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第3話・親族会議の試練

 私の不安を余所に、会議は私の素性の疑問へと変わっていった。


「浦和家の財産を訳の分からない国へ持って行かれても困る。かぐやさんは候補から外した方がいいだろう。」

「そうね。何の後ろ盾も無い方ですし。」


何だかマズい方向へ進んで行っておる…


「みなさん、一方的過ぎませんか。二人の想いを尊重してあげましょうよ。」


隣に座っておった美咲どのが援護してくれた。


「想いだなんて、そんな青い事を言っている場合ではないでしょう。」

「美咲さんは、かぐやさんを信用できるのですか?」


「はい。もちろんです。」

「それは何故ですか?」

「春樹が何年もかかって、やっと口説いた女性だからです。みなさんも身に覚えがありますよね?お金目当てで寄ってくる人達を。そんな人達はすぐに仲良くなろうとしたがりますが、かぐやさんは違うからです。」


反対の声を挙げておった親族の皆が、思案顔になった。それ程ここにおる皆は、人を疑って生活をして来たのだなと想像できた。


「かぐやさんのご両親は何をされているのですか?」


一人の親族が私に話し掛けてきた。


「天界で上流貴族の身分を持っております。そこで帝から与えられた領地や荘園の管理をしております。」

「何だか歴史で習った気がするわ。嘘を付くのならもっとマシな回答があるでしょう。」

「嘘ではありません。」


「かぐやさん自身、テンカイの帝に直接仕える最も高貴な身分なのです。」


春樹どのが説明を付けたしてくれた。


「では、結婚したらその身分を捨てて浦和家に?」

「帝の命による所用は続けたいと思っています。」

「結婚しても浦和家とは関係の無い、自分の仕事を続けるおつもり?」


親族の一人が呆れたような声を挙げた時、ジェニーがすかさずアピールした。


「“私は浦和家の為にアメリカ中を駆け回ることが出来るわ。結婚したら春樹さんの役に立つのは当たり前のことよ。”」


「私は役に立つという基準で結婚相手を選ぶつもりはありません。」


春樹どのの反論も空しく、流れはジェニーの援護になった。

非常にマズい展開だ!と思っておったら、親族の一人がお父様達に話し掛けた。


「兄さん達はどう思っているの?」

「私達はまだ春樹とお付き合いする前から、かぐやさんに会っている。良家の出身だという事はすぐに分かったし、教養もある素晴らしいお嬢様だと思っているよ。」

「ですが、いくら良家のお嬢様だと言っても…」

「それにとても賢く聡明なお嬢様だ。実際、高校では常に春樹とトップを争っていたそうだからね。かぐやさんを迎える事に何の異論も無い。」


お母様も私を援護して下さった。


「かぐやさんは、一国の王子のプロポーズも断って春樹を選んでくれたのよ。一時騒がれましたユーリシア王国の件を覚えていらっしゃいませんか?あの相手がかぐやさんなのです。だからお金や名声目当てでは無い事は分かりますよね。」


お父様とお母様の言葉に会場は鎮まった。


「一つ、条件を付けたらどうかしら。」


今まで黙っておった親族の一人であるご婦人が、話し始めた。


「いくら二人が想い合っていたとしても、私達はこれからのホテル事業も考えなければいけません。ジェニーさんにはホテル経営の後ろ盾があります。かぐやさんには後ろ盾がありませんが、その力があるという事を見せて頂いたらいかがでしょうか。」

「その力を見せるとは?」

「例えば、インフィニティ紅葉坂ホテルですが、客室稼働率や来客数が落ちて来ていますよね。それを立て直し出来れば、ジェニーと同等と考えても良いと思います。」

「なるほどな。」


へ?私がホテルの立て直し?そんなの無理だ!

思わず春樹どのを見たが、闘志を燃やしておるのか受けて立つようだ。


「分かりました。私も一緒になって協力しますがそれでも宜しいですか?」

「構わないでしょう。ですが予算は限らせて頂きます。」


何だか訳の分からぬ展開になってきた…


「“そんなのスイーツバイキングでもすれば、すぐに人が集まるわよ。あっ!私が提案したもの以外での対策をお願いね!”」


ジェニーがわざとらしく言った。一番効率の良い方法を潰したという訳だ。だが、そんな考えも浮かばぬ私に何が出来るであろうか…


会議は立て直しの状況を見て、再開するということになった。


「かぐやさん、大丈夫?顔色が悪いわよ。」


隣に座っておった美咲どのが声を掛けてくれた。


「…大丈夫です。」

「私達レストラン部門も立て直しに協力しますね。」

「ありがとうございます。」


不安を隠すようにっこり笑って席を立ち、お手洗いへ向かった。



 ふう…盛大なため息を付き、鏡を見ながら手を洗っておったら、ジェニーが入ってきた。


「“あら、しっぽを巻いて逃げたのかと思ったわ。”」

「“逃げる必要など無い。”」

「“私とハルの関係を知ってもまだそんな事が言えるの?”」

「“春樹どのは私を大事にしてくれておる。それで充分だ。”」

「“そうね、ハルはみんなに優しいものね。私を初めて抱いた時もたどたどしいながら優しかったわ。”」


え?抱いた時?


「“ハルは私のバージンを奪った男なのよ。ハルにとっても私がバージンを奪った女ね。優しくされているのは、あなただけじゃぁ無いのよ。”」


茫然としてしまった。確かバージンって、初めてって、そういう事だよな…


「“まぁ、そういう意味では私の方が格上ね。私と別れた後はステファニーと一度関係を持ったみたいだけど、私を…”」


ジェニーの話しの途中であったが、これ以上話しを聞きたくなくて、お手洗いから飛び出した。


「おっと!」


飛び出したところで、春樹どのとぶつかってしまった。


「かぐやさん、大丈夫ですか?」

「春樹どの…おおかみの話は嘘であったのか?」

「え?急にどうしたのですか?」


そこへジェニーがお手洗いから出て来た。春樹どのは何かを察したらしい。


「“ジェニー、かぐやさんに何を言った!”」

「“私達がバージンを奪った同士だという事実しか話してないわよ。後はステファニーの事かしら。”」

「くっ!」


言葉を飲みこんでしまった春樹どのから、事実だと認めた事を悟った。


「かぐやさん、聞いて下さい。私にとって…」

「もう良い!」


春樹どのの腕を振りほどき、正面玄関に横付けされておったタクシーに乗り込んだ。爺やのリムジンを待てぬ程、急いでホテルから出たかった。


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