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第17話・思い出話

 下界の道場へ再び通い始めたある日、冬馬どのが引っ越しをすると言ってきた。


「へぇ~。マンションを買ったのか。」

「予定外だったけどな。」

「何故予定外だったんだ?」


私を迎えに来ておった春樹どのが不思議そうに尋ねておる。


「小梅とおふくろがやりあってな…冷戦状態が続くくらいなら、思いきって別居しようと思ってさ。」

「何があったんだ?」

「小梅がバイトしていた塾からパートでいいから働いてくれないかって連絡を貰って、保育園の申し込みをしたんだ。だけどおふくろが3歳までは親が手元で育てるべきだって反対してな。」


「それは天界でも言われておるな。」

「日本でもおふくろの時代はそうだったらしいな。だけど今は、結婚したら家庭だけっていう時代でもないだろ?」

「そのようだな。」

「昔と今の考え方の違いなんだ。どっちの言い分も分かるだけに、どっちの肩も持てなくて、思いきってマンションを買ったっていう訳だ。で、来週引っ越しで道場も休むからよろしくな。」



 ゴールデンウィークになり、松乃どのと秋人どのも誘って、冬馬どののマンションへ4人で遊びに行った。


「お邪魔します!」

「へぇ~!中々広いじゃん♪」

「35年ローンだ。頑張って働くさ。」


「流石は人気イケメン講師であるな。」

「かぐや、その呼び方は止めてくれと…」

「ふふ、すまぬ。ところで、小梅どのはどうしたのだ?」

「さっきから友馬と格闘中だ…」


冬馬どのの目線を辿ると、ちょろちょろと走り出した友馬どのの後ろを追いかける小梅どのの姿があった。


「ちょっと!友馬!まだおむつしてないでしょ!」

「あ~!新築なんだから、落書きしないでよ!」


ふふ。子育てとは大変であるな。ちょっと笑ってしまった。

やっと友馬どのを捕まえた小梅どのが私達のところへやって来た。


「ごめんね~!本当に目が離せなくなって、大変だよ!」

「ふふ。元気があって良いではないか。」


それから用意してくれておった料理をご馳走になり、皆はビールで乾杯をした。私だけ相変わらずジュースである。


「かぐやちゃん、あれからどう?何か思いだした?」

「いや…まだだ。」


秋人どのに聞かれて、苦笑いしか返せなかった。


「秋人、無理に思い出させようとは思ってないよ。」


春樹どのがフォローしてくれたが、一つ皆にお願いをしてみる事にした。


「何か高校や大学の時の思い出話を聞かせてはくれぬか。思い出す事があるやも知れぬのでな。」

「そういう事なら、アルバムを持ってくるよ!」


小梅どのがそう言って、アルバムを見せてくれた。


「これがかぐやちゃんが来たばかりの時に劇をした時の写真ね。」

「私は姫であったよな。そして相手役が…」

「春樹くんだよ。」


「これはクリスマス会の時かな♪みんなでプレゼント交換をしたよね!」

「そうであったな。まだあの頃は松乃どのも秋人どのと恋人では無かったよな。」

「そうだね♪秋人はかぐやちゃんの事を好きなんだと思ってたしね!」


松乃どのの言葉を聞いた秋人どのが焦っておる。


「ちょ、ちょっと!確かにかぐやちゃんの謎の生態には興味があったけど、今思えば好きとは違うよ~!松乃ちゃん、信じてよ!」

「まぁ、昔の話しだしね♪許してあげるよ!」

「ありがとう!松乃ちゃん大好きだよ♪」


相変わらず仲良しなのだ…


「それから春樹くんの別荘に行った時、修学旅行、次の文化祭、お祭り、体育祭、クリスマスはみんなでスイートルームに泊まったよね!」

「そうだな。覚えておるぞ。」

「それから卒業パーティーかな。」


それぞれ皆が思い出を語ってくれた。写真の中ではいつも春樹どのが私の傍におるが、記憶の中では靄がかかったように、いつも春樹どのだけが居ないのだ。


「この辺からは冬馬くんと二人の写真が多くなっちゃうんだけど、卒業旅行の写真もあるよ!」


「痛っ!」


またしても、突然激しい頭痛に襲われた。


「かぐやさん!」


春樹どのが私の肩をさっと支えた。


「すまないが、思い出話しはこれくらいで終わってもいいか?」

「かぐやちゃん大丈夫?ごめんね…」


「い、いや…私が頼んだ事なのだ。気を遣わせてすまなかった。」


頭痛が収まってきて、ようやく返事をする事が出来た。


予定よりも早く爺やに迎えに来て貰い、先に失礼する事にした。リムジンの中でも春樹どのは心配そうに私の顔を見ておる。


「かぐやさん、もう大丈夫ですか?」

「心配を掛けてすまなかった。何か思い出に触れると頭痛がするようだ。」

「そうでしたか…不安なのも分かりますが、無理に思い出さなくてもいいですからね。」


そうは言われても気になって仕方ないのだ。何故春樹どのだけが記憶から抜け落ちておるのであろうか…



 その夜、また夢を見た。暗闇の中に沢山の箱が浮かんでおるのだ。


何処だ…


箱の一つ一つを叫びながら開けながら走った。どの箱を開けても見つからぬ。何を探しておるのかも分からぬ。だけど必死になって大切な何かを探しまわった。


何処なのだ…



かぐやさん、私はここですよ…



ふんわりと手に温かさを感じた。

この温もりだ…



朝、起きると、また春樹どのが私の隣で横になっておった。しかもまた手を握り合っておるのだ。


「い、いつの間に…」

「…ん。かぐやさん、おはようございます。早起きですね。」

「あの…この手は…」

「すみません。また夢でうなされていたようなので、ちょっとお邪魔しました。」

「そ、そうか…」

「しかし、かぐやさんより後に起きてしまいましたので、可愛い寝顔を見られなくて残念ですね。」


え?

一瞬で、かぁ~!っと顔が熱くなった。


「そ、そのようなもの、見るではない!」


春樹どのは、目を見開いたかと思うとすぐに満面の笑みを浮かべた。


「久しぶりに頬が赤く染まるかぐやさんを見れて、幸せです。」

「わ、私の顔で楽しむでない!」

「ふふ。失礼しました。では、部屋に戻りますね。」


そう言って立ちあがり、嬉しそうに襖の向こうへ戻って行った。


やはり、強力な目覚ましであるな…




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