第27話・秋人のプロポーズ大作戦
秋の気配が漂う頃、松乃どのから電話があり、華道の展示会とパーティーへ誘われた。
『今回は私の家元後継者指名の披露も兼ねてるから、絶対に来てね♪』
「松乃どのの晴れ舞台であるな。絶対に予定を開けておくぞ。」
松乃どのもいよいよ家元の後継者指名か…
皆の中でも明るくてノリが良いが、実は一番の努力家で堅実な考え方を持っておったりするのだ。感慨深く思いながら、着て行く着物を身繕った。
気持ちの良い秋晴れの日であった。松乃どのの家元後継者指名の披露パーティーが展示会と共に行われた。
「かぐやさん、どうぞ。」
「ありがとう。」
春樹どのにエスコートされながら、車から降りた。春樹どのも私に合わせて着物を着て出掛けた。
ロイヤルインフィニティホテルのロビーで、皆と待ち合わせをした。道場で会っておる冬馬どの以外は、話をするのも久しぶりであった。
「かぐやちゃん!久しぶり!」
「小梅どの、元気であったか?友馬も久しぶりだな。」
小梅どのは第二子を懐妊しており、少々お腹が膨らんできておった。
「いつ頃が予定日なのだ?」
「4月だってさ。もし早く産まれたら3月になっちゃうかも。」
「性別は分かっておるのか?」
「女の子だって!」
「友馬はお兄ちゃんになるのか。」
友馬にそう話し掛けると、3歳になった友馬は恥ずかしそうに小梅どのの後ろへ隠れた。
「ふふ。恥ずかしがっておるぞ。」
「そうなんだよね。って、友馬!スカートの中に入らないで!」
相変わらず友馬に振り回されておる小梅どのに、笑ってしまった。
「かぐやちゃん、無事に戻ってきて良かったね♪」
「秋人どのにも心配を掛けたようであるな。」
「ホントだよ!春樹のこと、よろしくね♪」
「ふふ。まるで保護者のようであるな。」
皆が揃ったところで、パーティー会場へ入った。
『見て!キング3とかぐや様だよ!』
『卒業してから、美しさに磨きが掛ったみたいだわ!』
『キング3も大人の魅力が重なって、益々素敵♪』
「なぁ、私達はやけに注目を浴びておらぬか?」
「久しぶりですね。私達の事を知っている人が居たのでしょう。気にしないでいいですよ。」
「今日の主役は松乃どのであるしな。」
パーティーが始まり、松乃どのは家元を継ぐ事への決意を堂々としたスピーチで披露しておった。パーティーも中盤になり、私達のところへ松乃どのが挨拶に来た。
「今日は来てくれてありがとう♪」
「堂々としたスピーチ、中々良かったぞ。」
「ホント?かなりしごかれたんだよ~!大変だったんだから。」
「ふふ。その成果は出ておったぞ。」
「松乃さん、家元後継者指名おめでとうございます。もしパーティーの後、お時間があればみんなで食事にでも行きますか?」
「春樹、ありがとう!でも、この後は秋人が一人暮らしするマンションを見に行くんだ♪」
「それでしたら、またの機会にみんなでお祝いしましょうね。」
松乃どのが他の招待客の元へ去って行き、皆で秋人どのに目線を向けた。
「一人暮らしのマンションね~。」
「絶対ファミリータイプだな。」
「やっとですか。」
「ふふ。幸せになると良いな。」
秋人どのは珍しく表情を崩して、照れくさそうにしておった。
「やっぱ分かるよね~♪無事にOKを貰えるように祈ってて!」
秋人どのも重大な決意を持っておるようだ。頑張ってくれ。
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松乃ちゃんには、一人暮らしをするマンションを買うと言った。それを信じているようだ。でも、他のみんなには分かっちゃったみたいで、少し照れくさかった。
パーティーが終わり、ホテルのロビーで松乃ちゃんを待って暫くすると、着物から洋服に着替え終わった松乃ちゃんが出て来た。
「お待たせ~♪やっぱ着物はキツいや!」
「お疲れ様!すぐに出れる?少し休んでから行く?」
「大丈夫だよ♪どんなところに秋人が住むのか、早く見たいもん!」
「りょ~かいっ!」
タクシーを捕まえて、マンションの住所を告げた。
「あれ?ウチの近く?」
「そそ!だって近い方がすぐに逢えるし、便利でしょ♪僕の会社にも電車一本で行けるしね!」
「そっか!いい所見つけたね♪」
よし!場所は気に入って貰えたみたいだ!
そして、駅から歩いて10分のタワーマンションに着いた。
「うわ~!ここって凄く広いんだよね!確かワンフロアに2世帯って聞いたけど。」
「そそ!あまり狭くても寛げないしね♪」
「まぁ確かにね♪」
事前に不動産屋さんから借りた鍵を持って、エレベーターに乗り込んだ。実はすでに仮押さえをしてある部屋だ。
「ささ、入って!入って!」
「おじゃましま~す♪って、めちゃめちゃ広いじゃん!」
「んじゃ、部屋を案内するね♪」
台所、バスルーム、ベッドルーム、順番に見て回った。
「凄いね!何部屋あるの?」
「4SLDKかな♪で、最後はこの部屋だよ!」
最後の部屋へ入るように促した。
「でもモデル辞めたし、衣裳部屋も要らないよね?」
「うん、要らないね。ちなみにここは子供部屋の予定だよ♪」
「…え?」
驚いた松乃ちゃんが振り向いた。
「松乃ちゃん、結婚しよう。」
「…」
「家元になったら松乃ちゃんの実家に入ると思うけど、それまではここで一緒に暮らそう。」
「もしかしてウチの実家から近いマンションにした理由って…」
「モチロン松乃ちゃんが実家に帰りやすいようにだよ♪ここなら車を運転しない松乃ちゃんでも、自転車でピューっと帰れるしね!」
ダイヤモンドが輝く指輪を取り出して、黙りこむ松乃ちゃんの手を取った。
「この指輪、左手にはめてもいい?」
「…うん。」
松乃ちゃんの指にそっとはめた。剣山や花をよく触るせいか、ちょっと傷がある、でも愛おしい手だ。
「私の手、あまり綺麗じゃぁないから、指輪に負けちゃいそうだね。」
「頑張っている証だよ。とっても綺麗だよ…」
手の甲に、チュッ!とキスをした。
「で、返事は?まだ聞いてないけど。」
「感動しちゃって…こちらこそよろしくお願いします♪」
「やった~♪」
ギュッ!と松乃ちゃんを抱き締めて、やっと一緒になれる実感を味わった。
「松乃ちゃん、ずっと一緒にいようね♪」
「うん♪」
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翌日、嬉しい知らせが入った。
「春樹!K.netにメッセージが入っておるぞ!」
「私も今、見ました。11月22日に入籍と結婚式だそうですね。」
「平日だよな?何か意味がある日なのか?」
「その日は1122(いいふうふ)の日なのですよ。」
「なるほどな。」
秋人どの達は、異国で結婚式を行いたいという希望であったらしいが、小梅どのの懐妊もあり、どうせなら皆と同じ式場が良いとのことで、いつの間にか秋人どのが予約しておった11月22日にインフィニティフォレストホテルで行われた。
一番先に恋人となり、一番後に婚姻となった二人に、惜しみない祝福を送った。