第51話・秋人の覚悟
大学が始まり3年生になっても、秋人どのと松乃どのの冷戦状態は続いておったようだ。
しかし、この二人の可愛いところは必ず学食に顔を出して、時々お互いをチラチラ見ておるところである。
ふふ。喧嘩中である筈なのに、ちょっと笑ってしまうな。
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松乃ちゃんの馬鹿!
将来を考えて、モデルも大学卒業したら辞めるつもりだし、後継ぎにだって頑張ってなるつもりだ。
正直、イベント会社から声を掛けて貰った時は嬉しかった。僕自身も好きな事を仕事に出来ればそれに越した事はない。でも、それ以上に松乃ちゃんが大事なんだ!
結婚を考えていたのは僕だけなのか…
そんな筈はない!僕の本気度が伝われば大丈夫な筈だ!僕は強行手段に出ることにした。
ゴールデンウィーク、松乃ちゃんが居ない時を見計らって、あるお願いをする為にお父さんとお母さんを尋ねた。
気慣れないスーツを着込み、背筋を伸ばして松乃ちゃんの家の玄関前に立った。
「まぁ、秋人くん。スーツなんて珍しいわね!」
「はい。今日は大事なお話があって伺いました。」
何かを感じ取ってくれたのか、いつもの通い慣れた稽古場とは違う客間に通された。緊張する!
客間に入ってお父さんとお母さんを前に勧められた座布団から下り、両手を付いて頭を下げた。
「お願いします!僕に家元の稽古をつけて下さい!」
「…」
む、無言だ!緊張して顔を上げられない…
暫く経ってから、お父さんが口を開いた。
「秋人くんは、松乃と一緒になりたいから家元になりたいのかい?それとも純粋に家元になりたいのかな?」
「もちろん、松乃さんとのことを考えています。ですが、まだ松乃さんの許可を頂いていないので、それはまた後日改めてお願いに上がります。」
「それなら、家元としての稽古は付けられないな。」
「え?」
思わず顔を上げた。だけど予想に反して、お父さんとお母さんは穏やかな顔だった。
「秋人くん。私は婿に必ず家元になって欲しいとは考えていないよ。むしろ、家元として縛り付けるよりも、秋人くんには才能を活かして欲しいと思っているんだ。」
「才能と言われましても…」
「君の才能を買ってくれる人がいるそうじゃぁないか。そこで修行して、改めて我が流派へ別の形で活かして欲しいと思っているんだよ。」
「それじゃぁ、家元にならなくても結婚を許して頂けるのですか?」
「まぁそれは松乃が許可してからの話しだな。」
「ふふ。松乃の許可が下りたら、すぐに知らせて下さいね。」
「はい!ありがとうございます!今以上に勉強を重ね、技術を磨いて、貢献できるよう頑張ります!」
後継ぎは孫にお願いすると笑ってくれた。僕のことを第一に考えてくれている松乃ちゃんのお父さんとお母さんに、改めて頭を下げた。
そうと決まれば、やる事は沢山ある!今度こそ松乃ちゃんにOKの返事を貰うぞ~♪
まずはスカウトを貰った会社の名刺を取り出し、連絡をした。後日、改めて簡単な面接に行くことになった。
イベント会社とは言っても、僕はデザイン部門でのスカウトらしい。展示会、イベントの会場やステージのディスプレイデザインが主な仕事になるそうだ。ファッションショーを熟知していること、華道に精通していること、グラフィックデザインが出来るとのことで、結果は即OKだった。
そして、俺の不良親父だ。
マンションに帰り、親父が帰宅するのを待った。
「おお!秋人。話があるっていうから、打ち上げをサボって帰ってきたぞ。」
「悪いな。」
「で、どうした?」
改めて親父に向き直った。
「婿に行ってもいい?っていうか、婿に行くって決めてるんだけど。」
「おお!ついに松乃ちゃんにプロポーズのOKを貰ったのか?」
「まだこれからかな。」
親父は冷蔵庫からビールを取り出して、僕にも渡してくれた。
「母さんに逃げられてから、お前には苦労させてるからな。好きなように生きればいいさ。」
「ありがとう。」
カツン!と缶をぶつけて、乾杯をした。
「そうそう!時々は孫を見せに来てくれよ!」
ブッ!
ビールを噴き出しそうになった。
「おいおい!汚いだろ!そんな事で動揺するなよ。」
「い、いや…急に現実味を帯びてきたなぁと思ってね。」
そして、後日、改めて松乃ちゃんを呼びだした。
「何?改まって呼びだして…」
松乃ちゃんはまだ不機嫌そうな態度を取っている。でもあまり怒っていない事は何となく分かった。
さっと11本の薔薇の花束を背中から取り出し、跪いた。薔薇の本数は、最愛の人という意味だ。
「松乃ちゃん!イベント会社に就職を決めてきた!まだ学生だし一人前とは言えないし、足りないところもいっぱいある!でも、松乃ちゃんの事だけは真剣に考えています!今は結婚して欲しいとは言えないけど、将来を約束させて下さい!」
「…」
あれ?返事も無いし、薔薇も受け取って貰えない…
そ~っと顔を上げてみると、松乃ちゃんは泣いていた。
「秋人…グスッ…」
「え?え?どっち?」
「嬉しいに決まってるじゃん!馬鹿!不安だったんだから!」
うわっ!何年経っても可愛いって感じてしまう♪
思わず、ギュッと抱き締めた。
「松乃ちゃん。絶対良いパパになるからね♪」
「え?話が飛び過ぎでしょ!」
「はは!ウチの不良親父みたいにはならないってことだよ!松乃ちゃんに逃げられたら嫌だもん♪」
「…もうっ♪」
そのまま仲直りのお泊りデートへ行って、久しぶりに松乃ちゃんといっぱいイチャイチャした♪
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