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第4話・下界での元カノの考え方

 タクシーに乗り込んだものの、行き先など決めてはおらなかった。


「どちらへ行きますか?」

「とりあえず走らせて下さい。」

「…分かりました。」


小梅のところは赤子がおるので駄目だ…

スマホで松乃どのの番号を出してボタンを押した。


『もしもしかぐやちゃん?久しぶりだね♪』

「松乃どの…今からそちらへ行っても良いか?」


思わず声が震えてしまった。何かを感じとったのか、すぐに来て!と言ってくれた。

松乃どのは玄関の外で待ってくれておった。


「かぐやちゃん、どうしたの?」

「松乃どの…グスッ…」


馴染みのある顔を見た瞬間、涙を堪えることが出来なかった。


「とりあえず、私の部屋に行こうね。」


促されて部屋に入ることとなり、松乃どのはホットミルクを持ってきてくれた。


「これ飲んで。少しは落ち着くよ。後、着替えた方がいいかな。身体を楽にした方がいいよ。」

「…かたじけない。」

「このくらいいいって♪」


涙が落ち着いた後、服を借りて着替えた。着物の帯を解くと緊張から解放された気分になり、気持ちも若干落ち着いてきた。


「今日は親族会議だったよね?何かあったの?」


掻い摘んで、親族から反対された事とジェニーの事を話した。


「そっかぁ~。大変だったね。それにしても元カノが来るとはねぇ~。」

「松乃どのは、もし秋人どのの元カノとやらがいても平気か?」

「そりゃ平気じゃぁないよ。でも、お互い過去は変えられないし、秋人もすべてを踏まえて私を選んでくれたって思うよ。だから元カノは私と会うまでの、ただの通過点だよ!」

「…そうか。私は中々そのように考えられぬな。」

「まぁ、キスしたら即結婚の家だし、かぐやちゃんの価値観なら難しいかもね。」


黙って頷いた。


「春樹はかぐやちゃんと会って変わったよ。何処となく冷めた感じで女の子を見てる気がしてたけど、人間味が出て来たもん。だからかぐやちゃん、自信持ってよ!」

「だが…」

「まぁすぐに気持ちの整理なんて付かないとは思うけどさ。結婚を反対されたのとダブルパンチだもんね。ホテルの事は私も一緒に考えるからさ♪」


暫く部屋におったら、秋人どのがやって来た。


「かぐやちゃん、聞いたよ!大変だったんだって?」

「まぁな…」


秋人どのは松乃どのの隣に座り、私を諭すように話し出した。


「テンカイではどうなのか知らないけど、こっちでは出会って別れてを繰り返して、最愛の人を見つけて行くもんなんだ。」

「そんなものか…」

「僕だって、そうやって松乃ちゃんを見つけられたんだ。かぐやちゃんは最初から一緒になりたい人を見つけられたんだから、ラッキーなんだと思うよ♪」

「…」


「春樹は恵まれた環境だけど、色々と嫌な事も沢山あって女の子を信用していないところがあったしね。そんな思いをして、やっとかぐやちゃんと出会えたんだ。過去があったからこそ、かぐやちゃんを想う気持ちは本物だと思うよ。」

「それは何となく分かるのだが…」


「って、すぐに切り替えるなんて無理か。」


まだ納得できぬ私を見て、秋人どのは苦笑いした。

松乃どのが気遣うように話し掛けてきた。


「今日はどうする?泊まっていく?屋敷に帰っても春樹がいるんでしょ?」

「それは申し訳ない故、遠慮しておく。ありがとう。」

「分かった。何かあったらすぐに電話してね♪」


その後、秋人どのから春樹どのが迎えに来ていると聞かされ、一緒に玄関へ向かった。


----------


 ジェニーに過去の事をバラされて、かぐやさんがホテルを飛び出していってしまった。


「かぐやさん!」

「“ふふ。あの程度で逃げるなんて、大した事無いわね。ほっとけばいいじゃない。それよりも久しぶりに…”」


腕を組んで私を引き留めてきたジェニーの言葉を遮るよう、乱暴に振り解いて睨みつけた。


「“今度、かぐやさんを傷つけることをしたら、あなたを潰す!そのくらいの覚悟でいて下さい。”」

「“ふん!勝手にすれば!どうせ私と結婚する事になるんだから。”」


すぐに追いかけたが、走り出したタクシーに追いつける筈もない。

爺やさんに電話を掛けてリムジンに乗り、一旦屋敷へ帰ることにした。乗って来たのが私一人だった事に、不思議そうな顔をしていた。


「かぐや様は…」

「すみません。私が不甲斐ないばかりに…」


何かを悟ったのか、爺やさんは黙って屋敷まで連れて帰ってくれた。



 屋敷に戻り、自分の車に乗り換えて、かぐやさんを探した。初めて想いを通わせた公園、いつも行っていた高台の公園、ショッピングモールにお気に入りのカフェ、映画館…


「何処に行ったんだ…」


ハンドルに顔を埋めて、ため息をついたところで秋人から、松乃さんの家でかぐやさんが泣いていると連絡が入った。

すぐに松乃さんの家に向かうと、秋人が玄関で待っていた。


「かぐやさんは!何処にいる!」

「春樹、落ち着いて!今は松乃ちゃんが話を聞いているところだよ。何があったのか教えてくれる?」

「分かった…」


秋人に今日あった出来事を話した。


「成程ね。かぐやちゃんの価値観では、過去を理解するのは難しいかもね。」

「ロスにいた頃の話しだし、耳に入ることは考えていなかったよ…」

「時間が掛るかもしれないけど、もう一度、信用を取り戻すしか無いんじゃぁない?」

「…そうだな。」


「それより、ジェニーって子は何で急に来たんだろうね。」

「それは私も疑問に思ったところだ。デパート部門からすれば、ホテル部門にも力が及ぶようにしたいのだろうけどな。」

「何か裏がありそうだね。」


かぐやさんが落ち着いたら連れて来ると言われ、暫く玄関で待機した。

秋人と松乃さんに連れられて出て来たかぐやさんは、真っ赤な目をしていた。


私がそんな顔をさせてしまったんだよな…胸が締め付けられた。



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