第8話・秘密のミッション
海沿いの高級フレンチレストランに行って、ランチをする予定だ。まずは胃袋を掴むとするか。
「“中々景色がいい所ね!”」
「“よく食事に来るところなんだ。”」
一度撮影で来ただけなんだけど、覚えていて良かった♪
「“今日はお勧めでいいかな?”」
「“日本語は読めないから、任せるわ。”」
「“オッケイ♪”」
勿論注文するのは、一番高いコースだ。こんなの毎日食べてたら、メタボ一直線だな…
「“ジェニーの口に合うかい?”」
「“とても美味しいわ!日本の味付けは繊細で気に入ってるわ!”」
「“それは良かったよ。”」
フレンチレストランの後は、クルーザーで海のドライブだ。
「“ジェニー、船酔いは大丈夫かい?”」
「“ええ。問題ないわ。”」
「“少し揺れるから、気を付けて。”」
さりげなく支える振りをして肩に手をまわした。嫌がる事は無いな…
ってか、香水くっさ~!!
春樹たちの為に我慢だ!耐えろ!秋人!
海から戻って、お洒落なカフェでコーヒーを飲んだ。
「“秋人ってお金持ちなのね~♪”」
「“持ってるって程じゃぁないさ。でも稼いだものは使わないと勿体無いからね。”」
「“その考え、素敵ね~!”」
よしっ!かなり喰いついてきたぞ!
「“そういえばショーって何をするの?”」
「“ここでビジネスの話をするの?こんな美人が目の前いるんだから、先に口説かせてよ♪”」
「“ふふ。でも何をしているのか、興味あるわ。”」
「“そうだな~。”」
鞄から一冊の雑誌を取り出した。僕の引退フォトが載っている雑誌だ。
「“これ、誰か分かる?”」
「“ワオ!秋人ね!あなたセクシーな身体しているのね!”」
「“普通だよ。”」
「“是非、見せて欲しいわ♪”」
「“残念ながら撮影以外に見せるのは、ベッドの上だけなんだ。ジェニーのような美人限定でね!”」
「“まぁ♪”」
鍛えておいて良かった~♪
「“あなた、モデルなのね。そんなに稼ぐほど人気なの?”」
「“モデルもしているけど、ファッションショーのプロデュースもしているんだ。先日もミラノにビジネスで行ってきたよ。”」
「“素敵だわ!”」
よし、よし!計画どおりだ!
最後はロイヤルインフィニティホテルのレストランで、決められた席に座るだけだ。
ホテルの駐車場に車を停めて、レストランへ行った。ここのボーイも計画の一端を担っている。予定どおり隠しマイクと録音機が設置してある席へ案内して貰って、食事を楽しんだ。
「“私だけお酒を飲んで悪いわね。”」
「“僕が飲んだら帰れなくなっちゃうよ~♪泊めてくれるの?”」
「“私、そんなに安い女じゃぁないわよ。”」
「“高くつく?フランスのブランドから予約商品が入ったって連絡があったから、明日はお買い物に行こうかと思ってるんだ!お泊りならお誘いしたいな♪”」
「“それは魅力的なお誘いね!”」
今、脳内は買って貰えそうなブランド品で溢れ返ってるんだろうな…
「“ジェニー、今日は楽しかった?”」
「“もちろんよ♪久しぶりに退屈せずに済んだわ!”」
「“そんなに毎日退屈しているの?春樹は何をしているの?”」
「“春樹は一度も顔を見せないわ。”」
「“白状な男だね~!僕だったら、そんな退屈はさせないのに。”」
僕だって、ミッション中の今日だけだよ~♪
「“春樹のどこがそんなにいいの?”」
「“う~ん。優しいし、身体の相性も悪くなかったわ。ただ愛してはいないわね。”」
「“え?愛してない男の子供を産むつもりなの?”」
「“やだ~!子供産んだら、スタイル崩れるじゃない!絶対に嫌よ!子供なんて泣いてばかりで煩いし、結婚しても避妊してもらうわ!”」
へぇ~。身体は許すことが出来るのか。他には何が目的なんだろう。
「“だったら、どうして結婚なんかするの?”」
「“ウチのホテルの近くにデパートを建てたって、昭三が挨拶に来たのよ。その時に春樹の結婚相手を探してるって聞いてね。ピンと来たの!これは私にセレブ生活をしろっていう神のお告げだってね!”」
「“僕だって、春樹に負けない生活はさせてあげられるよ!”」
「“ふふ。そうみたいね♪”」
やっぱり春樹のお金目的か…
「“でも、昭三さんは誰に頼まれて結婚相手を探してたんだろうね。”」
「“昭三は恩を着せておくと、後々都合がいいって言ってたわ。だから何があっても離婚はするなってさ。私も離婚するつもりは無いから、何かあったら南の島にバカンスに行って逃げるとするわ。”」
こっちは権力狙いっと…そろそろ仕上げでいいかな。
そっとジェニーの手を握ってみた。
「“一度僕も試してみない?春樹に負けないモノは持ってるよ。”」
完全に負けてるけど…
「“ふふ。どうしようかしら。”」
「“君ほど綺麗な人に会った事は無い。二人の出逢いも神のお告げだと思わない?”」
「…」
もう一押し!
