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第72話・義兄上一行ご来界

 長く雨が続く梅雨となった。講義が昼からの時も午前中だけの時も、相変わらず学食には皆が揃っておる。


今日も皆とお昼御飯を頂いておったら、小梅どのから嬉しい知らせがあった。


「お腹の赤ちゃんの性別が分かったの!」

「おお!どちらであったのか?」

「男の子だって!」


「へぇ~!冬馬に似てやんちゃになりそうだね♪」

「秋人!俺はやんちゃはしてないぞ!」

「小学校の時はスカートめくりとかしてそうだけどね♪」


「…いや。」


その間は、本当にしておったのだな…

気を取り直して、小梅どのに改めて尋ねた。


「して、予定日はいつなのだ?」

「予定では8月10日だよ!」

「そうか。義兄上達がおる頃だが、連絡を貰えればすぐに駆け付けるぞ。」


「え?義兄さんが来られるのですか?」

「そういえば、まだ春樹どのにも言ってはおらなかったな。天界で道場を開くにあたり、私だけでは心もとない故、義兄上ともう一人部隊の者が二ヶ月間師範の道場へ通うこととなったのだ。」

「そうですか。では来られましたら、ご挨拶に伺いますね。」

「分かった。」



 そして、7月初めの満月の夜、義兄上達がやってきた。

天界の牛車から降り立った義兄上が、土産を手渡してくれた。


「かぐやどの、世話になります。」

「ふふ。世話をするのは爺やと婆やですけどね。もう一人の殿方とは…」


義兄上の後ろから現れたのは、柳本雅義どのであった。


「柳本どの、久しぶりであるな。」

「この度は私もお世話になり、恐縮です。」

「良い良い、一緒に道場を盛り立てて行こうではないか。」

「はい。精一杯習得させて頂きます。」


柳本どのは、帝の所用で時々下界へ来ておる故、下界に慣れておるとのことで一緒に来ることとなったらしい。


「義兄上、今夜はゆっくりとお休み下さい。下界では着物が目立つ故、明日になったら洋服を買いに行きましょう。」

「分かりました。案内をよろしくお願いします。」


そして、婆やに連れられて、二人ともそれぞれの部屋で休んだ。



 翌日、殿方用の洋服の見繕いの為、春樹どのも一緒に買い物へ出かけた。


「柳本どのは洋服を持っておったのだな。」

「はい。所用で時々下りる故、数枚は持っております。ですが、今回は長期なので、足りなくなりそうですね。」

「今日は春樹どのに見繕いをお願いしておる。好きなだけ買えば良い。」


柳本どのはチラッと春樹どのを見て、すぐに私へ向き直った。


「私は大丈夫です。それよりも足利様の洋服をお願いします。」

「分かった。」


春樹どのはにこやかな笑顔を絶やさず、二人に接しておる。


「今後も時々着る事を考えると、流行り物よりもベーシックな感じがいいかもしれないですね。いいショップがありますので、そちらへご案内します。」

「春樹どのにも世話になるな。よろしく頼む。」


春樹どのの言葉に義兄上が返事をした。ふふ。何だか将来、義理の兄弟となる二人が話しておるのも不思議な気がするな。


「そういえば、義兄さん達はどちらへ宿泊されているのですか?」

「かぐやどのの屋敷だ。」

「お二人とも一緒に?」

「一緒にだ。」

「そ、そうですよね…」


ん?春樹どのにしては、歯切れが悪いな…気にはなったが、またいつもの笑顔に戻ったので、大丈夫であろう。

あまり気に留めることなく買い物に行き、そのまま屋敷へ帰った。



 翌日、学食でお昼御飯を頂いておる時、春樹どのが道場へ行きたいと言い出した。


「可能なら見学させて頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「恐らく大丈夫であろうが、師範に聞いた後に返事をしても良いか?」

「はい、構いません。」


冬馬どのは不思議そうに尋ねておった。


「春樹、急にどうしたんだ?」

「かぐやさんの活躍を見た事が無いので、一度見学したいと思ったんだ。」

「そうか。今日は俺も行くし、師範には俺からもお願いをしておくよ。」

「よろしくな。」


夕方になり、いつもより少し早めに道場へ行った。師範から見学の許可を貰えたので、すぐに春樹どのに連絡をした。


----------


 邪魔になると思って一度も行ったことがない空手の見学を、気付けばお願いしていた。柳本さんという方の態度が気になっていたからだ。

まさか、かぐやさんを狙っているのでは…


かぐやさんはテンカイでは、不細工だと言っていたが、中身に惹かれたのなら、それも関係ないだろう。容姿に惹かれていない分だけ、厄介かもしれない…

空手の稽古を見学する時に、義兄さんに聞いてみよう。



 夕方になり、かぐやさんから見学の許可を頂いたと連絡が入った。道場へ入ると、すぐにかぐやさんが駆け寄ってきてくれた。


「春樹どの、待っておったぞ。」

「すみません。稽古のお邪魔にならないように見学させて頂きます。」

「ゆっくりとしてくれ。」

「はい。ありがとうございます。」


かぐやさんはにっこりと笑って稽古へ戻った。

冬馬が腕に付ける小さなマットを持って構え、そこへかぐやさんが蹴りを打ち込んでいる。


パン!パン!


蹴りを入れる度に、激しい音が鳴り響き、冬馬は時々かぐやさんに指導しながら相手をしていた。


「凄いな…」


初めて見る空手をするかぐやさんに、目を引きつけられた。私だけに見せる頬を赤らめた可愛いらしい顔とも違う、みんなに見せる屈託のない笑顔とも違う、凛々しい姿だ。


「かぐやどのは流石であるな。」


ふと、私の隣に義兄さんが座ってきた。


「そうですね。私も初めてみました。」

「いつもは見ておらぬのか?」

「はい。稽古の邪魔になると思って、遠慮していました。」

「では今日は何故見に来る気になったのか?」

「あの…」

「ん?」

「かぐやさんと柳本さんは、元々お知り合いでしょうか。」


義兄さんは笑いながら教えてくれた。


「雅とは知り合いも何も、二年前の夏に、求婚された相手だ。」

「え?求婚?もしかしてあのお祖父さんの時の…」

「そうだ。婚姻の予定だった間柄だ。」


「柳本さんはその後は誰かと結婚されたのですか?」

「あれからまだ誰にも求婚してはおらぬようだな。」

「まさかとは思いますが、まだかぐやさんのことを…」

「それは知らぬ。本人の胸の内だけだ。だが春樹どのが心配する事も無いであろう。」


これはマズいかも…

義兄さんのフォローも耳に入ってこなかった。


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