第27話・居場所は下界
次の日、義兄上は婚姻の支度の為、実家に帰られたそうだ。
と言う事は、今日はやよい姉様を独占できる!
「やよい姉様、お茶でもご一緒いかがですか?」
部屋の前に座り呼びかけると、暫くして障子が開いた。
「かぐやよ、よく来てくれましたね。今日は一段と桃の花が綺麗です。庭でお茶を頂きましょう。」
「はい!」
やよい姉様と一緒に庭へ出た。婆やがお茶を立て、お茶菓子と一緒に頂いた。
「やよい姉様、私にはまだ特別な能力が備わっていないのですが、いつ頃から使えるようになりましたか?」
「まだかぐやには早いのではないですか?成人を迎えた後の話ですよ。」
「そうはいっても、どんな能力が使えるのかは気になるところです。」
「ふふ。そうですね。私は父上に買って頂いた鏡がきっかけでした。」
「私が下界に持っていっている鏡と同じものですよね。」
「そうです。二人で同じものを買って頂いてから、自分の能力に気付きました。」
「やよい姉様の能力のおかげで、下界に身を置いてもお話が出来て嬉しいです。」
「ただ、下界は遠い故、満月の時しかお話が出来ませんけどね。」
お茶を一服頂いて、一息つきながら二人で桃の花を眺めた。
「もしかしたら、かぐやの方がもっと素晴らしい能力を秘めているかもしれませんよ。」
「でしたら、瞬時に天界と下界を行き来できる能力が欲しいです。」
「おや?下界にも楽しみができましたか?」
「今の学校で初めて友人という者ができました。彼女たちは容姿に関わらず私を気さくに受け入れてくれました。彼女たちとも離れたくないのです。」
「そうでしたか。良い友人を持って幸せですね。」
「はい!」
それから数日後、やよい姉様と義兄上の婚姻の儀が行われた。
十二単で着飾り、結った髪、紅をひいた愛らしい唇、どれをとっても雛人形のように綺麗であった。
時折、義兄上と頬笑みを交わしておる。とても幸せなのであろうと見ているだけで伝わってきた。
私もあのように綺麗な花嫁になりたいものだ。隣は…
え?
自分でも驚いた!不細工三人衆の一人の顔が浮かんだのだ!
いや、有り得ない!そんな筈はない!すぐに頭を振り、残像を打ち消した。
数日後、やよい姉様と義兄上は、温泉地に旅行へ行ってしまわれた。
スマホも使えぬし、退屈な日々だ。学校が恋しいが、今は春休みだったか…
そうだ!皆に天界の土産でも買っておこう!
市場へ出掛け、皆に扇子を購入した。これなら下界でも使えるであろう。ついでに私のもお揃いで買った。
いよいよ下界へ帰る日が近づいてきたある晩、父上と母上に呼ばれた。
「かぐやよ。帝に天界で過ごせるようお願いにあがろうと思っておるが、その前にそなたの考えを聞きたい。」
「下界で楽しく過ごしておると、やよいからも聞いております故、無理強いをするつもりはありません。」
私の考えは決まっておった。
「下界には興味深いものが沢山あります。お許し頂けるのでしたら、もう暫く下界で暮らしとうございます。」
「分かった。追放期間が終わり、帝の許しが出たらすぐに使者を寄こすとしよう。それで良いか?」
「はい。」
やっと下界へ帰れる!それほど下界に馴染んでおるのだ。
逸る気持ちを抑え、帰りの身支度を整えた。
満月の夜、いよいよ下界へ帰る日だ。やよい姉様と義兄上も屋敷に戻って来られた。
「かぐや、また暫く会えなくなりますね…」
「やよい姉様、また沢山お話をいたしましょう。楽しみにしています。」
「かぐやにとって良い日々が過ごせますように…」
最後にやよい姉様はそっと私を抱き締めた。何も話さなくとも気持ちが通じておるようである。
私もやよい姉様の背中に手をまわし、使者が迎えに来るまでそのまま抱きあっておった。
…
久しぶりの下界だ!庭に降り立った私と婆やを、すぐに爺やが迎え出てくれた。
「爺や、何事も変わりはなかったか?」
「学校から新学期が始まったとの連絡がございました。テストを受けられておられぬようですが、成績優秀につき、そのまま進級との事です。」
「分かった。明日から早速学校へ行くとしよう。」
「かしこまりました。そのようにご用意させて頂きます。」
明日から約一カ月ぶりの学校だ。皆元気にしておるかな。
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三年生になっても、かぐやちゃんは来なかった。
二年生から三年生にあがる時にはクラス替えが無いので、席もそのまま残っている。
「はぁ…かぐやちゃんがいないとつまんないな~。」
「秋人、退屈そうだな。」
「そりゃそうだよ!かぐやちゃんの謎の生態は面白かったもん!」
「まぁな。テンカイヘ帰ってもう一カ月になるか…」
ため息をついて、みんなで外を眺めた。
次の日の朝、見覚えのあるリムジンが校門前に着いた。
「お、おい!春樹!あの車!」
「え?」
「もしかして、もしかするかも♪」
中から優雅に降り立ったのはかぐやちゃんだった。風になびく黒髪がスローモーションのように動き、かぐやちゃんの周りだけ神々しい光が満ち溢れているかのようだった。
「皆、おはよう。って何をそんなに驚いた顔をしておるのだ?」
「本物のかぐやちゃんだ♪」
「うわっ!」
後ろからタックルするように、松乃ちゃんが飛びついてきた!
「心配したんだよ!急にいなくなるし!」
小梅ちゃんも半ベソをかきながらかぐやちゃんに抱きついていた。
「どうした?皆何かおかしいぞ?ちゃんと天界へ帰ると知らせたであろう。」
春樹が珍しく嬉しそうな顔を浮かべたまま、かぐやちゃんに説明していた。
「かぐやさん、一時帰国なのか、ずっとなのかが分からなくて、みんな心配していたんですよ。」
「それは皆に迷惑を掛けてすまなかった。まだ文字を入れ慣れぬ故、言葉が足りなかったようだ。」
ん?かぐやちゃんが僕達三人の顔をじ~っと見始めた。
「どうしたの?何か付いてる?」
「い、いや、やっぱり無いわ…」
「え?何が?」
「こっちの話だ。そろそろ教室に行くか。」
「そうだね♪」
久しぶりに楽しい時間が戻ってきた気がした♪
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