第11話・寝ている間の絵空事
ジュースと間違えて酎ハイを飲んだかぐやちゃんの様子がおかしい。
冬馬と小梅ちゃんが心配そうに声をかけた。
「かぐや、少し横になるか?」
「…」
「かぐやちゃん?」
ギュッ!
いきなり小梅ちゃんに抱きついた!
「小梅どのぉ~♪そなたは本当に可愛いらしいな~♪」
「えっ?」
「松乃どのぉ~♪」
ギュッ!
「そなたは本当に良いやつじゃ!」
「ちょっ!かぐやちゃんどうしたの?もしかして酔ってる?」
「秋人どのぉ~♪」
ギュッ!
「うわっ!」
「お主はなかなか気が利くやつじゃ!」
「あ、ありがと…」
「冬馬どのぉ~♪」
ギュッ!
「いつも指導をありがとな!感謝しておるぞ!」
「そ、そうか…」
「春樹どのぉ~♪」
ギュッ!
「そなたはいつも優しいな~♪」
「それはどうも…」
かぐやちゃんは立ち上がり、拳を上に突き上げた。
「そうだ!容姿がなんだ!貴族上等!お~♪」
『容姿って何かあったのか?』
『容姿が原因で、よく喧嘩を売られるとか言ってたな。』
『美人も苦労があるんだね~。』
そして、いきなりビシッ!と海を指さした。
「海だ!泳ぐぞ~♪」
ガバッ!
「俺のパーカー脱ぎ捨てた!」
「いや、まて!酔って海は危険だ!」
「ひゃっほ~♪」
「うわっ!追いかけろ!」
「私達が荷物見ておくから、かぐやちゃんをよろしくね!」
「分かった!」
荷物を松乃ちゃん達に任せて男三人が追いついた時、かぐやちゃんはすでに海の中で呑気に泳いでいた。
スイス~イ♪
「海とは広くて気持ちいいなぁ♪」
「変わった泳ぎ方だな。」
「たぶん古式泳法だ。」
「へぇ~、初めて見た。」
「ってか、泳がせていいの?」
「そうだ!止めないと!」
春樹が、かぐやちゃんを後ろから羽交い締めにして、泳ぎを止めた。
「かぐやさん!危ないですよ!」
「ん~?春樹どのぉ!そなたの身体は固いなぁ。」
「…え?」
「ぷぷ!春樹って何処を硬くしてんの~♪」
「煩い!秋人!」
ふと、振り向いたかと思うと、次は冬馬を指差した。
「冬馬どの発見!えいっ!」
「うわっ!いきなり背中に乗るな!」
「沖へ向かって出発じゃ~♪」
「抱きつくな!胸が当…」
「え?何だ?」
「いや…」
「かぐやちゃん、そろそろビーチに戻らない?小梅ちゃん達が待ってるよ♪」
僕の言葉を聞いて、冬馬の背中からかぐやちゃんが下りた。
「秋人、助かった!」
「どういたしまして♪」
「ってかぐやちゃんどうしたの?」
かぐやちゃんが僕に垂れかかってきた。
「秋人どの~♪まだ遊びたいのだが無理か~?」
「うわっ!指で体なぞらないで!」
「あれ?小梅どのたちはどこだ?」
「二人ともビーチだよ。」
「なら私も戻るぞ~♪」
「行っちゃった…」
「相当な小悪魔だな。」
「二度と酒は飲ませないようにしよう…」
…
「小梅どの、松乃どの、ただいまなのだ!」
「かぐやちゃんおかえり♪」
「そろそろシャワー浴びて着替えようか。」
「承知した!では水浴び行くぞ~♪」
「ん?」
海から上がって来た僕達三人を見て、松乃ちゃんが首をかしげた。
「どうしてみんな顔赤いの?」
「気のせいだよ。」
「頼むからほっといてくれ…」
シャワーから上がり、身支度を整えて外へ出ると、かぐやちゃんは松乃ちゃんにもたれ掛かって寝ていた。
「あれ?今度は寝ちゃった?」
「うん。シャワー室でもはしゃいでたし、疲れちゃったんじゃぁないかな。」
「かわいい寝顔だね♪」
「お迎えのリムジンが来たよ。」
「じゃ、私が担いでいくよ。」
春樹がかぐやちゃんをお姫様抱っこしてリムジンまで運び、全員乗り込んで帰宅の途についた。
「リムジン初めて♪乗り心地いいね!」
小梅ちゃんはリムジン初体験か。
「しかし、かぐやはずいぶん楽しんでたな。」
「覚えているかどうかは別だけどね♪」
松乃ちゃんが嬉しそうにしている。
「でも、酔っぱらって言ってたのは本音だろうね♪」
「可愛いところあるね!もしかしてツンデレ?」
「普段は恥じらいが前面に出るのでしょう。名家だろうし、抑制している部分が大きいのでしょうね。」
「ふ~ん。お金持ちで美人も大変なんだね。」
みんな、今日のかぐやちゃんの行動にはびっくりしたけど、本音が聞けて嬉しかったみたいだ。
----------
…ん。
目が覚め、気付いたら爺やのリムジンの中だった。
「おはようかぐやちゃん!」
小梅どのに挨拶された。
「お、おはよう…って、いつの間にリムジンに乗ったのだ?」
「もしかして覚えてない?」
「さっぱりだ。」
「ジュースと間違えてお酒を飲んだんだよ。」
「ずっと寝ておったのか。迷惑をかけたな。」
ん?何故か皆が生温かい目で私を見ておる。
「私が寝ている間に何かあったのか?」
「大した事はないよ♪」
「全然気にしなくていいからね!」
変な皆だ…