第2話・初めての友達と余計な三人衆
道端先生が空いている席に座ってと、私を促した。隣の席は目が小さく笑うと愛嬌のある、なかなか可愛らしい顔つきの姫君であった。しかも、そのような可愛らしい姫君が私に微笑みかけながらに話してくれておる。
「私、有栖川小梅っていうの。かぐやちゃんって呼んでもいいかな?よろしくね。」
「こちらこそよろしく頼む。有栖川どの。」
「かぐやちゃんって髪の毛も綺麗だし、凄く美人だね。私のことは小梅でいいよ。」
へ?私が美人?下界の美的感覚はどうなっておるのだ?
驚きつつも、返事をした。
「小梅どので宜しいか?」
「何だか浮世離れしたいい方だね。好きに呼んでもらっていいよ!」
小梅どのはにこっと笑いかけてくれた。
私の髪の毛だけはやよい姉様と一緒で、艶のある真っ直ぐな黒髪なのだ。きっと凄く美人というのは髪の毛のことを言っておるのであろう。
私の容姿を蔑むことなく歓迎してくれることを嬉しく思った。
授業とやらが始まり、隣の小梅どのが教科書を見せてくれた。少し読み解くのに時間がかかりそうであるが、先生の話を聞いていれば難なくこなせそうであるな。
天界とは違う知識の習得方法に興味深く見入った。
休憩時間となり、もう一人の姫君が寄ってきた。
「小梅ちゃん!私にもかぐやちゃん紹介して♪」
「かぐやちゃん、こちら伊集院松乃さんよ。」
目は大きめだが、人懐っこい雰囲気が好感を持てる姫君だ。不細工さは私の方が勝っておるようであるが、何も引け目を感じておらぬであろう明るさと強さを感じた。
「はじめまして、竹野塚かぐやと申す。」
「松乃って呼んで!かぐやちゃんよろしくね♪」
「よろしく頼む、松乃どの。」
軽く握手を交わした。松乃どのも歓迎してくれておるようだ。それにしても下界では家族名ではなく個人名で呼ぶのだな。覚えておこう。
松乃どのから改めて尋ねられた。
「かぐやちゃんは何処から来たの?何だかちょっと日本の高校生と違う雰囲気があるけど。」
「私は天界から来たのだ。」
小梅どのが不思議そうに、首を傾げておる。
「…テンカイ?何処か外国かな?」
「そのようなものだ。」
松乃どのは細かいことには拘らぬらしい。すんなり受け入れておる。
「そっか!わらないことがあったら、何でも聞いてね♪」
「ありがとう、松乃どの。」
天界では上流貴族という身分にも関わらず、見た目の不細工さ故、姫君達から常に避けられておった。初めて気軽に声を掛けてもらえる友達という存在ができたようで、嬉しく思った。
松乃どのが一冊の本を取り出して、それを開いた。雑誌というものだそうだ。
「今、日本ではこんなファッションが流行っているんだよ♪」
「ほう、見せて頂こう。って、みんな細っ!」
こ、これは貧困層の写真集なのか?あまりにも細過ぎるではないか!
「みんな細くていいよね~♪私もモデルさんみたいに細くなりたい!」
「松乃ちゃんは充分細いよ!」
何故だか、小梅どのが松乃どのの細さを誉めておる。雑誌とやらに載っておる者達は食べ物にも困っておる集団であろう。こんなに細くなりたいだなんて、理解に苦しむな…下界の美意識はどうなっておるのだ?
眉間に皺を寄せながら雑誌を見ておると、後ろからいきなり抱きつかれた!
