第64話・事件勃発
「かぐやさん。明けましておめでとうございます。」
「春樹どの、明けましておめでとう。今年もよろしくな。」
今年も春樹どのと初詣へ行く事となった。
「今年で5回目であるな。」
「かぐやさんと出会って、5年ということですね。」
あの頃と違う事と言えば、屋敷を出てからすぐに手を繋ぎ、お互いの顔を見て微笑み合っておることだ。
「縁とは不思議なものであるな。」
「そうですね。私は、かぐやさんと出会うまで、父と母のような年を重ねても信頼し合えるパートナーには、一生出会えないと思っていました。」
「そうなのか?」
突然、春樹どのはチュッ!と頬に軽く口付けた。
「な、な!ここは公道であるぞ!」
「ふふ。今ではこんなにも心の底から幸せを感じる女性と出会えたのですから、私は果報者です。」
「私は心臓が暴れ過ぎて、早死にしそうだ…」
「それはいけませんね。特別医療チームを編成しなければ。」
「そ、そこまでの事ではあるまい!大袈裟であるぞ!」
「ふふ。そのくらい大事にしたいと思っていますよ。」
神社に着き、毎年のようにお参りをした。
<今年も春樹どのが幸せになれますように。>
<皆が無事に卒業できますように。>
<春樹どのといつまでも一緒にいれますように…>
顔を上げた時、春樹どのはまだ熱心に拝んでおった。ふと、顔が上がって目が合うと、にっこり笑って参道へ戻った。
「今年はいつもより、長かったな。」
「毎年同じ願いを叶えて下さっていますので、そのお礼もしておきました。」
「同じ願いとは?」
「もう言っても大丈夫ですね。実は、毎年かぐやさんとここへ初詣へ来れますようにとお願いをしています。」
「へ?そうなのか?って5年前は…」
「もちろん5年前からです。来年も、再来年も、50年後も一緒に来れますようにって。」
ご、50年後に一緒って事は、その頃から婚姻も考えてたってことか…
「ふふ。かぐやさんの考えている事が手に取るように分かりますよ。」
「え?」
「だって、りんご飴みたいに頬が赤く染まってきていますから。」
「き、気のせいであろう!」
「そういう事にしておきます。」
「わ、私こそ果報者だと思っただけだ!」
「ふふ。ありがとうございます。5年前はまだ幼いですし、漠然としか考えていませんでしたが、その頃からずっと傍に居たいと思っていましたよ。」
その後、何処かでゆっくりコーヒーでも飲もうという話しになり、新春セールとやらで賑わう街を二人で歩いておった。
その時、ふと、見覚えのある姿が見えた。
「あれ?小梅どのではないか?」
「本当ですね。ドラッグストアでお買い物でしょうか。」
「しかし、何も買わずに出て来たみたいだぞ。」
「お~い!小梅どの~!」
手を振って声を掛けてみた。が、小さく手を振って、そのまま去っていった。
「何か急ぎであったのであろうか…」
「そうですね。冬馬でも待たせているのかもしれませんよ。」
「かもしれぬな。また大学で会う故、その時に新年の挨拶をしよう。」
その時は深く考えなかった。
だが、大学が始まり待っていたのは、顔面蒼白な小梅どのであった。
その日、松乃どのと私は、大学から離れたカフェへ呼び出された。
「話しってなぁに?」
「そ、その…」
小梅どのは言い難そうに、ぽつりと呟いた。
「せ、生理が来なくて…」
…
「えぇ~!!」
「本当か?」
「しっ!声が大きいよ!」
「して、どのくらい遅れておるのだ?」
「一カ月くらい…」
「小梅ちゃん、調べてみたの?」
「それはまだ…」
それで、正月に見かけた時、ドラッグストアの前でうろついておったのだな。
「分かった!私とかぐやちゃんで今から検査薬買いに行ってくるから、小梅ちゃんはここで待ってて!」
「うん…ごめんね。」
「いいって!これからの事は結果を見てから考えよ♪」
「ありがとう。」
松乃どのと一緒にカフェを飛び出して、ドラッグストアを探した。
----------
秋人と久しぶりに買い物へ出ようとしていた。
「あれ?松乃さんとかぐやさんじゃぁないか?」
「本当だ♪運命を感じるね!お~い♪」
秋人が手を振ったが、二人は気付かずに小走りで去っていってしまった。
「何かあったのかなぁ~。」
「深刻そうな顔だったし、心配だな。行ってみるか?」
「おう♪」
かぐやさんと松乃さんは、焦ったようにドラッグストアへ掛け込んだ。
----------
「ドラッグストアってよく見かけるけど、探そうと思うと中々無いもんだね!」
「そうだな。って、あそこに薬って書いてあるぞ!」
「個人商店っぽいところは駄目だよ!他にお客さんが沢山いて、誤魔化しながら買える店じゃぁないと!」
「そんなものか。」
小走りに探し、やっと大きめのドラッグストアを見つけて入ったが、松乃どのはいきなり雑誌をかごに入れた。
「ん?何故雑誌など買うのだ?」
「これの下に検査薬を隠すんだよ!じゃぁないと、何処で誰が見てるか分からないからね!下手したら小梅ちゃんのこともばれちゃうかもしれないじゃん。」
「なるほど。松乃どのは相変わらず策士であるな。」
「もう!そんなところで感心しないで!」
二人でこそこそと簡易検査薬を隠しながらレジでお金を支払い、店を出たところで前を立ち塞がれた。
立っていたのは険しい顔をした秋人どのと春樹どのであった。