第25話・原因究明
夏の日差しが照りつける頃、帝から呼ばれて宮廷へ出向いた。
「かぐや、今年は害虫の被害も少なく、久しぶりの豊作となりそうだ。」
「それは良かったです。道場へも読み書きを教えて欲しいと、子供達だけでなく大人達も来ておるようでございます。」
「これもそなたが私財を投げ打ち、下界の知恵を生かしてくれたおかげである。何か褒美を取らせよう。」
「褒美だなんて、恐れ多いです。これは薬を作ってくれた皆のおかげにございます。」
「だが、そなたの知恵と行動力が無ければ果たせぬ事であろう。何でも良い故、遠慮なく申せ。」
「…今すぐには思いつきませぬ故、暫く考えさせて頂いても宜しいでしょうか。」
「では、何かあればすぐに申すが良い。」
「ありがとうございます。」
深々と帝に頭を下げて宮廷を後にし、下界へ戻り、早速勤めから帰ってきた春樹どのに報告をした。
「それは良かったですね。」
「大人も子供も、今では道場へ通う者が絶えぬのだ。」
「かぐやさんの高校の時からの素敵な夢が、現実になりましたね。」
「私一人の力では無い。春樹どのにも薬の存在を教えて貰っておるし、感謝しておるぞ。」
「ふふ。私はスマホで検索しただけですよ。」
春樹どのは、微笑みながらそっと私の腰を抱き寄せた。
「本当に誇りに思います。こんな素敵な奥さんと一緒になれるなんて、私は果報者ですね。」
ま、また、春樹どのの色気がダダ漏れである…
「わ、私こそ果報者であるぞ…」
「ふふ、嬉しいですね。せっかくの金曜の夜ですし、赤く染まったかぐやさんを頂きたいところですが、先に夕食を頂きましょうか。」
「も、勿論だ!」
その時、ふと思い出した。確か次のチャンスは三日後の月曜日くらいであったよな…週末は何としてでも拒否せねば!
夕食を食べ終わり、メイドさんに片付けて貰ってソファーで寛いでおる時、春樹どのが微笑みながら軽く私を抱き寄せてきた。
「一緒にお風呂に入りませんか?」
ま、まずい!このダダ漏れの色気に流されぬようにしなければ!
「き、今日は疲れておる故、一人でゆっくりと入りたいのだが…」
「…そうですか。分かりました。」
ふう、何とかなったか…
土日も用事が無いのに天界へ行き、疲れておるとアピールし続け、やっと月曜日となった。天界へは帰らず、朝から準備に勤しんでおった。
「よし!キャミソールの準備もOK!にごり湯の風呂もOK!」
と、突然スマホが鳴りだした。春樹どのからであった。
「あれ?まだ仕事中であるよな…」
不思議に思いながらも通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『今日は天界へは帰らなかったのですか?』
「そ、そうだ。今日は道場も無い故、必要無くてな。」
『丁度、お話出来て良かったです。急な泊まりの出張が入ってしまいまして、今から着替えを取りに帰りますね。』
え~~?!ま、まぁ仕事であるならば仕方あるまい…まだチャンスは明日もある筈だ。
それから暫くして、春樹どのが帰宅した。
「明日はいつ頃帰って来るのだ?」
「4日間の出張なので、帰って来るのは木曜日になります。木曜は直帰なので早いと思いますよ。」
ガーン!ガッカリである…
そんな私を見て、春樹どのは苦笑いした。
「一人にしてしまって、すみません。そんなに寂しそうな顔をしないで下さい。出張に行けなくなってしまいます。」
「い、いや…大丈夫だ。その間は天界へ帰るようにしよう。その方がメイドさんも楽であろう。」
「ふふ。お気遣い頂いて嬉しいですが、メイドさん達も仕事ですから、遠慮されなくて大丈夫ですよ。」
玄関まで見送り、春樹どのは私の額にチュッ!と軽く口付けをした。
「では行ってきます。」
「行ってらっしゃい…」
何とか笑顔を取り繕い手を振ったものの、気持ちは沈んだままであった。
せっかく週末、春樹どのの色気の誘惑に打ち勝ったのに…
気持ちが沈んだまま天界へ帰ると、やよい姉様に心配されてしまった。
「かぐや、どうしたのですか?何か悩み事でも?」
ここはやよい姉様に相談してみるか…
「実は…」
掻い摘んで、避妊しておらぬのが一年を超えたこと、体温計でチャンスの日を確かめておるが、中々うまく行かぬことを話した。
「そうですか…天界でも中々お子ができぬという話を聞いたことはありますが、かぐやは考え過ぎではありませんか?余計に良くないそうですよ。」
「そうは言われましても、婚姻前にも春樹どのは早く子が欲しいと申しておりましたし…」
やよい姉様は少し考え込んだ。
「もしや…」
「何ですか?」
「かぐやの能力は、人を連れて来れぬと申しておりましたね。」
「はい。一度婆やを連れ帰ろうかと思いましたが、うまくいきませんでした。」
「それが原因かもしれませんよ。いくらかぐやの身体の中におる命だとしても、無理があるのかもしれませんね。」
「…なるほど。能力の影響かもしれませんね。」
早速、翌日宮廷へ行き、帝にお目通りをお願いした。通された部屋で待っておると、暫くして御簾で仕切られた床に帝が座られた。
「かぐやよ。願いが決まったのか?」
「はい。実は、暫しのお休みを頂きとうございます。」
子ができぬ原因が能力かもしれぬ事を告げ、帝は快く了承してくれた。下界の所用のみ、満月の夜に屋敷へ降りてくる者に頼むということであった。
「誠に勝手を言い、大変申し訳ございません。」
「良い。そなたは充分に天界の為に働いておる。気にするでない。」
「有り難き幸せにございます。」
帝の許可を得てから、父上や母上の家の者、道場の関係者にも暫く天界へ来ぬ事を伝え、春樹どのが帰宅する日に下界へ降りた。
それからは退屈な日々を過ごした。
「はぁ…天界へ行かず、ただ家におるだけというのも退屈であるな…」
気分転換と称して、ランチは外へ食べに行った。何となく一人分だけを本邸から運んで貰うのも気が引けたのだ。
その後は図書館へ行って時間を潰した。天界でも役に立ちそうな技術を探してはノートに書き写してみた。それでも時間は余るものだ。
「いつまでこのような生活が続くのであろうか…」
そんな日々を送りながらも、再びチャンスの日が訪れた。
その日は満月の夜であった故、屋敷へ行き、婆やから天界の手紙を受け取って帰宅した。だが、何やら春樹どのの様子が変であった。
「…かぐや、話があります。」
な、何だ?神妙な顔をして…何やら機嫌が悪いというか、怒っておるような只事では無い雰囲気であった。