第82話・グアムの海を満喫♪
翌日、私達の部屋に皆が集まり、水着に着替えた。
「松乃ちゃんの水着、可愛い~!」
「小梅ちゃん、ありがとう♪」
「私なんて前に買ったものだよ!ってかぐやちゃんも?」
「年に1回も着ぬしな。」
何故か驚く皆に、春樹どのが説明しておる。
「ふふ。かぐやさんは必要に迫られた時にしかお買い物をしませんので、驚くかと思います。」
「うん、意外!」
「そうか?だが、質の良いものを買っておけば長く使えるであろう。天界におる時でもそうしておったぞ。」
「かぐやちゃんが高いものを買う理由が分かった気がするよ。」
「別に値段で決めておる訳では無いが…」
「だよね、買い物する時って値段見てないもんね。」
春樹どの以外は、皆が感心した顔をしておる。私はどれだけ散財をする者だと思われておったのであろうか…
気を取り直して、皆でビーチへ出た。
荷物番もある故、交代で先に私と春樹どのが海へ行く事となった。
「凄いぞ!春樹どの!何処まで行っても、膝までしか深さが無いぞ!」
「かなり遠浅の海岸ですね。もうちょっと沖まで行ってみますか?」
「そうしよう。ってこの石のような見た目だが、柔らかい物は何だ?」
「それはナマコです。」
「ってこれが全部なのか?」
「ふふ、物凄い数ですね。私もびっくりです。」
グアムの海にはナマコが沢山であった…新しい発見だ。
ナマコを避けながら、春樹どのと沖まで行った。水深二メートル程しか無い場所にも珊瑚があり、その周りに小さい魚達が泳いでおった。
「何だかダイビングを思い出すな。」
「ああ。あの初めてかぐやさんを抱い…」
「春樹どの~!!」
急いで春樹どのの口を塞いだ。
「ふふ。やっと近くに来てくれましたね。」
そう言って、私の腰を引き寄せた。
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「あっ!かぐやちゃんと春樹がいちゃつき始めた♪」
「本当だ♪」
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「み、皆から見えておるぞ!」
「大丈夫ですよ。一組は夫婦ですし、もう一組は私達以上に仲良しなカップルですから。」
「それはそうなのだが…」
しかし、それでも照れくさいものがある。
「だ、だが、皆の前で接吻だけは止めてくれ。」
「例えばこんな感じですか?」
え?
っと、思う間も無く、素早く口付けられた!
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「今、キスした♪」
「したな。」
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「い、今、言ったばかりではないか!」
「ふふ。お笑いのフリと同じで、キスして欲しいのかと思いまして。」
「そんな訳無いであろう!もうビーチに戻るっ!」
「待ってください、かぐやさん。」
呼び止める春樹どのの声を無視して、皆のところへ歩き始めた。
「そんなに照れないで下さいよ。」
「照れてはおらぬ!怒っておるのだ!」
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「あれ?かぐやちゃん怒った?」
「今更?」
「今更だな。」
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ビーチに戻ると、皆がにやにやと笑っておる。
「ん?何かあったのか?」
「何もないよ。ちょっと二人を実況中継しながら遊んでたところ♪」
じ、実況中継って!
思わず春樹どのを睨んだ。
「は、春樹どののせいであるぞ!」
「かぐやちゃん、誰も気にしてないから大丈夫だよ♪」
何故か皆は春樹どのを援護しておった。
私と同じく日本人の美徳を敬う者は何処へ…
夕食にはホテルから出発のサンセットクルーズディナーを予約しておった。海から上がり一旦解散してから、また皆で集まった。
クルーザーに乗り込み、まずはディナーを頂いた。
「このローストビーフは中々美味しいな。」
「インフィニティホテルのシェフが作っていますし、今回は少し特別メニューにして頂いたようです。」
冬馬どのが驚いたように、声を上げた。
「え?普通の料金しか払ってないけど…」
「冬馬、大丈夫だ。向こうが気を遣って勝手にしただけだ。」
「はは…そうなんだ。何だかすまないな。」
「ビールは飲み放題じゃぁないから、気を付けろよ。」
「明日の早朝帰るし、そこまで飲まないよ。」
美味しいコース料理を皆で堪能した後、夕日を見ようとデッキへ出た。
「うわっ!夕日が綺麗~♪」
