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第68話・母親の想い

 日曜日、そろそろ寝ようかと思っておった時間に、婆やが来客を感じ取った。


「おや、こんな遅い時間に誰であろう。爺が見てきます。」

「分かった。気を付けて。」


爺やに連れられてやって来たのは、大きな荷物を持った小梅どのであった。


「どうしたのだ!こんな遅くに!」

「ごめん、かぐやちゃん。暫く泊めて欲しいんだけど…」

「それは構わぬが、そんな重たい荷物を持つと身体に障るぞ。連絡してくれたら迎えに行ったのに。」

「それが、スマホも取り上げられちゃって…」


何やら訳ありのようであるな…


「婆や、私の部屋にもう一つ布団を頼む。」

「かしこまりました。」


ひとまず私の部屋へ案内し、風呂で落ち着いて貰った。その間に春樹どのへ連絡して、朝の迎えを断った。


「そういう事だったのですね。詳しい話はまた明日として、小梅さんをよろしくお願いします。」

「もちろんだ。春樹どのも、冬馬どのに事情を聞いてくれないか。」

「分かりました。後で連絡してみますね。」


小梅どのが落ち着いてから、話を聞いてみた。お父上がかなりお怒りのようで、明日にでも病院へ連れて行かれそうになったので、家出したそうだ。


「絶対に堕ろせの一点張りで…かぐやちゃんにも迷惑を掛けてごめんね。」

「ふふ。迷惑なら最初から屋敷の中へ入れないぞ。好きなだけここで過ごせば良い。」

「ありがとう。お父さんの怒りが静まるまでよろしくね。」


こうして、小梅どのが私の家で過ごすことになった。



「悪いな。かぐやにまで迷惑を掛けて…」


翌日、学食でお昼御飯を頂いておったら、冬馬どのが謝ってきた。


「別に構わぬぞ。屋敷が賑やかになって楽しいしな。」

「そう言って貰えると、助かるよ。」

「小梅どのは、朝から婆やの台所仕事も手伝ってくれたのだ。婆やも喜んでおったぞ。」


「婆やさんって、凄く料理が上手なんだよ!これを機会に色々と教えて貰おうかな!」

「小梅ちゃん、花嫁修業?いいね♪」

「ち、違うよ!って違わないけど…」


松乃どのにからかわれて、小梅どのは頬を赤く染めておった。冬馬どのは照れを隠すように、定食の肉じゃがを掻き込んだ。



 私の屋敷から小梅どのが大学へ通うようになったある日、屋敷へ誰かが尋ねて来られた。身なりは普通であるが、何処となく上品な雰囲気のあるご婦人であった。


「かぐやさんですか?いつも小梅がお世話になっています。」


小梅どのの母上であった。色々と話を聞きたいとのことで、近くのカフェへ移動した。


「母上どのは、反対をされてはいないのですか?」

「反対も何も小梅が高校生の頃から憧れていた相手でしょ?小梅が幸せになってくれればそれでいいのよ。」

「ご存知でしたか。」

「それに冬馬くん、毎日ウチに来て頭を下げているのよ。今時そんな律儀な子はいないわ。」


どうやらお怒りは小梅どのの父上だけのようだ。そして大学での様子をお聞きになって帰られた。

生活費としてお金を渡されそうになったが、それは断り、小梅どのが必要になった時の為に貯めてくれと伝えた。


----------


 毎日通っても、小梅のお父さんには話しさえも聞いてもらえない日が続いていた。

ふう…ため息をつきながら家へ帰ると、物置部屋に置かれてた荷物が外へ出されていた。


「おふくろ、どうしたんだ?」

「どうしたも何もないでしょ!ほら、早く片付けを手伝いな!」


訳のわからないまま、荷物を運び出すのを手伝わされた。


「小梅さんだっけ?空手が一緒のかぐやちゃんの家にずっといるんでしょ?」

「ああ。中々家には帰れないみたいだ。ってもしかしてこの片付けって…」

「やっと分かったの?ホント鈍いわね!我が家の嫁がよそ様に世話になりっぱなしなんておかしいでしょ!」

「我が家の嫁って…」

「馬鹿冬馬!あんたが照れてどうすんのよ!」


い、いや…急に現実味が…


「まぁ狭いけど、あんたの部屋と合わせれば寝るくらいは何とかなるでしょ。明日にでも小梅さんに知らせておいで。」

「ありがとう…」

「あんたから礼を言われると気持悪いわ!」


物置部屋に置かれていた家財道具はリサイクルショップに引き取ってもらった。二束三文くらいにしかならなかったが、赤ちゃん用の布団くらいは買えると笑っていた。

口は悪いがやっぱり親だな…改めて心の中だけでありがとうと呟いた。


----------


 小梅どのの母上が来られて数日後、いつもどおり小梅どのと一緒に大学へ行くと、冬馬どのから小梅どのに一緒に住もうとの提案があった。


「おふくろが、狭いけど一部屋片付けてくれたんだ。いつまでもかぐやの家に居候する訳にはいかないだろ?」

「でも、本当にいいの?」

「大丈夫だ。我が家の嫁って言ってたしな。」

「そうなんだ…」


小梅どのは嬉しそうに、はにかんでおった。


「小梅どの、実は小梅どのの母上が先日尋ねられてきたのだ。」

「え?本当?」

「お怒りは父上だけのようだ。母上は歓迎されておったぞ。」

「お母さん…」


後日、両家の母親と本人達を交えて食事会をしたそうだ。そして小梅どのは冬馬どののご実家で一緒に住むことになり、入籍を3月3日に済ませた。


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