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第5話・春樹が一番怖いもの

 かぐやさんを車に乗せ、高台の公園へ行った。辺りはもう暗くなっていたが、屋敷へ帰る前に、どうしても話をしておきたかった。


黙り込むかぐやさんを外に出るよう促し、ベンチに座らせた。


「かぐやさん、包み隠さず話します。聞いて頂けますか?」

「…分かった。」

「ジェニーとは、暴漢に襲われそうになっていたのを助けたのが、始まりです。その後、告白されて付き合うようになりました。」

「…」

「私の素性を知らないうちに付き合うようになりましたから、人を見抜く力も無いほど幼かったのもあって、すぐに関係を結ぶようになりました。ですが、私の事を知るようになってからジェニーは変わっていきました。」


「どのように変わったのだ?」

「ホテルの懐事情を詳しく聞き出そうとしたり、高額なブランド品を欲しがったり、まだ中学生だというのに結婚をしたいとまで言い出すようになりました。贅沢な暮しがしたかったのでしょう。それに嫌気がさして、別れました。」

「そうか…」

「その後出会った女性も、付き合う前のデートですぐに買い物に連れて行かれたりと、家のお金目的の女性しか近寄ってきませんでした。向こうからしたら日本人の良いところなんて、それしか無かったのかもしれませんが…」


かぐやさんは俯いたままだけど、じっと私の話を聞いてくれた。


「なのでロスにいた頃は、どうせ女性は私自身ではなくお金しか見ていない、お金さえあれば女性は簡単に身体を許すと、自暴自棄になって遊んでいた時もありました。だから初めてかぐやさんに出会った時、とても新鮮に感じると共に安心もしました。お金も家も関係なく、やっと私自身を見てくれる女性が現れたと思ったのです。」


そっとかぐやさんの手を握ってみた。


「私が心の底から欲しいと思ったのは、かぐやさんだけです。これから先ずっと、永遠にかぐやさんだけを愛し続けます。これだけは信じて下さい。」

「…」

「二度と泣かせる事はしません。」


握った手を振り解かれることは無かった。だけど、いつもなら返事の代わりに握り返してくれるのに、それが無かった。たったそれだけの事だけど、かぐやさんから拒否されたように感じてしまって、酷く私の心を不安にさせた。


「…屋敷に帰りましょうか。」


かぐやさんは黙って頷いた。



 それから暫く、かぐやさんに触れることはしなかった。少しでも触れると、今の危うい関係が脆くも崩れてしまいそうで、私自身が怖くなっていた。


会社では父の指示の元、紅葉坂ホテルの立て直しプロジェクトをリーダーとして立ち上げたが、予算が限られていることもあって、あまり良い案が出て来なかった。


「特別プランで室料を下げても一時期しか戻らないし、食事の質を落として安くしても、リピーターは来ないでしょう。別の案でお願いします。」

「リーダーはそう言いますが、この予算では全面的な改装も難しいかと思います。ロビーだけを綺麗にしても効果は無いかと…」


他のメンバーからも良い案よりも無難な案しか出て来ないようだ。


「やっぱり割引プランが無難で確実では?」

「割引に頼るような従来の方法とは違うもので、考えて下さい。」

「そうは言われましても…」

「集客でも宿泊でも、どちらか一方だけでも構いません。出来ないではなく、出来る事を探して下さい。」

「…はい。」


プロジェクト会議は一歩も進む気配が無かった。

こんな事で躓いていては、かぐやさんを幸せに出来ない。何のために後継者になろうと頑張ってきたんだ…


梅雨に入っても悪戯に時間だけが過ぎて、焦りばかりが募った。


----------


 春樹とかぐやちゃん、どうなったかな~。

気になって久しぶりに春樹に電話を掛けてみたけど、電話に出たのはホテルのバーのマスターだった。


『春樹様ですが、今、酔いつぶれていまして…電話のお名前は秋人様で間違いないでしょうか。』

「そうです!すぐに迎えに行きます!」


親父の車を借りて、すぐにロイヤルインフィニティホテルへ向かうと、ロビーで泥酔した春樹を抱える外国の女の子の姿があった。すぐにジェニーだと分かった。


「“春樹の友達なんだ。連れて帰るね。”」

「“ハルは私の部屋に泊めるから大丈夫よ。”」

「“えっと、ジェニーさんかな?婚約者だっけ?”」

「“そうよ♪良く分かったわね!”」

「“そりゃこんな美人なんて中々いないからね~♪”」

「“ふふ。ありがとう!あなたはかぐやって娘とも知り合いなの?”」


よし!ここで信用を掴んでおくか。


「“かぐやさんは写真で見たことあるけど、君の方が美人だね!アメリカでホテルを経営してるんでしょ?”」

「“父がやってるわ。”」

「“今度、アメリカでもショーをしたいんだ!是非力になってよ♪”」

「“ショー?”」

「“そう!詳しくは後日って事で、連絡先を聞いてもいい?”」

「“いいわよ♪”」


この手の女の子は、ちょろいもんだ♪


「“今日のところは春樹を連れて帰るけど、また今度二人で会わない?”」

「“退屈してたし、構わないわ。”」

「“良かった!君みたいな美人と会えるなんて楽しみだ!週末にでも連絡するね♪”」


ジェニーはあっさりと春樹を渡してくれた。これは春樹自身が目的じゃぁ無いな…


とりあえず僕のマンションに春樹を連れて帰った。


「春樹、水飲めよ。」

「…ん。」


けだるそうに水を飲んで、やっと僕に気付いたようだ。


「秋人か…」

「春樹、何があったの?」

「…怖いんだ。」

「何が?」

「かぐやさんに触れるのが怖いんだ。私から離れてしまいそうで…」


いつもなら、何を弱気になってるんだよ!って言いたいところだけど、春樹だって愚痴りたい時もあるだろう。黙って話しを聞くことにした。


「立て直しプロジェクトもうまく行ってないし、このままでは…」

「そっか…」


かぐやちゃんさえ大丈夫なら、プロジェクトくらい乗り越えられるんだろうけど、今の状況じゃぁ難しいかぁ。

まだ強制送還の時のトラウマがあるのか、春樹が一番怖いものは、かぐやちゃんが居なくなることだからなぁ…


ソファーで眠りだした春樹に毛布を掛けて、かぐやちゃんに今日は泊めると電話を掛けた。


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