第23話・帝のオーラ
新婚旅行から帰国の途に着き、久しぶりに日本の地を踏んだ。
まだ下界に滞在しておる家族にお土産を渡す為、久しぶりに屋敷へ行った。
「新婚旅行とやらは、いかがでしたか?」
「やよい姉様、とても幻想的な大自然に触れ、有意義に過ごしてきました。」
「それは良かったですね。それで、こちらの言葉で言えば“はねむーんべいびー”とやらはいかがですか?」
「そ、それは…」
つい、最後の夜を思い出して、真っ赤になってしまった。
「ふふ。良い知らせを天界で待っておりますよ。」
そして、天界へ帰る前日、春樹どのの邸宅へ私の家族が招かれた。そこで丁度週末と重なる四月の満月の夜に披露宴を行う事が正式に決まった。
----------
モデルという芸能界を少しでもかじっていると、色々な結婚式に呼ばれる。派手婚や地味婚、ガーデンウエディングやカフェでの結婚式とそれぞれだ。
だけど、やっぱり一番印象に残っているのは、春樹とかぐやちゃんの披露宴だ。
4月、松乃ちゃんと一緒に披露宴会場になるロイヤルインフィニティホテルへ来た。ロビーは異常なくらいの人でごった返していた。
「これ、全部披露宴の出席者かなぁ~。」
「たぶんね。流石は春樹とかぐやちゃんだね。」
二人で感心しながら受付へと行った。
って、凄い数の受付の机が並んでる!1、2、3…全部で10だ!
圧倒されながら、一番端でご祝儀袋を出して記帳した。
「秋人!あそこ、芸能人の固まりだよ!」
「本当だ。確か浦和グループのCMしてる人達だね!」
「お?ここのいたのか!探したぞ!」
聞き慣れた声に振りかえってみると、冬馬と小梅ちゃん、おめかしした友馬くんが立っていた。
「何だか見知った顔を見ると安心するよ~♪」
「やっぱり秋人もそうか。あっちには銀行総裁がいたし、大企業の社長達が勢ぞろいしてるぞ。そっちには国会議員の姿もあったしな。」
そんな話をしながら、会場に入って席次表を開いた。
「え?500人以上?!」
思わず席次表を開いたまま、固まってしまった。
「これでも、かなり絞ったそうだ。席次表に書ききれなかったのか、五十音順で名前を書かれてあるな。名前の横の番号が座るテーブルらしい。」
「はぁ、流石というか何というか…」
ここまでの規模となると、ため息しか出ないな…
冬馬達と席に座って暫くすると、急に会場がざわめき始めた。
『おい、あの着物の集団!見ろよ!』
『もの凄いオーラが出てるぞ!』
『今って、平安時代じゃぁ無いよな…』
ざわめきの先を見てみると、かぐやちゃんのお姉さんや義理のお兄さん他、沢山の豪華な着物姿の集団があった。中には爺やさんと婆やさんの姿も見えた。
「もう一回、席次表…」
竹野塚弥蔵、竹野塚やよい…やっぱりかぐやちゃんの家族が揃ってるみたいだな。
あれ?よく見ると、帝って名前の人がいる!
「冬馬、この人ってもしかして…」
「あぁ、かぐやの祖国で一番偉い人だ。こっちの披露宴に出る機会なんて無いから、是非参加させて貰うって言われたらしいぞ。」
「国で一番偉い人が来るって、さすがかぐやちゃんだね。」
「因みにかぐやの方の出席者が200人くらいだそうだ。」
その時、扉が開いて急に会場が静寂に包まれた。まるで後光が射しているかのような一段と凄いオーラと着物を纏った男の人が、数十人の護衛を引き連れて会場へ入ってきた。それと同時に、会場にいるみんなが圧倒されたのが分かった。
その男の人が静かに歩き出すと、着物を着た集団がさっと道を開けて、みんな頭を下げている。
「間違いなく、あの人が帝だろうね。」
「…ああ。凄いオーラだ。」
「政治家も社長も芸能人のオーラさえもすべて吹き飛ばしたね。みんなが小者に見えるよ…」
「皆様、本日はお忙しい中お越し頂き、誠にありがとうございます。大変お待たせいたしました。ご新郎ご新婦様の入場です。盛大な拍手をもってお迎え下さいませ。」
司会者がマイクを握ると、会場の照明が落とされて、扉にスポットライトが当たった。ゆっくり開いた扉からは、袴姿の春樹と豪華絢爛な色打ち掛け姿のかぐやちゃんが登場だ♪二人は緊張するどころか、時々、目を合わせて微笑みあっている。
「綺麗~♪」
そんな言葉があちこちから聞こえてくる。色々なアクシデントを乗り越えて、やっと一緒になれた仲の良い友人達を、精一杯の拍手で迎えた。
お祝いの言葉や、スピーチが披露される中、大きなワゴンに乗せられた金銀財宝が会場に運び込まれた。
『おお~!』
『凄い!凄過ぎる!』
『億は下らないな…』
マジで凄いんですけどっ!一体何事?と思っていたら、帝からの結婚祝いだと紹介された。
「はぁ…35年ローンが馬鹿らしくなってくるな…」
「冬馬、僕も庶民だと思い知らされたよ…頑張って地道に働こうな…」
冬馬と肩を叩きあいながら、無言で慰め合った。
春樹も超セレブだけど、これは明らかに逆玉だな…
滞りなく披露宴は進んで、お色直しの時だった。あちらこちらで名刺を交わしているところを見ると、披露宴もビジネスだって言うのが良く分かるな~。
そこへ、帝へ近寄るチャレンジャー発見!
「冬馬、あの人って、何処かのレジャー会社の社長だっけ?」
「確かテレビで見た事があるぞ。旅行会社も経営してなかったっけ?」
その社長が名刺を取り出したところで、帝の周りにいる護衛がサッ!と立ち塞がった。
「用件をお聞きしよう。」
「今後ともビジネスでお世話になるかと思いまして、ご挨拶を…」
護衛の一人が、帝に耳打ちをしている。直接は話せないってことか…
帝にボソッと呟かれた護衛の一人が、社長の元へ戻った。
「貴様の会社で行われる自然破壊に協力する気は無い。早々に立ち去れ。」
「え?…」
社長は名刺を手にしたまま固まっていたけど、すごすごと自分の席に戻っていった。
「ねぇ。帝って人は、読心術に長けてるのかなぁ。名刺も見てなかったよね。」
「…まさか。たまたま知ってただけじゃぁないか?」
小梅ちゃん、その疑問、たぶん合ってます。
披露宴から5年後、その社長の会社の森林伐採が問題視されていた。もしかしたら未来が見える?!それとも奥に秘めた野望を読み取れるとか…そんな能力、僕も欲しい!
お色直しも終わって、白いタキシードの春樹と、鮮やかなブルーのドレスを身に纏ったかぐやちゃんが再登場した。かぐやちゃんの白い肌にブルーのドレスが映えて、一段と神々しい美しさを放っていた。
そして、ケーキの入刀、ファーストバイトになった。かぐやちゃんは照れながら春樹にケーキを食べさせて、春樹がかぐやちゃんの耳元で何か呟いたかと思ったら、かぐやちゃんが真っ赤になって怒って…
「あの二人、変わらないね~♪」
「そうだね!何だか安心するね♪」
今日はたぶん二人と話も出来ないだろうから、また今度、新居に遊びに行かせてもらおっと♪
----------