表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/169

第19話・涙の初詣

 パーティーの次の日から、冬休みとなった。

天界では綺麗な雪が積もり庭の眺めが一段と美しくなる頃だが、下界では暖冬らしくまったく降っておらぬ。

今夜は満月。やよい姉様とお話が出来るのも今年最後のチャンスだが曇っておる。晴れてくれれば良いが…


そんな事を考えておった時、スマホが鳴った。


「もしもし。」

『春樹です。今お話ししても大丈夫ですか?』

「大丈夫だ。」


『お正月のご予定はありますか?』

「今のところ特には無いぞ。」

『良かった。一緒に初詣へ行きませんか?』

「ほう。ここにも初詣の習慣があるのか?」

『もしかしたらテンカイよりも人が多く賑やかかもしれませんが、近くの神社ならあまり混んでいないと思います。』

「分かった。では案内を頼む。」

『では楽しみにしていますね。』


はぁ…一つ溜め息をついた。やよい姉様ともこのくらい簡単にお話しできれば良いのにな…雲が覆いつくす空を恨めしく眺めた。

結局やよい姉様とお話しは出来なかった。顔を見れば罵る嫌な輩も多いが、天界が恋しい…そう思った。



 「かぐや様、明けましておめでとうございます本年もよろしくお願い致します。」

「爺やと婆やもおめでとう。今年もよろしく頼むぞ。」


天界から爺やが取り寄せたというお節料理を頂いた。爺やの能力は物を手元に引き寄せるのみだが、便利なものだ。一緒にやよい姉様からの手紙も受け取った。



<明けましておめでとう。


下界のお正月はいかがかですか?


私は求婚者の中から一人選びました。


三日間の婚約の儀を終え、父上の許しが出ましたので、冬が終わり桃の花が咲き乱れる頃、婚姻の儀を行う予定です。


かぐやも参列できるよう天界の帝にも働きかけをしております故、もう少し待っていて下さい。


また会える日を楽しみにしていますね。


やよい>



「爺や、婆や!」

「かぐや様、何でしょう。」

「やよい姉様の婚姻の儀が決まったぞ!」

「左様でございますか!それはめでたい!」

「すぐに御祝いを用意致しましょう。」

「うむ。何か下界で良い物を探さなければなるまい。」


ふと、婆やが外を見た。


「おや、来客のようじゃ。外の様子を見て参ります。」


席を立ち、来客の確認をした婆やが私を呼びに来た。


「明けましておめでとうございます。かぐやさん、お迎えに来ました。」


そこには着物を着た春樹どのが立っておった。


「明けましておめでとう。春樹どのが着物とは珍しいな。」

「お正月くらいはと思いまして、着てみました。いかがですか?」

「うむ。何処ぞやの商売をしておる若旦那のようだ。」


春樹どのは笑いを堪えながら、婆やに、帰りも送りますと告げた。


「神社が混んでいたら、離れないように手を繋いでもいいですか?」

「私は幼子ではないぞ。」

「ですが、一旦離れてしまうと、混雑する場所はスマホも繋がりにくいので、待ち合わせも大変ですよ。」

「それならば仕方あるまい。」


しかし、律儀に聞いてくるな。初めて合った時には…

ふふ!思い出し笑いをしてしまった。


「何か可笑しかったですか?」

「いや、初めて合った時には、いきなり私の手に接吻をしておったが、今では律儀に聞いてくるなと思ってな。」

「ふふ。二度と近寄るなって怒られてしまいましたね。」

「よく覚えておるな。」


「あの時は失礼しました。海外ではあれが女性に対する挨拶なのです。」

「そうなのか?」


そんな話をしているうちに、神社へ着いた。参道には沢山の小さな店が並んでおる。


「これは凄い!人も多いし、賑やかだ!」

「花火大会がある夏祭りはもっと屋台が凄いですよ。今年は一緒に行ってみましょうね。」


店も気になるが、春樹どのの進言により、まずはお参りをする事となった。お賽銭を入れて願掛けをするのは天界と同じようだ。


ぱん!ぱん!

一礼して願掛けする。


<やよい姉様が幸せなご家庭を築きますように。>

<婚姻の儀には天界へ帰れますように。>

<会えますように…>


「かぐやさん?」


呼ばれて顔を上げると、春樹どのが何故かびっくりしておる。


「かぐやさんこちらへ…」


手を引っ張られ、神社の裏手で座らされた。


「どうかしたのか?」

「それは私の台詞です。何故泣いているのですか?」

「え?」

「気付いていなかったのですね。」

「す、すまぬ…天界におる父上、母上、やよい姉様の事を願っておったら会いたくなってしまって…」


急いで頬に流れた涙を拭いた。


「ご家族から離れてよく頑張っていますね。そんな強いかぐやさんを尊敬しますが、たまには力を抜いて下さい。」

「かたじけない…」


また涙が溢れてきて、暫く泣いてしまった。春樹どのは黙って私の隣に座っておった。



 結局、参道の店には寄らず、そのまま帰宅する事となった。帰り道、春樹どのに一つのお願いをした。


「皆には心配をかけたくない。すまぬが今日の事は黙っておってはくれぬか?」

「分かりました。私とかぐやさんの秘密ですね。」

「よろしく頼む。」


「では、私からもお願いがあります。」

「何だ?」

「私の前では我慢をしないで下さい。今日のように何か思うことがあった時には私を呼んで下さいね。」

「ありがとう…」


弱音を吐くのは、弱き者がする事と思っておったが、弱音を吐ける相手がおると言うのは、逆に心強いものなのだな…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