第23話・スキー場との相性
修学旅行は、北海道のタワー型ホテルを1棟貸し切りであった。
それぞれの部屋の中に階段があり、一階の居間と二階の寝室に別れておる。メゾネットタイプと言うらしい。
小梅どのがぼそっと呟いておる。
「すごい…こんな高級なホテルなんて来た事がないよ。」
「そう?普通じゃぁない?」
「さすがは松乃ちゃんだね。かぐやちゃんの家の旅行もこんな感じ?」
「いや、あまり旅行というものには行っておらぬが、大体が屋敷と似たようなものだ。」
「旅行先でも純和風なんだね。」
そんな話をしながら室内を散策しておる時、松乃どののスマホが鳴った。
「もしもし♪秋人どうしたの?」
『助けて~~~!!!』
「ちょっと!どうしたの?何かあったの?」
『今からそっちに行ってもいい?』
松乃どのが電話口を押さえて私達向き直った。
「キング3がここへ来たいらしいんだけど、構わない?」
「いいよ。」
「構わぬ。」
電話を切り、程なくして不細工三人衆が私達の部屋へやってきた。
「助かったよ~♪」
「何があったの?」
春樹どのが苦笑いしながら説明した。
「部屋に入ってからずっとインターホンが鳴りっぱなしで、落ち着かないので避難させて貰いました。寛いでいるところ申し訳ありません。」
「そ~ゆ~ことね。」
松乃どのと小梅どのは納得したように頷いた。
「何故そんなにも来客が多いのだ?」
「かぐやちゃん、明日ってバレンタインデーだよね。だからみんな受け取ってもらおうと必死なんだよ。」
「そうか。そんなに沢山あるのなら、私のチョコレートはいらぬな。」
不細工三人衆がピクッと動いた。
「いるいる♪かぐやちゃんのチョコ食べたい!」
「俺ももらおうかな。」
「かぐやさんに用意して頂けるなんて幸せですね。」
「いや、しかし、食べ過ぎると歯が痛くなるであろう。無理はするな。」
「無理じゃあないから♪」
「ならば夕食前ではあるが、今出そう。」
机の上に用意したチョコレートを置いた。
「あれ?大箱だ…」
「世話になった者にあげると聞いておったので、是非小梅どのと松乃どのにもと思い、皆で食べれるものを用意したのだ。」
「…」
「…何か間違えたか?」
「ううん。何も間違えてないよ!友チョコ貰えるなんて嬉しいよ!」
「小梅どのにも喜んでもらえて、何よりだ。買ってきたものであるし失敗はない。」
「かぐやちゃん失敗しまくってたもんね~♪」
「松乃どの!それは言わないでくれ!」
「何?何?聞きたい♪」
結局不細工三人衆の好奇心に勝てず、松乃どのはチョコレート作りの話を始めた。食べながらいいツマミにされてしまった。
「松乃どの、もうその辺でやめてくれ…」
「え~!ここからが面白いのに♪」
「でも完璧なかぐやちゃんでも、そんな可愛い失敗があるんだね♪」
「失敗など、何も可愛く無いわ。」
思わずジロリと秋人どのを睨んだ。
「かぐやちゃん、お料理は全部婆やさんががするの?」
小梅どのが不思議そうに尋ねてきた。
「そういえば、小梅どのは台所仕事をすると言っておったな。私が幼少の頃、台所が珍しくて覗いておったら父上に見つかり怒られたのだ。身分が違う者が出入りするところには行くなと言われてな。こっぴどく叱られたので、それ以来台所へは入っておらぬ。」
「へぇ~、筋金入りのお嬢様なんだね。」
「何だか納得です。」
「テンカイってまだ厳しい身分制度が残っているんだな。」
皆は納得したように頷いておった。
不細工三人衆は夕食の後、自室へ帰って行った。インターホンに『起すな!』という貼り紙を貼ったらしい。おかげで朝起きたら、ドアが開かぬくらいチョコレートが積まれておったそうな。
あの三人は、そんなにも沢山の者を世話をしておるのか…感心であるな。
次の日、朝からスノボーレッスンであった。グループに別れてコーチのレッスンを受けるようだ。
「では、このように手を広げてバランスをとってください。重心を下げて。」
皆との旅行で教えて貰ったおかげで、何なく滑ることが出来た。
一人ずつ滑り、コーチがチェックをしておった時のことだ。小梅どのと私が順番待ちで並んでおったら、上の方から叫び声が聞こえた。
「止めて~!どいて~!」
振り向いた時には、スキーを履いた姫君が尻もちをつきながら目の前まで突っ込んできておった!
「危ない!」
ドン!
うわっ!身体が宙に舞った!
…
「二人とも大丈夫か?」
「私は大丈夫ですが、かぐやちゃんが…」
小梅どのの声が聞こえる。あれ?身体が動かぬ…
コーチが顔を覗き込んでおるのは分かるのだが、どうなっておるのだ?
「竹野塚さんは脳震盪を起こしているな。みんな、動かさないように!」
「は、はい!」
これが脳震盪か…珍しい経験をしたかのように、動かぬ身体に感心してしまった。
暫くすると動けるようになったが、救護室へ連れていかれた。
「軽い脳震盪ですが、24時間はあまり動かないように。」
「分かった。世話をかけたな。」
軽いため息とともに救護室を出ると、不細工三人衆が立っておった。
「かぐやさん、大丈夫ですか?」
「災難だったね~。」
「無理して動くなよ。」
「分かっておる。心配かけたな。」
最近、皆に心配をかけてばかりだ。どうもスキー場とは相性が悪いらしい。
午後からは部屋で過ごすため一人で暇をもてあましておったら、インターホンが鳴った。
「誰だ?」
「俺、冬馬。」
ドアを開けると冬馬どのが立っておった。
「どうしたのだ?」
「24時間は監視が必要だからな。俺が見ててやるよ。」
「このとおり元気だが。」
「動くなって!いいから大人しくしとけよ!」
「分かった。」
部屋の中へと促して、向かい合わせのソファーに座った。
「そういえば、以前冬馬どのが試合で脳震盪をおこした時も24時間監視が必要だと言っておったな。」
「念のためだ。もし頭痛や吐き気が出てきたら、我慢しないですぐに言えよ。」
「承知した。」
そういえば、冬馬どのもレッスンがある筈だよな。
「冬馬どのはコーチに教えてもらわなくても良いのか?」
「元々滑れるしな。」
途中で切り上げさせたのは申し訳ないが、皆が帰ってくるまでの退屈しのぎにはなった。 冬馬どのは本当に面倒見が良いな。
レッスンが終わって部屋に戻った小梅どのと松乃どのに、具合が悪そうだったりボーッとしたらすぐに医務室に連絡しろと言っておった。まるで世話を焼く婆やを見ているようで、思わずクスッと笑ってしまった。