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第74話・護るということ

「かぐやさん、週末ですが何処かへ出掛けませんか?」


同居が始まり暫くした日、春樹どのに誘われたが、既に約束があった。


「すまぬが、義兄上達を海へ連れていく約束をしておる。天界には海が無いのでな。」

「では、私も同行してよろしいですか?」

「一緒に来てくれるのであれば、案内もお願い出来るか?私も良く知っておる方では無い故、助かるぞ。」

「分かりました。楽しみにしていますね。」

「よろしく頼む。」


こうして、4人で海へ出掛ける事となった。

ふふ。二人きりでは無いが、久しぶりに一緒に出掛けられる事に、顔が緩んでしまった。



 週末、爺やが運転するリムジンで海へ行った。更衣室で水着に着替えて外へ出たところ、柳本どのが私を見るや否や、真っ赤になって怒り始めた。


「かぐや様!何故そのようなふしだらな格好をなさるのですか!」

「ただの水着だが…」

「ほとんど隠す面積が無いではありませんか!」


そして今度は、春樹どのに向いて怒りをぶつけ始めた。


「春樹といったか!このような格好をかぐや様にさせておぬしは平気なのか!」

「水着なので…」

「素性も分からぬ大衆に、かぐや様の裸同然の姿をさらすなど、あるまじき行為!」


「柳本どの…声がでかいぞ。頼むから黙ってくれ。」


柳本どのの反応は当然であろう。私が初めて海へ来た時の反応と同じであるからだ。気持ちは分かるが、通りすがりの皆が『裸同然』の一言に過敏な反応を示しておるではないか…


ここで、義兄上が助け舟を出してくれた。


「雅、周りを見ろ。皆、同じ格好であるぞ。」

「しかし足利様…」

「そなたのまくしたてる大きい声の方が注目を浴びておる。気を付けろ。」

「はい…」


納得してはおらぬようであるが、何とか収まったようだ。

そして荷物番を交代でする為、先に義兄上と柳本どのが海へと行った。


日焼け止めクリームを取り出したところで、春樹どのが思わぬ事を言い始めた。


「かぐやさん、日焼け止めクリームを塗りましょうか?」

「え?いや、自分で塗れるぞ!」

「でも、背中は塗り難いですよね?」

「ま、まぁ…」


春樹どのは私からさっと日焼け止めクリームを取ると背中に塗り始めた。久しぶりに素肌へ直接触る手に、ぞくぞくっとしてしまう…


「は、春樹どの…」

「ふふ。久しぶりに二人っきりになれましたね。」

「そ、そうだな…」


クリームを塗る、くすぐるような手つきに耐えきれなくなり、ガバッ!と立ちあがった。


「の、喉が渇いた!何か飲み物を買ってくる!」

「でしたら、私が行ってきましょう。かぐやさんは荷物番をお願いします。」

「わ、分かった。よろしく頼む。」

「間違ってもお酒は買ってきませんので、安心してくださいね。」


春樹どのは意味深に笑って、海の家へと歩いていった。


そういえば最近、触れるどころか接吻さえもしてはおらぬな…

何となく春樹どのと二人の時間を作りたいと思っておった時、またしても軽薄そうな輩達が近寄ってきた。


「あれ?お姉さん、一人でお留守番?」

「すぐに連れが戻ってくる。」

「退屈でしょ!それまでの間、俺らと一緒に遊びに行こうよ♪」


そう言いながら、腕を引っ張られた。


「触るでない!無礼者!」


「貴様ら、何をしておる!」


私の声が聞こえたのか、海から柳本どのが怒鳴りながら走って来た。


「やべっ!本当に連れがいた!」


軽薄そうな輩は、さっと居なくなった。


「かぐや様、大丈夫ですか?」

「大したことは無い。」

「かぐや様の事をお護りもせず、あの者は何をしておるのだ!」

「春樹どののことか?それなら…」


言いかけたところで、春樹どのが戻ってきた。


「どうかしましたか?」

「どうかしただと?かぐや様をほったらかしにして何処へ行っておったのだ!かぐや様が危ないところであったぞ!」

「え?」


力説される程の危険など無かったが…春樹どのに改めて説明した。


「春樹どの、大したことはない。またナンパとかいう因縁をつけられただけだ。」

「そうでしたか…すぐに戻って来れずにすみません。」


しかし、柳本どのの怒りは鎮まらなかった。


「かぐや様!もうこの者にかぐや様を任せてはおけません!このような危険なところ、すぐにおいとまいたしましょう!」

「しかし、まだ来たばかりであるぞ。」

「それでもです!」


そこへ義兄上が海から戻ってきた。


「どうかしたのか?」

「足利様、かぐや様が危ないところでした。もうこの者に、かぐや様を任せることは出来ません!」

「まぁまぁ、そう言うでない。」

「かぐや様に何かあってからでは遅いのです!すぐに屋敷へ戻りましょう!」


義兄上は、やれやれとため息をつき、仕方無いという顔をしておった。


ちらっと春樹どのを見た。ジュースを抱えたまま俯いて、落ち込んでいるようである。


「春樹どの、私が喉が渇いたと言ったばかりに、このような事になってしまい、申し訳ない。」

「いえ、かぐやさんは何も悪くないですよ。私の方こそすみませんでした。」


にっこりと笑っておるが、取り繕っておるような笑顔だ。恐らく責任を感じておるのであろう。その笑顔に胸が痛くなった。


そして、海へ一度も入ることなく、着替えて屋敷へ戻ることとなった。


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 はぁ…今日はかぐやさんを安心して任せて貰えるよう頑張るつもりだったのに、逆に怒りを買ってしまった。よりによって、柳本さんにナンパを追い返してもらうとは…


仕方ない事とはいえ、かぐやさんを護れなかった事実には変わりない。ぬるくなってきたジュースを胸に抱えたまま、大きなため息をついた。


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