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第62話・パーティーは戦場

 街はクリスマスの飾り付けで賑やかになってきた。秋人どのは、ついついディスプレイに目が行ってしまうようになったと、笑っておった。

それぞれの進む道が決まり、良い年越しとなりそうだ。


いつもの高台の公園に車を停め、春樹どのと他愛も無い話をしておった時だ。


「そういえば春樹どの、冬休みも何処かで働くのか?」

「いいえ。実は父から学生の間、海外禁止命令を出されてしまいまして…」

「まぁ夏に銃で撃たれたばかりであるし、お父様の気持ちも分かるな。」

「卒業旅行までお預けです。」


春樹どのは残念そうに肩をすくめておった。


「それと、父からクリスマスパーティーの代理出席を頼まれまして、もし良かったら一緒に出席して頂けないでしょうか。」

「パーティーか。ダンスは必要か?」

「いいえ。あれから練習も出来ていないでしょう。無理に踊られなくても大丈夫ですよ。」

「分かった。では一緒に出席しよう。」

「ありがとうございます。では二人出席で返事をしておきますね。そのままお泊りデートをしましょう。」


パーティーは、桜小路家が毎年主催しており、財閥や会社経営者など色々なセレブとやらが集まると言っておった。桜小路どのも留学先から戻ってくるらしい。

久しぶりに観察させて頂くとしよう。


ドレスは、春樹どのが用意してくれた。光沢を押さえた上品なシャンパンゴールドで、シンプルで洗礼されたデザインは一目見て気にいった。



 当日、春樹どのにエスコートされてロイヤルインフィニティホテルへ着いた。

会場へ入ると、いつも以上に煌びやかで豪華なドレスを身に纏ったご婦人や姫君達、品の良い殿方達が沢山であった。


「何だか、いつもと雰囲気が違うな。」

「私も高一以来、久しぶりに出席しました。今回は両親の代理ですし、気軽に楽しみましょう。」


ボーイから春樹どのはシャンパン、私はオレンジジュースを受け取った時、声を掛けられた。


「あら!春樹さまではないですか♪って、かぐやさんも居たの…」


おお!桜小路どのだ!しかも百面相が瞬間的に行われておる!磨きがかかっておるな!


「桜小路さん、お久しぶりです。イギリスでの生活はいかがですか?」

「中々楽しいですわ。春樹さまも留学されてはいかがですか?」

「私は卒業したら後継者として働きますので、留学する時間は無いですね。」

「まぁ!それは素晴らしいですわ♪是非久しぶりにダンスでも一緒にいかがですか?」


桜小路どのの声がワントーン上がった時、春樹どのは私の肩をグッと抱き寄せた。


「申し訳ありませんが、フィアンセ以外と踊る気はありませんので。」


「ふぃ、フィアンセ?!いつの間に!」

「はい。フィアンセです。ではこれで失礼しますね。」


鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした桜小路どのを置いて、二人でその場を移動した。


「ふふ。びっくりしていましたね。」

「中々面白い顔をしておったな。久しぶりに楽しかったぞ。」


二人で談笑しておったら、何処からかやってきた白髪交じりの殿方に話し掛けられた。


「もしかして浦和家の長男かい?」

「お久しぶりです、芝浦会長。」


ん?芝浦って聞いたことがあるな。確か家電製品でよく聞くような…


「今日はお父様とお母様はいらっしゃらないのかい?」

「今回は私が代理で出席させて頂きました。」

「という事は、後継ぎになる覚悟を決めたのか?」

「はい。今後ともよろしくお願いいたします。」


後継ぎと聞き、白髪交じりの殿方は急に、にこやかになった。


「では花嫁候補もそろそろ必要だろう。今日は孫娘も来ているので、紹介しよう。」

「大変恐れ入りますが、今日はフィアンセを連れて来ております。」

「候補は何人いてもいいだろう。」

「いえ、候補ではなくて、彼女に決めています。」


ここで、白髪混じりの殿方は初めて私を見た。先程までのにこやかさは消え、眉間に皺が寄っておる。


「名は何と言うのだ?」

「竹野塚かぐやと申します。」

「どこのご令嬢かな?」


えっと…どう説明して良いのか…チラッと春樹どのを見た。


「彼女は貴族出身なのです。今後ともご指導の程、よろしくお願いいたします。」


春樹どのが説明してくれて、一緒に頭を軽く下げたが、白髪混じりの殿方は下から上まで値踏みするように私を見ておった。


「見た目はまぁまぁだな。貴族というのであれば、当然何かの嗜みくらいは身につけておいでかな。」


う~ん…これは試されておるのかな?よく分からぬが空手と答えるのは避けておいた方が良いであろう。

無難にお茶やお花、琴、舞など天界の姫君達が習う事を答え、春樹どのが説明を付け加えてくれた。


「海外からのお客様の歓迎パーティーで、琴を演奏して頂いた事があります。とても素晴らしい演奏で大好評でした。」

「ほう。それは中々便利だな。」


むむっ!便利とはどういう事だ!私は物ではないぞ!


「まぁ、また気が変わることがあったら声を掛けてくれ。」


そう言いながら白髪交じりの殿方は去って行った。春樹どのが私を気遣うように話し掛けてきた。


「かぐやさん、お気を悪くしないで下さいね。孫娘さんを紹介出来なかったから、あのような言い方をされたのだと思います。」

「まぁ、そのようだな…」


以前、春樹どのが家のお金や地位目当てで寄ってくる人間が多いと言っておったが、ここまであからさまなのだな。穏やかな仮面を被ったパーティーの水面下では、戦場のような激しい戦いが繰り広げられておるようだ。


これからパーティーがある時には一緒に出席して、春樹どのを守らねば!

人知れず決意をした。


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