表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/169

第63話・すべてを包み込む優しさ

 その後パーティーはダンスタイムとなり、さりげなく中庭へ出てベンチに座った。


「ふう。何だか挨拶ばかりで疲れたな。」

「すみません。疲れさせてしまって。無理をされてはいませんか?」

「大丈夫だ。今後もこのような機会があろう。これからもパートナーとして出るぞ。」

「ありがとうございます。かぐやさんが傍に居て貰えると、とても心強いです。」


「春樹どのの力になれるのは、このくらいしかあるまい。」

「いいえ、かぐやさんからはいつも力を頂いておりますよ。」

「そうなのか?」

「穏やかになる気持ち、ドキドキする気持ち、かぐやさんを想う気持ちのすべてが私の原動力です。」

「ふふ。それは良かった。」


二人で顔を見合わせて微笑み合い、穏やかなひと時を過ごした。


「ところで、ダンスはまだ苦手ですか?」

「まだまだ鍛錬が必要だとは思うのだが、中々重い腰が上がらなくてな。」

「ですが、初めて一緒に踊った時は、とても良かったと思いますよ。」

「クロードどのがいた時であるな。あの日、春樹どのと一緒に踊った時は楽しかったのだが…」


それを聞いた春樹どのが私の前に立ち、手を差しだしてきた。


「お嬢様、宜しければ一曲お願いします。」

「ふふ。ここは中庭であるぞ。」

「誰も見ていませんので、二人だけの舞踏会です。」


春樹どのの手を取り、会場から聞こえてくる音楽に合わせ、二人で踊り出した。


「かぐやさんとても上手ですよ。」

「春樹どのと一緒であると上手になった気がするな。とても楽しいぞ。」

「私もかぐやさんと踊るのは、とても楽しいですよ。きっと二人の相性が良いのでしょう。」


微笑み合いながら二人きりのダンスを楽しんだ。



 『見て!中庭で踊っている二人、素敵だわ♪』

 『あら、本当ね。とても楽しそうだわ。』



中庭から戻ると、何故か皆がちらちらと私達を見ておった。



 パーティーは無事に終わり、そのままホテルのスイートルームへ行く事になっておった。だが、今夜は断ろうと考えておったのだ。


「かぐやさん、そろそろ部屋へ行きましょうか。」

「その事なのだが…」

「ん?」

「今日は帰ろうかと思っておる。」

「何か用事でもありますか?」


用事など何も無いのだが、実は女子日なのだ。


「そ、その…」


言い難い!非常に言い難い!


「何かあるのでしたら、遠慮なく言って下さい。」


春樹どのは微笑みながら視線を私に合わせて少し屈み、優しく促した。


「じ、実は…月に一度の…」


「…あぁ、生理ですね。」

「そ、そうはっきりと!」

「もしかして、私がかぐやさんを抱けないから残念がると思ったのですか?」

「ま、まぁ…」


俯いておったら、頭上から盛大なため息が聞こえた。


「ふう…とても残念です。」


やはり、そうであるよな…


「私の愛情がその程度だと思われているのでしたら、とても残念です。」

「…へ?」


急にふんわりと抱き締められた。


「抱けないのなら帰ろう、とでも言うと思いましたか?私はかぐやさんを抱きたいから、お泊りデートをしている訳ではありませんよ。」


抱き締めながら、額にチュッ!と口付られた。


「かぐやさんと一緒に過ごす夜よりも、一緒に目覚める朝の方が好きなのです。とても幸せを感じますから。」


今度は頬にチュッ!と音を立てて口付けてきた。


「正直、男として残念に思う部分は否めませんが、たとえ抱けない日であっても、かぐやさんを抱き締めて眠りたいのです。」


最後に鼻先へチュッ!と口付けが落とされた。


「駄目ですか?」

「いや…駄目ではない…」

「ふふ、良かったです。では部屋へ行きましょうか。」


私は何を遠慮しておったのであろうか。私のすべてを包み込むこの優しい腕の中は、何故こんなにも居心地が良いのであろう…

何とも言えぬ幸せが、胸を温めてくれた。


「春樹どの…」


春樹どのの顔を見上げた時、ふと、視界に人だかりが見えた。パーティーの出席者達がこちらをじっと見ておるではないか!


って、ここはフロントだった!急いで離れようとすると、抱き締める腕の力が逆に強くなった。


「は、春樹どの!皆が見ておるぞ!」

「見せつけておきましょう。二度と花嫁候補なんて言われないように。」


余裕の笑みを人だかりに向けながら私の肩を抱き、カードキーを受け取ると、そのままスイートルーム専用エレベーターへ乗り込んだ。



 部屋に入り、交代でシャワーを浴び、春樹どのはシャンパンを飲み始めた。


「先程も飲んでおったが、大丈夫か?」

「ふふ。今日のかぐやさんは一段とお美しいですね。」


へ?もしかして酔っておるのか?


「もうその辺で…」


言いかけたところ、ガバッ!とベッドに押し倒された。


「は、春樹どの!」

「大丈夫です。決して手は出しませんから。そのくらいの理性は残してありますよ。」

「そ、そうか…」


そう言いながらも、微笑みながら啄むような口付けを繰り返してきた。


「ふふ。くすぐったいぞ。」


身をよじるものの、しっかりと腰を抱き込まれ、動けぬ状態だ。


「かぐやさん、大好きです…」


チュッ!と音を立てて、甘えるように口付けを繰り返す春樹どのが可愛らしく思え、そのまま受け入れた。

結局、春樹どのが寝落ちするまで、甘美な口付けは繰り返された。


春樹どのは酔うと、いつも以上にキス魔というものになるようだ。

ふふ。新しい発見であるな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