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第55話・不穏な影

 翌週月曜日から、春樹どのは常務に付いての仕事となった。そして、最初から素性も最初から明かしたそうだ。

ベッドメイキングや給仕の仕事をしようとしておった事が、かなり気に入られたようで、とても可愛がって貰えると言っておった。


その日の夜、一人の日本人の姫君を連れて帰ってきた。


「かぐやさん、こちら秘書課で一緒に働いている、森脇美穂さんです。」


春樹どのが紹介すると、その姫君はにこやかに自己紹介した。


「はじめまして。とてもお綺麗なお嬢様ですね。春樹さんにこんな婚約者さんが居たなんて、びっくりしたわ。」

「竹野塚かぐやと申します。はじめまして。」

「かぐやさんとお呼びしても宜しいかしら。私の事は美穂と呼んで下さい。」

「分かりました。美穂どの。」

「ふふ。面白い呼び方ですね。短い間ですが、お友達になりましょうね。」


手を出され、握手を交わした。美穂どのの年は23歳で、春樹どのと同じく、幹部の秘書として働いておるそうだ。

更に春樹どのが付け加えて説明してくれた。


「女性同士でお話したい事など、かぐやさんのお力になって頂けると言って下さったので、お連れしました。」


美穂どのはとても気さくで話しやすい姫君であった。今度、姫君に人気のショップなどへ連れて行ってくれると約束をしてくれた。



 翌日、英会話のレッスン中に、美穂どのがマンションへ来られた。


「いかがされましたか?」

「こちらで人気のチーズケーキを買って来ましたので、一緒に食べようかと思ったのですが、お邪魔でしたか?」

「後、二十分程でレッスンが終わりますので、お待ち頂けますか?」

「では、日を改めて遊びに来ますね。」


そしてリンダに向き直り、にこやかに何かを話し始めた。


「“こんな何も出来ないお嬢様の相手なんて、大変ね。”」

「“そんな事ないわよ。とても聡明な方よ。”」

「“どうせ何を言っているのか理解できないんだから、そんなお世辞は必要ないわ。”」

「“お世辞なんて言ってないわよ。事実を言ってるの。”」


ん?早過ぎて何を言っておるのか、さっぱり分からぬな…まだまだ鍛錬が必要であるようだ。


話し終ったのか、美穂どのは私ににっこりと微笑みかけて、しっかりと教えるように伝えておいたから頑張ってね、と言って帰って行った。


美穂どのが帰った後、リンダがじーっと私を見ておった。気になった私は少しずつ話せるようになった英語で話し掛けてみた。


「“何かありましたか?”」

「“…いいえ。レッスンを続けましょう”」

「“はい。”」


そのままレッスンを続けたが、何やらリンダの顔が険しい気がするな。美穂どのがしっかり教えるように言ったようなので、何か気に障ったのであろうか…


「リンダの教え方はとても分かりやすいです。このままよろしくお願いします。」

「分かりました。」


リンダはにこっと笑ってくれ、その後はいつもどおりレッスンを続けた。



 夜、春樹どのが帰ってきた時に、美穂どのがケーキを持ってきてくれた事を伝えた。


「そうでしたか。今日は美穂さんが秘書をされている副支社長が休みでしたので、合わせて休暇を取ったのでしょうね。ゆっくりして頂けなくて残念です。」

「そうだな。また遊びに来てくれと伝言を頼む。」

「分かりました。」



 春樹どのは常務の秘書となってから、遅く帰宅する日が続いた。少しでも学べる事を吸収したいそうだ。


「今日はずいぶん遅かったな。食事は取れたのか?」

「食べる暇もありませんでしたが、この時間からケータリングは量が多いですね。今度、簡単な夜食でも買い置きしておきましょう。」


結局、飲み物だけで春樹どのは疲れたように眠ってしまった。何だか私だけが食事を頂いてしまい、申し訳ないな…



 週末の金曜と土曜は、常務に付いて泊まりの出張に行くそうだ。一緒に来るよう誘われたが、仕事の邪魔になってはと思い、久しぶりに天界へ顔を出すと言って断った。


金曜日には天界へ帰り、雪美にアメリカのお菓子をプレゼントしたが、泊まることはせずにマンションへ戻ってきた。何となく戻りたい気分であった。


初めて一人で過ごすニューヨークの夜だ。春樹どのが付けるコロンの香りが残るベッドに一人で寝るのは、寂しさを助長させた。


そうだ!声を聞けるかどうか、メールをしてみよう!

スマホを取り出して、早速メールを送ってみた。


「~♪」


すぐに着信音が鳴った。この音は春樹どのから掛ってくる時の音だ!嬉しくなって急いで通話ボタンを押した。


「もしもし!春樹どのか?」

『…春樹は今、シャワーを浴びてるわ。』


え?この声は美穂どのであるよな?


「何故美穂どのが、春樹どのの電話に出ておるのだ?」


その時、電話の向こうで、ドアが開く音と春樹どのの声が聞こえた。


「カチャッ。美穂さん、私のシャツ…」


思わず、ピッ!と通話を切った。

今のは一体何だ?今日は常務と出張であったよな…


息が苦しい…


「~♪」


暫くして着信音がまた鳴りだした。春樹どののスマホからだ…ギュッと目を瞑り、一旦鳴り終わるのを待って、電源を落とした。


不安が押し寄せ、ベッドルームを出てリビングのソファへ座り込んだ。

結局この日は一睡も出来ず、眠れぬ夜を過ごした。


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