何処までも続く水平線に、藍色と夕焼けの緋色が混ざった幻想的な空、言葉を失う程の美しさがあった。皆、しんみりと語り出した。
「これで学生も最後だね…」
「そうだな。」
「みんなと過ごせて、本当に楽しかった…」
「僕も楽しかったよ。松乃ちゃんとも出会えたしね♪」
「そうだね♪」
ここで、急に秋人どのが叫んだ。
「僕は、絶対松乃ちゃんと一緒になるぞ~!!」
「あ、秋人っ!」
「だって、僕達が一番初めに付き合い始めたのに、結婚が決まってないのって僕達だけじゃん!」
「そうだけど…」
珍しく松乃どのが照れておる。残りの四人でそっと海へ視線を戻した。
今、絶対後ろを見ては駄目だ…
「今日で旅行も終わりか…」
「またお金貯めて、友馬も一緒に来ような。」
「うん。」
冬馬どのが小梅どのの肩をそっと抱き寄せた。
左も見ては駄目だな…
と、ゴホン、ゴホン、と急に咳払いが聞こえ、ふと振り向くと、船長さんとクルースタッフが立っておった。
「“失礼、ちょっとお邪魔しても宜しいかな。”」
「“問題ありませんよ。”」
流暢な英語で春樹どのが答えた。春樹どのは船長と軽く会話を交わし、私達に向き直った。
「こちら、船長さんから卒業のお祝いだそうです。」
「うわ~!綺麗な花束!」
クルースタッフさんからそれぞれ六人に花束を渡された。
「“今日は色々とありがとうございました。いい思い出になりました。”」
「“将来の社長の門出だ。今のうちに点数を稼いでおかないとな!”」
「“ふふ。では私が会社を継ぐまで、長生きして下さいね。”」
「“じいさんになってもこき使われるのか!はは、まいったな!”」
船長さんは、大げさに肩を竦めて笑っておる。
クロードの時も思ったが、異国の者は皆、リアクションがオーバーであるな…
そして、それぞれのカップルの写真を撮った後、六人並んでの写真も撮って貰った。
「皆で写真を撮るのは、高校の卒業以来であるな。」
「そうだね~!懐かしいな♪」
夕焼けから夜になったところでマリーナへ戻り、そのままプールサイドのバーへ皆で行った。
「では、改めて乾杯~♪」
グラスが当たる音が賑やかに鳴った。
「小梅どの達は、早朝に帰るのか?」
「うん。朝の三時半には起きないと支度が出来ないかな。」
「それは大変だな。寝過ごさぬよう頑張ってくれ。」
「頑張って起きるね!」
冬馬どのがボソッと小梅どのの耳元で囁いた。
『小梅、今日は寝なくてもいいか?』
『え?』
『最後の夜だし、ずっと…』
「と、冬馬くん!酔ってるでしょ!」
あれ?
小梅どのが耳を押さえて真っ赤になり始めた。何と言われたのであろうか。
二人を見ておった秋人どのが身を乗り出した。
「何?何?冬馬、今度はハネムーンベイビー作るの?」
「ち、違う!違わないけど違う!」
「言ってる意味が分からないよ~!友馬ちゃん出来たのも酔った時だったよね♪」
「二人目作ったら、生活出来ないだろ!」
今度は冬馬どのが真っ赤になっておる。
「だったら余分があるから、部屋から持って来ようか?」
春樹どのがポン!と冬馬どのの肩に手を乗せた。
「だ、大丈夫だ!」
ふふ。このやりとりを見るのも最後だと思うと惜しい気がするな。
そんな楽しい夜も更けていき、名残惜しみながらも解散となった。
「では、気を付けて帰国してくれ。」
「かぐやちゃん達も楽しんでね!」
「またね~♪」
冬馬どのと小梅どのが手を振りながら帰っていった。
「じゃぁ、私達もホテルに戻ろっか♪」
「うん。また腹筋するの手伝ってね♪」
「ん?秋人どのは鍛えておるのか?」
「引退フォトで、上半身を脱いだ写真を撮るんだってさ!たるんだお腹じゃぁサマにならないからね~♪」
「成程な。頑張ってくれ。」
「良かったら撮影を見に来る?明後日だよ♪」
特に予定は入っておらぬし見てみたいが…私の考えを汲み取ってくれたのか、春樹どのがにこっと笑って答えた。
「邪魔で無ければ、最後だし見せて貰ってもいいか?」
「大丈夫だよ~!また明日にでも詳しくメールするね♪」
「分かった。楽しみにしているよ。」
「じゃぁ、おやすみ~♪」
秋人どのと松乃どのも手を振りながら帰っていった。
「それでは私達も部屋へ戻るとするか。」
そう言ったところで、急に春樹どのが私の肩を抱いてきた!
「ふふ。やっと二人きりになりましたね。」
「そ、そうだが…」
「クルーザーでは我慢するのが大変でした。船長が来ることが分かっていましたから。」
「そういう事か。」
皆がしんみりしておる時、春樹どのが何も手出しをして来ぬのが不思議であったが、納得である。
「あれ?もしかしてみんなの前でも平気になりました?」
「そんな訳無いであろう!」
「明日はお買い物以外に用事はありませんし、我慢した分、覚悟して下さいね。」
意味深に微笑まれた。今日の夜も長くなりそうだ…