第17話・顔が赤くなる流行り病
週末、ショッピングモールで待ち合わせであった。
小梅どのはすでに着いており、二人で話しながら過ごしておったら、前方に手を振りながら駆け寄ってくる松乃どのが見えた。
「かぐやちゃん、小梅ちゃんお待たせ♪」
「いや。大丈夫だ。」
「で、何を買うか決めた?」
「殿方に差し上げる品を用意した事が無いので、教えてはくれぬか?」
「おっけい♪」
「で、松乃どのは何にするつもりなのだ?」
「私はメンズネックレスにしようかと思ってるんだ!みんなカッコいいし♪」
ん?聞き間違えでなければ、皆がカッコいいと言ったか?
いや、きっと空耳であろう。ここは聞き流しておいた方が無難か…
「かぐやちゃん、どうしたの?難しい顔してるよ!」
「いや、何でもない。耳から聞こえる音と脳の認識の違いについて、考えておっただけだ。」
「もう、テスト終わったんだから難しい事は忘れてよ♪」
「善処しよう。」
「ところで、小梅どのはどうするのだ?」
「私はおこづかい少ないし、スポーツタオルとバッグくらいかな。」
「それは、冬馬どのしか使わないのではないか?」
「そ、そうかなぁ…」
小梅どのの顔がまた赤くなっておる。
「小梅どの、具合でも悪いのか?また顔が赤くなっておるぞ!」
「え?ど、何処も悪くないよ!」
それを見ておった松乃どのが溜め息をついた。
「かぐやちゃんには恋のキューピッドは難しいみたいね。」
「キューピッドとは?」
「縁結びってこと♪」
「も、もう!松乃ちゃんからかわないでよ!」
「小梅ちゃん、ごめん、ごめん♪」
「すまぬが二人の言っている意味が全く分からぬ…」
「また今度、ゆっくり教えてあげるね♪」
「よろしく頼む、松乃どの。」
結局、小梅どのはタオルとバッグのセット、松乃どのはネックレス、それぞれ宣言どおりの物を購入した。
「かぐやちゃんはどうする?」
「この時計などは如何であろうか。皆が使えるであろう。」
「へぇ~、って、この値段の時計?高校生がするプレゼントじゃあないよ!」
「高過ぎるって!」
二人して驚いておる。
「そうなのか?単に殿方に合いそうだと思ったのだが…」
「かぐやちゃん、一体いくら持ってきたの?」
「現金ではなく何やらこんなカードを渡されておる。」
「うわっ!上限無しのブラックじゃん!」
「これで買い物が出来ると婆やから渡されたのだが、違うのか?」
「違わないけど、もっと値段下げて!」
小梅どのは、初めて見た!と言っておる。この黒いカードとは現金とは違うようだが、そんなに珍しいものなのか。
そしてプレゼントは二人のアドバイスのもと、自分で声を録音できる目覚まし時計となった。プレゼントは値段ではないとのことで、私の声を録音するらしい。
「ところで松乃どの、何を話せば良いのだ?」
「たぶんかぐやちゃんの声ならみんな喜ぶと思うけど、色気たっぷりの方がいいかな♪」
「い、色気だと?無理だ!無理だ!」
「いい作戦だと思ったのにな~。」
助けを求めるように小梅どのを見た。
「優しく起こすのはどう?癒し系狙いで。」
「私が癒し系か?それこそ無理だ!」
結局、『朝だ!起きる時間になったぞ!』と普通に録音し、店で包んでもらった。
ランチという名のお昼御飯をカフェで頂いた。
初めてできた友人との食事は楽しい。小梅どのと松乃どのは私を容姿で蔑むことはせぬ故、とても心地よく過ごせる二人なのだ。
やよい姉様の言う容姿に拘るなというのは、こういうことなのであろうか。私もこの二人のように広い心を持たねば。
「そうそう!パーティーは春樹会長の邸宅ですることになったからね♪」
「松乃どの、いつの間に決まったのだ?」
「秋人と話をして勝手に決めちゃった♪」
「私が文字を打つのが遅い故、考えておる間に決まったのかと思ったぞ。」
「あはは!そんな訳ないじゃん♪」
ふと、先ほど買い物中のことを思い出し、松乃どのに聞くことにした。
「ところで、さっきの顔が赤くなる現象についてはどうなのだ?何か流行り病なのか?」
「ぷぷ!本当にかぐやちゃんは発想が面白いよね♪」
「かぐやちゃん、その話しはもういいから…」
小梅どのがまた赤くなってきた。
「小梅ちゃん可愛い♪たしかに病かもね!しかも医者にも治せないってやつ?」
「そ、そうなのか?それは大変ではないか!」
「大丈夫だよ♪そのうち収まるところに収まるからさ!」
ふむ、そのような病があるのだな…
「かぐやちゃんは、その…男性を見て赤くなることはないの?」
小梅どのがおずおずと尋ねてきた。
「その流行り病は殿方を見て赤くなるものなのか?」
ますます赤くなる小梅どのが俯いてしまい、代わりに松乃どのが答えてくれた。
「あながち間違いではないね。」
「ますます不可思議だ…」
「そのうちかぐやちゃんにも分かる時が来るよ♪」
帰宅後、パーティーの予習をした。初めての参加となれば皆に迷惑を掛ける訳にはいくまい。早速スマホで検索をしてみた。
ん?クリスマスパーティー必須アイテム?
この赤い服がか?ふむふむ。サンタとやらの服のようであるが皆も着て来るのであろうか…
女性用はミニスカサンタ?うわっ!こ、こ、これは短すぎだ!
パーティーの定番ゲーム?王様ゲームとは何だ?
王様になった人が命令する。よくある命令はキス♪
き、キス?いわゆる接吻だよな!
こんな破廉恥なゲームなんて、出来るか!
皆の高揚ぶりとは逆に、気分が重いまま、パーティー当日となってしまった。