第31話・再会
葉月も幼稚園に慣れ、楽しく通い始めた頃、邸宅へ秋人どのが私を訪ねてきた。
「かぐやちゃん、久しぶり~♪」
「秋人どの、いきなりどうしたのだ?松乃どのは一緒では無いのか?」
「…うん。ちょっとね。それより、そろそろ親族会議の時期だよね?春樹のお父さんとお母さんもいる?」
「本邸におるぞ。二人に話なのか?」
「可能ならかぐやちゃんも一緒に聞いて欲しいかな~なんて。」
何やらいつもの歯切れの良さが無いようだ。秋人どのと二人で本邸に移動し、お父様とお母様に時間を取って貰った。
「秋人くん、久しぶりだね。」
「活躍は色々と聞いていますよ。」
「どうも~♪って、今日は三人にお話しがあって来ました。」
ただならぬ雰囲気が漂い、姿勢を正して耳を傾けた。
「ぬか喜びになるかもしれないので、お伝えするかどうか迷ったのですが…かぐやちゃん、鈴木さんって覚えてる?」
「カメラマンのか?」
「そうそう♪インドの森林地帯に部族だけで生活している村があって、外との交流ってまったく無いらしいんだ。で、鈴木さんの現地の知り合いがそこの取材に同行したらしいんだけど、日本人だと言っていた人が住んでいたんだって。」
「日本人?」
「事故現場からちょっと離れてるし、人伝だから微妙なんだけど、もしかして春樹じゃぁないかっていうことなんだ。」
「何だって?!」
思わず立ち上がって前のめりになった。
「だ、だから、はっきりとした情報では無いんだけどさ。もしかしたらって思ったんだ。」
「秋人くん、ありがとう。具体的な場所は分かるかい?」
「それが、インドの国境沿い近くって事だけなんです。」
「それを聞いただけでも助かるよ。早速、捜索隊を向かわせよう。」
「お父様!私に行かせて下さい!」
「かぐやさんが?」
「はい!私の能力ならすぐに見つけれるかもしれません!」
「…能力?」
あっ!マズイ!
「えっと…第六感と言いますか…」
何かを悟った秋人どのが、フォローしてくれた。
「夫婦だけに通じるものじゃぁないですかね♪」
「はは。流石はかぐやさんだ。だったら行って来なさい。同行はプライベートボディガードを付けるかい?」
「いいえ、出来れば私の国の者にお願いしたいと思います。丁度、明日が満月ですし…」
「満月?」
「い、いや…明日には身内が遊びに来ると言っておりましたので…」
「そうか。ならば頼んだよ。」
「はい!」
すぐに屋敷へ行き、天界へと向かった。家族に事情を話し、車の運転が出来る爺や、世話役の女中が一人、何かあった時のボディガードとして柳本どのが同行する事となった。
翌日、満月が輝き皆が下界へ降りてきたと同時に、インドという国に向かった。早速、国境に近い海沿いのホテルで地図を広げながら陣営を組んだ。
「秋人どのの話では、国境付近という事だ。ここから北部に向かって国境沿いに車を走らせ、森林が近いところで能力を使ってみよう。」
私の能力は下界から下界への移動はできぬ。天界を介しても、元にいた場所の近辺にしか行けぬのだ。ホテルからも一度天界へ戻って、春樹どのが居る場所と念じてみたが、近くには居ないようであった。
「では、早速車を調達して国境を移動してみましょう。車に目張りをすれば、能力を使っても大丈夫かと思います。」
「爺や、頼んだぞ。」
車は荒れた道でも走れる車を調達し、着いた日から捜索に当たった。
「まずはこの辺りの森から始めましょうか。」
「分かった。ではやってみる。」
天界の部屋へ…一度天界へ行き、春樹どのが居る場所へ…と念じてみたが、無理であった。仕方なく車へ戻った。
少し走らせて、また念じて…そんな事を繰り返しておったが、その日は見つからなかった。
翌日も国境沿いを走ってみたが、収穫は無かった。
「捜索しながらもう少し北部の街まで行って、そこで宿を取ろう。」
「能力を使い過ぎです。昨日の宿に戻ってお休み下さい。またかぐや様が倒れてしまいますぞ。」
「このくらい大丈夫だ!」
「大丈夫ではありません!冷静になって下さい!」
「今しか捜索はできぬのだ!何の為にここまで来たのだ!」
車中、柳本どのと言い争いになってしまった。爺やが仲裁に入り、今日は捜索を打ち切り、ひとまず北部の大きな街まで移動して宿を取ろうという事になった。
大きな街に入ると、やっとスマホが通じたとばかりに、お母様から電話がかかってきた。
『かぐやさん!急いで戻ってきて!』
「え?まだ捜索は終わっておりませんが…」
『いいから、急いで!大変なの!』
「わ、分かりました!」
電話を切って、皆に日本へ戻る事を告げた。もしかしたら葉月に何かあったのであろうか…
そのまま国際空港へ向かい、日本へ帰国した。
爺やのリムジンで邸宅まで送ってもらい、すぐに門を潜った。
「きゃっ!きゃっ!」
あれ?本邸の庭から葉月の元気な声が聞こえる…
不思議に思いながら庭を覗いてみた。
「春樹…」
そこにはお父様とお母様、そして葉月と遊ぶ殿方がおった。かなり痩せておるが、春樹どので間違いない…
まるで幻を見ておるような感覚に陥り、その光景を前に、立ち竦んでしまった。
「あっ!ははうえおかえりなさい!」
私の姿に気付いた葉月が声をかけてきた。その声に殿方が私を振り返った。
間違いなく春樹どのだ。頬に火傷の跡があるが、春樹どのなのだ。
春樹どのは、ゆっくりと微笑みながら私に歩み寄り、目の前で立ち止まった。
「かぐや。遅くなりました…ただいま。」
「…本当に春樹なのだな。夢では無いよな…」
「はい。足もありますから幽霊でも無いですよ。」
「春樹~~!!」
思いっきり春樹どのの胸に飛び込んだ。
うっ、うっ…
込み上げてくるものが抑えきれず、涙が次から次へと溢れ出してきた。
「…ご心配お掛けしました。」
「良い…グスッ…戻って来てくれると信じておった…」
春樹どのは私の涙が落ち着くまで、ずっと優しく抱き締め、頭を撫でてくれた。
『葉月、今日は私と一緒に寝ましょうね。』
『おばあさま、えほんをよんでくださいね。』
『ふふ。分かりました。』
涙も落ち着いた頃、気が付けば庭から誰も居なくなっておった。
「かぐやさん、我が家へ戻りましょうか。」
「そうだな。」
「インドまでの旅、お疲れ様でした。」
微笑んだ春樹どのに肩を抱かれ、別邸へと二人で戻った。