第22話・らぶらぶ新婚旅行
「着いた~!寒っ!」
「ふふ。かぐやさん、はしゃぎ過ぎですよ。」
「やっと着いたのだぞ!はしゃぐであろう!」
春樹どのと私は、婚姻の儀の後すぐに新婚旅行へ来たのだ。オーロラが見たいという私の希望を叶えて貰い、フィンランドへ降り立った。
「ここからはバスでホテルへ行きます。こちらですよ。」
春樹どのが大きめの手荷物を持ってくれて、バスに乗り込んだ。
「オーロラを見るのは、とても寒いのであろう。服は現地で借りるのか?」
「大丈夫です。夜用の防寒着は必要ありませんよ。」
「え?どうしてなのだ?」
「ふふ。着いてからのお楽しみです。まずはサンタさんに会いに行きましょうね。」
中々教えてくれぬが、何やらとても楽しそうな顔をしておるな。
そして最初の目的地、サンタクロースの故郷ロヴァニエミへと向かう。
着いた街は、とてもお洒落な異国の雰囲気がたっぷりであった。
「おお!何だかサンタクロースだらけであるぞ!」
「本当ですね。明日にはサンタクロース村に行ってみましょうね。」
「そんなところがあるのか?」
「はい。サンタクロースに会えるらしいですよ。」
「それは楽しみだ!」
翌日、バスに乗りサンタクロース村に着くと、まるで絵本から飛び出したかのような風景が広がっておった。
「うわっ!あっちにもこっちにもサンタがおるぞ!」
「ふふ。世界中の子供達にプレゼントを配りますから、一人では足りないのですよ。」
ハイテンションの私の手を引っ張り、春樹どのが連れて来てくれたのは、サンタオフィスというところだ。
薄暗い廊下を抜けて部屋に入ると、サンタが待っておった。
「本物だ~!」
「“こんにちは。”」
「“こんにちは。何処から来たのかい?”」
「“日本からです。新婚旅行なのです。”」
「“そうかい。それはおめでとう!”」
サンタにも婚姻の祝福をして貰い、一緒に記念写真を撮った。
それからお土産を買う事となり、クリスマスマーケットという屋台が並ぶところへ行ってみる。
次のクリスマスには、リビングに大きなツリーを飾ろうという話になり、オーナメントを買い込んだ。
翌日はサーリセルカという街に向かった。ホテルに着き、部屋の中に入ってびっくりだ!
「天井がガラス張りになっておるぞ!」
「ここはガラスイーグルという建物で、寝ながらオーロラ観測が出来るのです。私も初めて来てみました。」
「凄いな!」
「この地域は70%の確率でオーロラを見る事が出来ますが、必ず見れるとは限りません。何時間も寒い中で待つよりもベッドの中で見る方が宜しいかと思いまして、ここにしてみました。」
「だから夜用の防寒着は必要無かったのだな。」
「今日はお疲れでしょう。そろそろシャワーを浴びて横になりましょうか。」
逸る気持ちも押さえきれずいそいそと寝る準備を始め、ベッドに横になった。
春樹どのはそっと私の頭の下に腕を入れて、二人で天井から見える夜空を眺める。
ぴったり寄り添う温かさに、ついうとうとしてしまい、一日目の夜はオーロラを見る事が出来なかった。
はぁ…翌日は朝から盛大なため息をついた。
「仕方ないですよ。着いたばかりでしたし、私が起きている間もオーロラは出てきませんでしたよ。」
「今夜こそは夜更かしをするぞ!」
「ふふ。気合いが入りましたね。」
この日の夜は気合いを入れて、起きておく事にした。
「寝てしまうのを防止する為に、何か話をしようではないか。」
「では、何を話しましょうか。」
「そういえば、何故いきなり赤子が欲しくなったのだ?」
「ふふ、そうきましたか。冬馬と遊ぶ友馬くんや、義兄さんと楽しそうに話をする雪美ちゃん、見ていて憧れてしまいまして…」
「何か分かる気もするな…」
大変だと言いながらも楽しそうに笑う小梅どの、目尻を下げて雪美を見守るやよい姉様、二人とも口に出さずとも幸せなのだと伝わってくるようなのだ。
「そのうち今、寝ておる二人の間にもう一人増えるのであろうか…」
「それはあまり無いかもしれませんね。」
「何故だ?」
春樹どのはいきなりガバッ!と起き上がり、私を組敷いてきた。
「間に一人入ると、こういう事が出来ないからです。」
そう言いながら、ゆっくりと味わうような深い口付けを落としてきた。
「ん…」
甘い声が漏れたところで、春樹どのはゆっくりと唇を離した。
「ふふ。我慢できなくなったらせっかくのオーロラが見れませんので、この辺にしておきますね。」
「と、当然だ…」
ふと見上げた春樹どのの背後に、微かに動くものが見えた気がした。
「あれ?何か出てきたぞ?」
私の声に春樹どのも天井を見上げる。
「オーロラかもしれません!」
「本当か?」
光のカーテンは徐々に大きくなり、見事なオーロラとなっていった。
「これは凄い…」
「ここまで見に来た価値がありますね…」
あまりの素晴らしさに、二人とも横になって天井を見上げたまま、言葉を失った。
「かぐやさん、ありがとう…」
「ん?どうした?」
「私と出会ってくれて、ありがとう…」
こちらこそ、ありがとう…
大自然が織りなす芸術の下、改めて感謝の気持ちを伝え合った。
オーロラを堪能した後、改めて春樹どのに感謝の意を伝えた。
「春樹どのには私の願いをいつも叶えて貰って感謝しておる。本当にありがとう。」
「では私の願いをかぐやさんが叶えてくれますか?」
「春樹どのの願い?どんな事だ?」
「簡単な事です。そろそろ“春樹”って呼んで貰えませんか?」
「え?…」
えっと…春樹って普段から呼び捨てにするという事か?それともベッドの中限定の話なのか?
思わず顔に血が上ってしまい、一人であたふたとしてしまった。
「ふふ。名前を呼ぶだけで赤くなるなんて可愛いですね。」
な、なんだ。呼ぶだけか…
「そ、そういう春樹どの…は、そ、その…私の名を…」
春樹どのは微笑みながら、そっと私の肩を抱き寄せて、耳元で囁いた。
「愛しているよ。かぐや…」
う、うわっ!これは爆発的な破壊力があるぞ!
「そ、そ、それは…」
「ふふ。二人きりの時だけでも構いません。無理しなくても、追々慣れて行きましょう。」
「わ、分かった…」
「では、ちょっと練習しましょうか。」
「練習?」
「はい。私の名前を呼んでみて下さい。」
え、えっと…これは呼び捨てにするという事だよな…
「は、は、はるきど…」
落ち着け!名前を呼ぶだけであるぞ!ふう、と大きく息を吐き出した。
「春樹…」
「もう一度。」
「…春樹。」
「もう一回…」
甘い囁き声で催促をしてくる春樹どのの顔に目を向ける。愛しむように微笑みながら私を見る目に、自然と自分の気持ちが言葉となって出てきた。
「春樹、愛している…」
春樹どのは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに誘うような深い口付けで私を求めてきた。
「ん…」
角度を変えながら互いの熱を伝え合っておると、そっと唇が離された。目を開けると、視界がぼやける程近くに春樹どのの顔が見える。
「やっと一緒になれましたね…」
「…」
「もう離さない…」
またたく間に甘い疼きが全身をめぐり、新婚旅行最後の夜は、甘く長く、更けて行った。