「“君の瞳が魅力的過ぎるのがいけないんだ。もし、君の部屋で朝を迎えていいのなら、僕のお酒をオーダーしてくれる?”」
ジェニーは少しはにかんで、ボーイを呼んだ。
「“シャンパンをこちらに…”」
よし!作戦成功♪
トイレに立った時、ボーイに合図を送った。席に戻ったら電話を掛けてもらう手筈になっている。
「“ごめん、ジェニー。次のショーの準備でデザイナーがトラブってるみたいなんだ。夜のデートはまた今度でもいいかい?”」
「“え~!”」
「“そんな顔しないでよ。キュートな笑顔が台無しだよ!”」
「“分かったわ。絶対電話してね。”」
「“オッケイ!”」
ジェニーを送り出してレストランの裏手で待機していると、ボーイが隠しマイクと録音機を回収してきてくれた。
「ありがと~♪」
「いえ、どういたしまして。」
再生ボタンを押すと会話がバッチリ録音されている。念の為スマホでも録音したけど必要無かったな。これでミッション完了♪
マンションに帰ったら、速攻でシャワー浴びて服を洗濯だ!早く香水を落として、松乃ちゃんとイチャイチャしたい♪
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後日、車を返しに来た秋人から録音機を貰った。
「これでジェニーの方はバッチリだよ♪かぐやちゃんの方はどう?」
「少しずつだけど、何とか信用を取り戻せそうだよ。」
「そっか♪」
「本当にありがとう。」
「いいって!僕達が何かあった時もよろしく頼むね♪」
「勿論だ。何かあったらすぐに言ってくれ。」
秋人が帰った後、録音機を再生して内容の確認をした。
うわっ!身体の相性が合うって何だよ!こんなのかぐやさんに聞かせられるか!でも他人から聞き伝わる可能性もあるし、自ら言っておく方がいいか…
意を決して、かぐやさんに話す事にした。
「かぐやさん、この前包み隠さず話すって言ったのを、覚えていますか?」
「…覚えておる。」
「実は…」
「まだあったのか?」
「いや!あったのかというより、発生したと言いますか…」
ちょっとジト目で見られているのは、気にしないでおこう…
思いきって、録音機を差しだした。
「これです。この前秋人に、ジェニーの目的を聞き出して貰いました。ここに録音されていますが、聞きますか?」
「…聞いておきたい。」
「分かりました。」
ボタンを押して録音機を再生した。かぐやさんは黙って聞いている。
「ジェニーは一時帰国したそうなので、今度日本へ来た時にこれを聞かせて、手を引いて貰うように言うつもりです。その…以前付き合っていた頃の話も出て来ていたので…」
「…そうだな。」
うっ!反応が怖い!
「まぁ、隠されるよりは良いかな…」
「ありがとうございます。後はホテルの立て直しを図るだけです。」
「分かった…」
何だか微妙にまた距離を置かれた気もするが、甘受するしか無いか…
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