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第24話・新妻の憂鬱

 ゴールデンウィークが明けて最初の週末、例年どおり浦和グループの親族会議が行われた。


「…以上で、業務報告を終わります。」


それぞれのグループ代表や代理の者が報告を終え、話題は私達の事になった。帝からのお祝いを見ておったせいか、皆からは歓迎ムードであった。


「やっぱり家柄目的じゃぁなくて良かったよ。」

「かぐやさんのところも凄いのね。安心したわ。」


歓迎してくれるのは有り難いのだが、まだ警戒されておったのだな…


その時、親族の皆から赤子の事を聞かれた。


「そういえば、赤ちゃんはまだ作らないの?」

「え?」

「早い方がいいわよ。年を取ったら色々とキツいからね。」


「大事な跡取りだ。出来れば男の子をしっかりとな。」

「は、はぁ…」


「まだ新婚なんですよ。二人の生活を楽しませて下さい。」

「あらそうよね。失礼したわ。おほほ。」


春樹どのが助け舟を出してくれた。だが、私自身も気になっておった。フィジー旅行の時から考えると、いくらでも赤子が出来ておかしくないのだ。ちょっと俯いてしまった。


「かぐやさん、気にする事ありませんよ。二人の生活も楽しみましょうね。」

「あ、あぁ…そうだな。」


にっこり笑って返したが、うまく笑えておっただろうか…



 小梅どのの仕事が休みの時、松乃どのと私の二人で遊びに行った。私が相談があると言って集まってもらったのだ。


「いらっしゃい!かぐやちゃんの披露宴、凄かったね!」

「私もあそこまで盛大になるとは思わなかったぞ。」


友馬どのは保育園に通っておるらしい。今日は仕事が休みであった故、朝からケーキを焼いてくれたようだ。流石は小梅どのである。

コーヒーと一緒にケーキを頂いておった時、松乃どのに話を振られた。


「で、今日はかぐやちゃんから相談ってなぁに?」


「そ、その…赤子はどうやったら出来るのだ?」


「…」

「…へ?作り方知らないって訳じゃぁ無いよね?」


「そ、それは大丈夫だ!たぶん…」

「たぶんなんだ♪」


二人に、フィジー旅行から避妊しておらぬ事、親族からの期待が大きい事などを説明した。


「なるほどね~。確かに親族からのプレッシャーは、ハンパ無いかもね。」

「セレブ同士の結婚も大変なんだね…」


皆で思案顔となった時、松乃どのが口を開いた。


「かぐやちゃん、基礎体温つけてる?」

「基礎体温?」

「そそ!あれで、排卵日が分かるんだよ♪その日を狙えば妊娠率が高くなるよ!」

「そうなのか?」

「帰りに、ドラッグストアに寄ってみよ!教えてあげるよ♪」


思わず松乃どのの両手をガシッ!と握った。


「ありがとう!松乃どの!」

「ふふ。どういたしまして♪」


小梅どのは友馬どののお迎えがあるという事で、松乃どのと二人でドラッグストアへ行った。


「この婦人体温計で、大丈夫だと思うよ♪で、グラフに体温を記入していくの。」

「ほう。」

「それで、急に体温が上がる時があって、その時が赤ちゃんを作るチャンスかな♪」

「なるほどな。」


早速体温計を購入し、ドラッグストアを出てから再度お礼を言った。


「松乃どの、本当にありがとう。」

「どういたしまして!って言いたいところだけど、もう一つ大事な買い物があるよ♪」

「大事なもの?」

「そそ!」


何やら良く分からぬが、松乃どのについて行った。


「って、またランジェリーショップではないか!ここは関係無いであろう!」

「何言ってんの!排卵日は待ってくれないんだよ!春樹が仕事で疲れてる日だったらどうするの?かぐやちゃんが誘惑しなきゃ♪」

「ゆ、誘惑って…」


戸惑う私を余所に、一枚の薄く透けたキャミソールを手渡してきた。


「はい!下着はこれ一枚ね♪」

「い、いや、それは裸同然では無いか!丸見えに近いものがあるぞ!」

「それだからいいじゃん♪裸よりもちょっと見え隠れする方がそそられるらしいよ!」

「そそられるって…」

「四の五の言わず、買っておいで♪」

「…はい。」


またしても言い切られてしまい、レジでお金を支払った。



 基礎体温を付け始めて暫くした頃の平日、何となくこの日であろうというのが分かってきた。


風呂から上がり、早速松乃どのご推薦のキャミソールを着てみた。


「うわっ!こ、これは…やはり無理だ!」

「…どうかましたか?」


思わず漏れた心の声が、ベッドルームにまで聞こえてしまったらしい。


「い、いや…何でもない…」


ど、どうしよう…っていうか、着替えをこれしか持って来てはおらぬ…


よしっ!

気合いを入れてベッドルームに続くドアを開けた。が、やはり恥ずかし過ぎて顔しか出せぬ。やはり部屋着に着替えよう…


「あの…」


春樹どのはベッドに寝そべって本を読んでおったが、私の声に顔を上げた。


「何かありましたか?」

「い、いや…出来れば電気を消して、目を瞑って寝て欲しいのだが…」

「…?」

「は、早く!」

「…分かりました。」


不思議そうにしながらも春樹どのはベッドサイドに読みかけの本を置き、ランプを消して布団に潜り込んだ。それを確認して、やっとドアから出ることが出来た。


春樹どのに背中を向けて、こそっと忍び足でクローゼットへ向かおうとした時であった。


「ひゃっ!」


いきなり身体が浮いたではないか!


「様子がおかしいと思ったら、なんて扇情的な格好を…これは誘って頂いていると解釈しても宜しいですか?」

「い、いや、誘うというか、何というか…」

「何ですか?」

「ま、松乃どのと買い物に行ってだな…」

「ふふ、その続きはベッドの中で聞きましょうか。」


春樹どのは軽々と私を抱きかかえたまま、ベッドまで運んでしまった。


「さて、どうしましょうか。」


外から漏れ入る光だけの薄暗い部屋でも、春樹どのの目がキラリと光ったのが分かった。


「そ、その…たまにはこのような格好もどうかと勧められてな…」

「なるほど。そういう事にしておきましょうか。では遠慮なくいただきます。」

「い、頂きますって…」


続きの言葉は、春樹どのによって塞がれた。


ん…


深い口付けだけで身体が甘く疼いてきた。今宵も長い夜となりそうだ…



 翌朝、春樹どのは欠伸をしながら、会社へ出勤していった。


春樹どの、すまぬ…


心の中で謝りつつも、作戦が成功した事にわくわくしながら天界へ帰ったり、下界の道場へ行ったりと普段どおりに過ごした。


だが、やはり無理であったようだ。予定どおり女子日が来てしまった。


はぁ…

あんな思いまでしてキャミソールを着たのに、出来れば着る機会は一回で済ませたかったな…



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