「何なに?もしかして俺のファン♪」
「ぎゃ~!!そのようなふしだらな行為!私を愚弄しておるのか!」
急いではね除け、後ろにおった者を睨みつけた。
「ゴメンゴメン!ちょっと実験ね!やっぱかぐやちゃんって反応面白い~♪」
抱きついてきたのはこの目が大きい者か!回し蹴りの構えを取ろうとすると、その者が自己紹介を始めた。
「僕は桃井秋人、秋人って呼んで!その雑誌のモデルしてるんだ♪」
「からかうのもその辺にしとけ。」
秋人どのの後ろから更に不細工三人衆の残り二名が話し掛けてきた。
「俺は金城冬馬だ。よろしくな。」
逆三角の者か。残りはおなごのような顔をした男だな。
「ふふ、本当に反応が初心で可愛いですね。私は浦和春樹と言います。生徒会長を務めています。」
破廉恥な行為に悪びれもせず、堂々と話し掛けてくる不細工三人衆に警戒心を抱いた。
「竹野塚かぐやだ。因みにそれ以上私に近づくな。」
抱きついてきた秋人どのから一歩引いた。
「もしかして男性恐怖症?僕が治してあげようか?」
「だからそれ以上近づくなと言っておろう!聞こえぬのか!」
横から小梅どのが私を引っ張り、助けてくれた。
「駄目よ!かぐやちゃんは外国から来たばかりなんだから、あまり馴れてないのよ!」
「え?何処から来たのですか?因みに私は中三までロサンゼルスにいました。」
浦和春樹どのが反応した。この者は異国に住んでおったのか。
「私は天界だ。」
「テンカイ?アジアの何処かの地名ですか?」
「そのようなものだ。」
所詮下界の人間だ。天界なんて知りもしないであろう。異国ということにしておくか。
ここで、ふと疑問に思った事を松乃どのに尋ねてみた。
「松乃どの、この三人衆に対して何故姫君達が騒ぐのだ?」
「モデルで可愛い秋人、綺麗な顔立ちのセレブ春樹、細マッチョで逞しい冬馬、三人揃ってキング3(キングスリー)って呼ばれてるんだよ♪」
キングとは王様の事であるよな…ますます理解ができぬ。すると、秋人どのが感心したように言った。
「見た目や家柄に囚われないのは、僕達にとって逆に居心地がいいかな!助かるよ♪」
ふむ。こいつらもやはり見た目に引け目を感じておるのか。皆もそれぞれ大変なのだな…
「今日はかぐやちゃんに日本文化を案内って事で、ゲーセンかカラオケにでもみんなで行かない?」
秋人どのが皆に何やら提案をした。そして皆が同意し始めた。
「いいね!バイトも無いよ!」
「俺も部活が休みだ。」
「行こう行こう♪」
「は?」
即決なのか?!皆の決断の速さにはついていけぬな…
「今日は帰りに職員室へ呼ばれておる故、私は無理だ。」
早々に話を切り上げ、その場を離れた。
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「かぐやちゃんって美人だけど変わってるね~。」
「やけに反応がうぶだし、古風な雰囲気だよな。何処かのお嬢様か?」
「男慣れしてないんだろ。ほっといてやれよ。」
「そう言われると余計に燃えるんだよね♪」
「悪いクセを出すなよ。」
不細工三人衆の会話なんぞ知る由も無い。
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何とか初日を乗り越えて帰宅しようと外に出ると、正門に人だかりができておった。またあの不細工三人衆か…ため息を付きながら通り過ぎようとした。
『すげぇ!リムジンだ!』
『何処の財閥のお迎えかしら。』
ん?不細工三人衆とは違うのか?もう一度人だかりの奥を見ると、爺やが大きな黒い箱の横に立っておるようだ。
「爺や、何をしておるのだ?」
その声でさっと人だかりが避けて、私の前に道が開いた。
そこまで避ける程、私は不細工か…軽く落ち込んだが、爺やに促されるまま黒い箱の中に入った。
黒い箱はリムジンという乗り物で、馬車や牛車の替わりらしい。乗り心地も悪く無いな。ちょっと気分を持ち直して屋敷へ帰った。
翌日から何故か私は知らぬ人間からも『かぐや様』と呼ばれるようになっておった。上流貴族の身分は知らぬ筈だが、何故様をつけるのだ?下界の人間の思考は不可思議な事が多いな…