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第66話・冬馬の決断

 昼休み、春樹と一緒に、冬馬を呼びだした。


「何だよ、改めて話しって。」

「冬馬、落ち着いて聞いて。小梅ちゃんが妊娠した。」


「…え?」


「だから、小梅ちゃんが妊娠したんだって。」

「な、何かの冗談だろ?俺、ちゃんとしてたぞ!」

「それだって100%じゃぁないだろ!それに酔っぱらった日はどうしたんだよ!」

「あ…」

「やっぱ身に覚えがあるじゃん。」


「た、確かにあの時、卒業したら一緒に住もうって言った…まさか俺…」


かなり動揺してるな。まぁ突然、子供が出来たなんて言われたら無理もないか。


「とにかく、今、冷静に…」


ガシッ!

いきなり春樹が冬馬の胸倉を掴んだ!急いで止めに入った!


「動揺している場合じゃぁないだろ!」

「ちょっ!春樹!何してるんだよ!」

「秋人は黙っててくれ!」


「冬馬!小梅さんがどれだけお前の負担になりたくないって悩んでいるか分かるか!お前がするべきは、少しでも小梅さんの不安を取り除くことだろ!」

「春樹!言い過ぎだ!冬馬だって今いきなり言われたんだ。動揺するのも当たり前だろ!」


僕の言葉に、春樹はちょっと冷静になった。


「すまない…言い過ぎた。」

「いや、大丈夫だ。かえって冷静になったよ。ちょっと一人にさせてくれ。」


「冬馬。」

「何?」

「何があっても俺達は二人の味方だからな。何か困った事があったらすぐに言えよ。」


冬馬は春樹の言葉に、ありがとうと笑って、その場を後にした。


----------


 一人で考えながら歩いた。

春樹たちには冷静になったと言ったが、正直なところまだ動揺している。


「俺が父親かぁ…」


俺が小梅を守るって言ったのに、俺のせいで負担をかけさせてしまうな…まだ学生だし金銭面の事だってある。っていうか、これが一番デカい問題だ。


「春樹たちみたいにお金があればなぁ…」


って、違う!日本の大学生の99%は俺達と同じ一般家庭の筈だ!残りの1%のセレブと比べてどうする!


羨ましく思う時もあるが、あいつらは決して俺を卑下することも無いし、変に同情することもない。俺だけ庶民だが、気が合う仲間だ。それだけに、二人が心配してくれている事は充分伝わってきた。


とりあえず小梅と話をしよう。

すぐにスマホを取り出して、講義中の小梅にメールを送った。



 講義が終わって、二人で近くの公園へ出掛けた。

歩いている間も、お腹に負担が掛るんじゃぁないかと気が気でなかった。


「そんなに歩いて大丈夫か?」

「うん、大丈夫。」


公園のベンチに座る時、はっとした!確か、身体を冷やしたら駄目なんだよな!

すぐにコートを脱いで、ベンチに置いた。


「ここに座れよ。」

「冬馬くんが風邪をひいちゃうよ。」

「そこまで軟じゃぁないよ。よく知らないけど、冷やしたら駄目なんだろ?」


二人で座って、小梅は俯きながらぽつりと話し出した。検査薬をかぐや達に買ってもらう時に、秋人と春樹にもバレたらしい。秋人に付き添ってもらって、病院へ行った事も聞いた。


「私…」

「ん?」

「さっきまで、赤ちゃん堕ろそうと思ってたの。冬馬くんの負担になりたくなくて。」

「え?」


俯いていた小梅が顔を上げて、俺に微笑んだ。


「でも、気が変わっちゃった!だって、冬馬くん、さっきから凄く気遣ってくれるんだもん!」

「俺、堕ろすことは考えてなかった。ただ、小梅を守るって言いながら、逆に俺が一番負担を掛けさせてるっていうか…小梅の中に俺の…」


うわっ!改めて考えると照れてきた!誤魔化す為に、席を立った。


「何か、温かいもの買ってくるよ。コーヒーでいいか?ってコーヒーは駄目なんだっけ?何なら飲めるんだ?お茶か?いや、お茶にもカフェインって入ってるよな…」


おたおたしてたら、小梅に笑われた。


「くすっ!冬馬くん、動揺し過ぎだよ!」

「あ、ごめん。何せ初めての事だし…って小梅も初めてだよな。」


落ち着け!俺!

一つ咳払いをして小梅に向き直った。


「まずはお互いの両親に話をして、入籍の許可を貰おう。すぐに一緒には住めないかもしれないし、俺に全部任せとけって言えないところが情けないけど、就職したらお金は何とかなる筈だ。結婚式も新婚旅行も全部後回しになるけど、それでも俺と一緒にいてくれるか?」


小梅は無言で頷いた。涙を堪えているような感じだ。そっと抱き締めた。


「小梅、結婚しよう。」

「グスッ…うん。」


「あ~!このお兄ちゃん、お姉ちゃんを泣かしてる!」

「駄目なんだぞ!何いじめてるんだよ!」


公園に来ていたくそガキどもが絡んできた。


「うるせぇ!あっち行け!」

「泣かしてる!泣かしてる!いっけないんだぞ~!」

「あぁ~!せっかくの感動の場面を壊しやがって!」


俺の叫びを聞いた、くそガキどもの母親らしき人達が謝ってきた。


「すみません。ほら、お兄さんとお姉さんラブラブしてるんだから、邪魔しちゃ駄目よ!」


ラブラブって…

小梅と思わず顔を見合わせた。


「ふふ。涙も引っ込んじゃった!」

「だな。じゃぁ、行くか。」

「うん。」


まだ何か言って来るくそガキどもを無視して、小梅の肩を抱きながら公園を出た。そして、みんなに話があると言って、カフェに呼び出した。


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