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第32話・幸せな時間

 本邸から夕食を運んで貰い、春樹どのと二人で頂いた。その時に、今までのいきさつを話してくれた。


「爆風で飛ばされて、必死に這って逃げたのですが、力尽きてしまいまして…気付いたら、部族の集落でした。狩りに来ていた時に、行き倒れた私を見つけてくれたようです。」

「そうであったか。だから遺体が見つからぬと言われておったのだな。」

「言葉も通じませんし、電話など無い集落ですし、どこへ行けば街に行けるのかも分からない程、見渡す限り密林でしたから、その集落から出ることも出来ずに三年が経ってしまいました。」


下界でそのような所があるのだな。妙に感心しながら話を聞いた。


「それから偶然といいますか、イギリスのテレビ局が部族の取材に来まして、お願いしてインドのニューデリーまで連れて帰って貰いました。大使館へ行って両親に連絡を取り、すぐに特例で緊急帰国となったのです。すれ違いだったみたいですね。」

「そうであったのだな。」


春樹どのは、私をふわっと優しく抱き締めてきた。


「ありがとう、かぐや…」

「ん?」

「私が生きていると信じてくれて…私を待っていてくれて…」

「そんなの当たり前であるぞ。」

「部族にいた時、ずっとかぐやとまだ見ぬ葉月の事を想っていました。早く二人に逢いたいという気持ちだけが、私の拠り所でした。」


そっと春樹どのの腕の中で、顔を上げた。春樹どのの顔が傾き、静かに目を閉じると、触れるだけの優しい口付けを落とされた。


「もっと…」


私の催促にふわっと笑って、春樹どのは再び口付けを落としてきた。


「もっと…」

「ふふ。そんな事を言われると止まりませんよ。」

「良い…」


「かぐや…」

「ん?」

「こんな顔になってしまった私を受け入れて貰えますか…」


そっと、春樹どのの頬に残る火傷の跡に手を添えた。


「何を言っておるのだ。こんなにも大変な思いをして戻ってきてくれたのであろう。よくぞ無事で…」


自ら顔を近づけ、労るように火傷の跡へ口付けをした。


「ありがとう、かぐや…愛してる…」


春樹どのは愛おしそうに微笑みながら私の頬に手を添えたかと思うと、頭の後ろに手を回し、熱く深い口付けを落としてきた。


二度と離れたくない…

寸分も離れぬよう春樹どのの首に手を回し、しがみ付いた。


ベッドルームに入るとすぐに服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になり、夢中になってお互いの温もりを求め合った。


「ん…」


呼吸を乱されれば乱されるほど、春樹どのへの愛おしさが増していく…

この幸せを何と表現すれば良いのだろうか。“愛している”という言葉だけでは足りぬ…


「春樹…」


もどかしい程の愛おしさを伝えるよう汗ばむ背中を抱き締め、幾度となく身体を重ね合った。



チュン、チュン…


…ん。


何だか温かい…触れあう素肌の温もりだ…


そうだ、昨日、春樹どのと再会出来て…

そっと目を開けた。目の前にはカーテンから漏れる朝日を背に、微笑む春樹どのの顔があった。


「かぐや、おはよう。」

「おはよう。やはり夢ではないのだな…」

「ふふ。昨夜かなり実感して頂いたかと思ったのですが。」

「そ、それは…」


一瞬で頬に熱が集まってきた。


「ふふ。頬を赤らめる顔も久しぶりですね。」


春樹どのの趣味は、月日が経っても健在のようだ…

抱き締める腕に少しだけ力を入れられ、私は春樹どのの胸に顔を埋めた。


「しばらくこのままで…もう少しかぐやを感じていたい…」

「私も同じだ。再びこのような幸せな時間が訪れようとは…」


春樹どのが愛しむように抱き締めながら私の頭を何度も撫で、二人で甘い余韻に浸っておった時、トントン!と元気よく階段を上ってくる足音が聞こえてきた。


「ま、マズイ!葉月だ!」

「ふふ。このままでは駄目ですか?」

「当たり前であろう!二人とも何も着ておらぬではないか!」


慌てて着る物を探したが、服は脱ぎ捨てて点在しており、もう間に合わぬ!

ガバッ!と頭までシーツの中に潜り込んだと同時に、ドアをノックする音が聞こえた。


「ちちうえ、ははうえ、はづきです!」

「どうぞ。」


ガチャッ!とドアが開く音が聞こえ、葉月が部屋へ入ってきたようだ。


「葉月、おはよう。どうしたんだ?」

「…ちちうえ、おようふくはきないのですか?」

「今、着替えようと思って脱いだところなんだよ。」

「ははうえは?」

「まだ寝てる。遅くまで起きてたから、もうちょっと寝かしてあげてくれるかな。」

「わかりました!」


「ところで何か用があったんじゃぁないのかい?」

「りょうりちょうさんが、あさごはんのりくえすとがほしいといっていました。」

「そっか。葉月はおつかいで来てくれたんだね。和食がいいと伝えてくれるかな。」

「わかりました!」


再びドアが閉まって元気よく階段を下りて行く音が聞こえ、そっとシーツから顔を出した。


「ふう…焦ったぞ。」

「ふふ。このまま朝を迎えるのは、ちょっと考えないといけないかもしれませんね。」

「そうだな…」

「では、せっかく時間も出来ましたので。」

「え?」


ガバッ!と天井が視界から遮られ、目の前に春樹どのの顔が迫っておった。


「じ、時間は無いであろう!食事が運ばれて来るぞ!」

「大丈夫です。葉月の報告を聞いたら、遠慮して食事の時間を遅らせてくれる筈ですから。」

「そ、それは皆に筒抜けということであるのか!」

「そんなに焦らなくても、手遅れだと思いますよ。諦めて下さいね。」


春樹どのは、有無も言わさぬ笑顔を浮かべて私に深い口付けを落としてきた。


「ん…」


結局は春樹どのの甘さに勝てぬのだ。


やっと訪れた幸せな時間を噛みしめるように、濃厚で甘いひとときを過ごした。




  永遠に幸せな時間が続きますように…

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