?じっと耳を傾けた。
「実は…私、冬馬くんが好きなの…」
…へ?
冬馬どのが好き?あの不細工三人衆の一人か?
「いやいや、小梅どのくらいの可愛らしさがあれば、もっと素敵な殿方がおろう。早まるでないぞ!」
「そんなことないよ!充分格好いいし…」
顔から火が出そうなくらい真っ赤になってはにかんでおる。
「小梅どの、顔が真っ赤になっておるが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ!」
「なら良いが…」
「でもたぶん、冬馬くんってかぐやちゃんが好きなんだよね。」
へ?それこそ何のことだ?
「いやいや小梅どの、勘違いも甚だしいぞ!」
「勘違いじゃぁないと思うけど、かぐやちゃんの気持ちも聞いておきたくて…」
「確かに面倒見が良い者だとは思うが、婚姻したいとは思っておらぬ。」
「そっか。かぐやちゃん相手だったら叶いそうもなかったから、安心しちゃった!」
「小梅どのが真剣であれば応援するが、本当に良いのか?」
「うん!冬馬君がいいんだ!」
「分かった。協力を惜しまないぞ。何かあったら言ってくれ。」
「かぐやちゃんありがとう!」
と、ここで時計を見た小梅どのが勢い良く立ち上がった。
「あっ!私そろそろバイトに行かないと!」
「そういえば以前も言っておったな。バイトとは何だ?」
「ファミレスで働いているの。親にばかり迷惑を掛けられないしね!」
「そうなのか。頑張ってくれ。」
「ありがとう!じゃぁ、また学校でね!」
小梅どのはもう働いておるのか。しっかりした姫君であるな。
しかし何故冬馬どのなのだ?理解に苦しむ…
数日後、春樹どのの邸宅へ数学を教えてもらう為に、お邪魔した。
部屋に私を通した春樹どのが、驚いたように私の首元を見ておる。
「何かついておるのか?」
「そのネックレス、どうしてかぐやさんが?」
「ああ、このクリスマスの時の紅玉か?小梅どのに頼まれて交換したのだ。」
「そうでしたか。」
何やらにこっと笑って嬉しそうであるな。何か良い事でもあったのであろうか。
「そういえばこの前、松乃どのの誕生日プレゼントを買いに行った時、小梅どのから冬馬どのが好きだと聞かされて驚いたのだ。」
「気付いていなかったのは、かぐやさんと冬馬だけだと思いますよ。」
「そうであったか。その時にクリスマスのプレゼントを交換して欲しいと言っておった意味が、やっと分かってな。」
「私にとっては幸運でしたね。」
「ん?何故春樹どのが幸運なのだ?」
「ふふ。内緒です。」
「そういえば春樹どのはいつが誕生日なのだ?」
「もう10日程過ぎましたよ。」
「え?パーティーとやらはしなかったのか?」
「両親とも海外でしたので、特に何もしなかったですね。」
「そうなのか。言ってくれれば何か用意したのだが、すまないな。」
「そのお気持ちだけで結構です。それよりも、そのネックレスを身に付けて頂いている事が、何よりのプレゼントになります。」
ん?自分がプレゼントしたものを私が付けるのが、何よりのプレゼント?春樹どのは変わったことを言うな。
それからは、勉強に集中した。
春樹どのの教え方は、分かりやすくて助かった。