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第78話・久しぶりのお泊りデートは極甘で!

 九月に入り、春樹どのも邸宅へ戻って大学へ通い始めた。冬馬どのと小梅どのも学食で顔を揃えた。


「子育てはいかがか?」

「もう、夜中ずっと泣いちゃって大変…」

「それで目の下にクマを作っておるのだな。」

「冬馬くんから暫く大学を休んだらって言われたんだけど、そうすると教育実習に行けなくなっちゃうしね。」

「そうか。何か手伝える事があったら、言ってくれ。」

「ありがとう、かぐやちゃん。」


冬馬どのは肩をすくめて苦笑いしておった。


「俺が夜中にミルクを飲ませるって言ったんだけど、母親がいる時は母乳にしろっておふくろに言われてな。教育実習が始まるまでは、倒れないように見張っておくさ。」

「冬馬どのも頑張ってくれ。」

「今のところそれくらいしか俺には出来ないけどな。」


昼間は冬馬どのの母上が面倒を見ておるそうだ。週末の度に小梅どのの父上がやってきて、孫にデレデレだそうだ。色々と丸く収まったようで安心であるな。



 それから程ない満月の日、義兄上と柳本どのが天界へ帰る夜となった。


「かぐやどの、今回は大変世話になりました。天界で道場が始まるのを楽しみにしています。」

「父上や母上、やよい姉様にもよろしくお伝え下さい。後、雪美とお腹の子にもですね。」


義兄上は照れくさそうに、分かりました、と答えた。


「かぐや様、お世話になりました。」

「柳本どのも、達者でな。」

「はい。下界で学んだ事を忘れぬよう、精進いたします。」


柳本どのが、春樹どのに向き直った。


「春樹どの、今回は色々とすまなかった。怪我はいかがであるか?」

「もうほとんど後も残っていませんし、大したことありません。」

「そうか。」


そして、天界の使者が中庭へ降り立ち、牛車に乗り込む時、柳本どのはもう一度春樹どのに声を掛けておった。


「かぐや様をよろしく頼む。」

「もちろんです。」


ん?何と言ったのか?

二人が天界へ昇った後、春樹どのに聞いてみた。


「柳本どのは何を言ったのだ?また何か言われたのか?」

「いいえ、ご心配はありません。男同士の約束です。」

「そうか。」


何やら嬉しそうであるので、嫌な事では無いのであろう。そのまま聞かない事にした。


「ところで、かぐやさん。そろそろお泊りデートはいかがですか?」

「え?そ、それは…」

「ふふ。その赤く染まった顔を見るのも久しぶりですね。」


そう言いながら、チュッ!と軽く口付けを落としてきた。


「じ、爺やと婆やもおるのだぞ!」

「お二人ならとっくの間に、屋敷へ入られましたよ。」

「え?」


二人がおったところに目線をやると、確かに居ないようだ。


「ふふ。気を遣って頂いたのでしょう。」

「そ、そうか…」

「そろそろ夜も肌寒くなってきましたし、温泉はいかがですか?」

「それは良いな。もう少しで紅葉も色付き始めるであろう。」

「では、紅葉が見頃になる時期に、宿を予約しておきますね。」



 山が美しい紅葉で染まる頃となり、二人で温泉へ出掛けた。温泉宿へ着き、先にチェックインを済ませた。


「ほう。ここは一軒家のようであるな。」

「本館は別にありまして、ここは離れになります。外を見て下さい。」


そう促され、外が見える障子を開けた。


「おお!紅葉が良い眺めであるな!って、露天風呂が付いておるのか!」

「紅葉を眺めながらゆっくりお風呂に浸かれますよ。寝室から脱衣所へ直接行く事が出来ます。」

「それは楽しみだ!」


食事までに時間があるので、ひとまず観光へ出る事となった。


「これはまた賑やかな温泉地であるな。」

「そうですね。ここは外湯が多いので、日帰りで楽しむ方も多いようですよ。」


温泉街を散策しておったら、珍しい看板を見つけた。


「あの秘宝館とは何だ?土産屋か?」


ぷっ!

いきなり春樹どのが笑いだした。


「な、何だ?可笑しなことを言ったか?」

「いえ、ご興味があるようでしたら行きますか?因みに展示してあるものは…」


耳元で春樹どのがこそこそと教えてくれた。


「え?!そ、それは…」

「ふふ。どうします?行ってみますか?」

「い、いや!やめておく!」

「それは残念です。」


まったく残念そうな顔をしてはおらぬ春樹どのに指と指を絡められ、再び温泉街の散策へと出掛けた。



 離れの部屋へ戻り、交代で風呂に入って夕食を頂いた後、再び部屋に付いておる露天風呂に浸かった。外の電気を消し、月明かりだけで紅葉風呂を楽しんでおった時であった。


ガラッ!

え?ドアが開いた?


振りかえってみると、春樹どのが立っておった。


「え?え?」

「せっかくですから、一緒に浸かりましょう。」


有無も言わさず、湯船に浸かってきた。

うっすらと月明かりに浮かぶ春樹どのは、髪の毛から雫が滴り落ち、胸元まで湯船から出た身体が、男であるのに何とも言えぬ色気を感じさせた。


だ、駄目だ!耐えきれない…


「の、のぼせそうだ…先に上がっておく。」


立ち上がろうとすると、春樹どのは突然ひょいと私を抱えて、湯船の縁に座らせた。


「え?」

「こうすれば、のぼせませんよ。」

「そ、そうだが…」


ゆっくりと私の前に立ちはだかり、頬に手を添えてきた。


「かぐや…」


私の名を呼ぶ甘い声にそっと目を閉じると、しっとりとした深い口付けが落とされた。頬に添えられた手は、いつの間にか頭の後ろと腰にまわり、まるで逃さないと言われているかのようだ。


「もう止まりません。かぐやが欲しい…」


そう言うや否や私を抱き上げ、露天風呂から出てベッドへ行き、そっと下ろされた。


「は、春樹どの!ちょ…」


言いかけた言葉は覆いかぶさってきた春樹どのに飲みこまれ、目も眩むような深い口付けに酔いしれた。


「今夜は離さない…」


熱を帯びた野生の目が、暗闇の中で妖しく光った気がした。

シーツに縫いとめられるよう指先を絡められ、首筋、鎖骨と下りていく口付けが、徐々に甘い世界へと導いていった。


「ん…」


触れる指先は優しく、落とされる口付けは甘く、久しぶりの逢瀬は私の思考を一晩掛けてゆっくりと溶かしていった。


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