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第50話・みんなの将来

後期の試験も終わって、春休みを待つばかりとなり、名目上サークル活動というカフェツアーに皆で来ておった。


「春休みはインフィニティホテル系列で二週間程アルバイトをすることになりました。」

「アルバイト?春樹どのがか?」

「はい。経営陣以外の従業員の仕事を体験する為、父にお願いをしました。」

「そうか。頑張ってくれ。」

「それで、アルバイトが休みの日にホテルへ泊まりに来ませんか?以前行った遊園地の近くです。」

「おお!それは楽しみだ!」

「ふふ。今回こそジンクスを実践しましょうね。」


秋人どのと松乃どのが実践しておったものか…


「またかぐやちゃんが、赤くなってる♪」

「ま、松乃どの、気にするな!」

「ところで、みんな将来は決まってる?そろそろ就職活動でしょ?」


「僕はモデル業引退かな~♪親父のように俳優にもならないし、一般人に戻ると思うよ♪」

「そうなのか。」


「小梅どのは決めておるのか?」

「私は今のアルバイト先から、正社員にならないかって誘われてるよ。」


「冬馬どのはどうするのだ?」

「まだ何も。空手も続けながらだと、残業が多い大手は難しいかなぁ。」


その時、横からぐいっと肩を抱かれた。


「かぐやさんはもちろん私の奥さんになる予定ですよ。」

「は、春樹どの!」

「キスをしたら結婚の家だってみんな分かってますから、大丈夫ですよ。」

「改めて言わなくても…」


皆がにやにやしながらこっちを見ておる。諦めよう…



 春休みになり、春樹どのがアルバイトでおらぬ間は天界へ帰ることとした。

婆やも連れて行きたかったのだが、どうやら人は一緒に連れて行けぬようだ。諦めて雪美へのプレゼントだけを持って、天界へ帰った。

二歳になった雪美はよく喋るようになっておった。


「かぐやちゃん、あのね、わたしね、ほんがよめるの!」

「そうか。雪美は賢いな。私にも聞かせてくれるか?」

「いいよ♪」


さっと立ち上がり、雪美は本を取りに走った。


「ふふ。読み聞かせをしておったら、覚えてしまったのです。まだ読める訳では無いですけどね。」

「それでも素晴らしいと思いますよ。」


謙遜しながらも、やよい姉様は嬉しそうだ。


「かぐやちゃん!もってきたよ~♪」

「そうか。では聞かせておくれ。」


小走りに戻ってきた雪美が本を開いたところで、義兄上がやって来た。


「かぐやどの、すぐに一緒に来てはくれませんか。帝がお呼びです。」

「へ?帝がですか?私、何かしましたか?」

「はは。そのような所用では無いですよ。行けば分かるでしょう。」


「ちちうえ!かぐやちゃんとほんよみます!」


プクッと頬を膨らます雪美に、義兄上は微笑みながら頭を撫でた。


「用事が済んだら、また遊んでもらいなさい。」


何だか微笑ましい光景であった。いつか私も春樹どのと、このような会話をするのであろうか…



 帝からの呼び出しは、大学を卒業したら、直々に仕えて欲しいとのことであった。

本格的に帝の命として、道場が開かれるそうだ。そして、下界の所用を時々頼まれて欲しいとのことであった。

居住は下界にて大丈夫であり、道場を開く日に帝の所用を頼まれるようだ。


「大変名誉な職を承り、光栄にございます。」


手をついて深々と頭を下げ、礼を言った。

恐らく、義兄上の働きかけであろう。しかも帝直々に仕えることは、義兄上と同じく最も高貴な身分となり、今以上の生活が補償されるのだ。


天界では貴族以上の姫君達が働くことは無い。だが、下界に馴染んできた私は、自分で働いて生計を立てることに少なからず憧れを抱いておったのだ。

皆のように会社務めは出来ぬが、自立出来る事が嬉しかった。


屋敷に戻り皆に報告すると、父上と母上は飛びあがって喜んでくれた。


「何と名誉な事だ!」


実は、下界人との婚姻について良く思っておらぬ者は沢山おる故、私が非難を浴びることを心配しておったそうだ。だが帝直々の名誉な職に就く事で、それも払しょくされるであろうとのことだ。

私の気持を尊重しながらも、心配しておってくれた家族に、頭が上がらぬ程の感謝を抱いた。



 春樹どのがアルバイトをしておるホテルへ泊まりに行く約束の日になり、下界へ帰ると、婆やから春樹どのが尋ねて来たと教えられた。

不思議に思いながら連絡を取ると、すぐに車で迎えに来るとのことであった。


「かぐやさん、すみませんでした。お泊りデートは中止になりました。」

「何かあったのか?」

「それが、最初の2~3日は客室案内や手荷物運びなどのポーターをしていたのですが、何処からか私の素性がバレてしまったらしく、一切仕事をさせて貰えなくなったのです。」

「何故仕事をさせて貰えぬのだ?」

「未来の社長に下働きなどさせられないとのことで、支配人直々に応接室でお茶を振舞われる事態となってしまいまして…」

「そうであったか。」


働くつもりが特別待遇とは、春樹どのも色々と大変であるな…


「かぐやさんは何か良いことでもありましたか?」

「ふふ。分かってしまうか?」


大学を卒業したら帝に仕え、天界の道場も直々の命となる事を話した。


「それは、テンカイに住むということですか?」

「いや、居住はこちらで構わぬということだ。春樹どのが外の勤めに出ておる間に天界へ行くようになるであろう。」

「それを聞いて安心しました。かぐやさんの努力が実った訳ですね。心から応援しますよ。」

「ありがとう。義兄上の力添えが大きいが、名誉な職におなごが就くのも初めてらしいのだ。」

「流石はかぐやさんです。誇りに思いますよ。」


何だかそう褒められると恥ずかしいな…


「ところで、代わりのお泊りデートはどうしますか?そろそろ桜も美しい季節になりますので、お花見を兼ねてどうでしょうか。」

「お花見か。中々良いな。」


その時、同時に二人のスマホが鳴った。

私には松乃どのから、春樹どのには秋人どのからの着信であった。珍しく二人がケンカをしておるらしい。急いで二人がおるカフェへ向かった。


「お泊りデートの計画はまた今度にしましょうね。」


春樹どのは苦笑いしながら、車を走らせた。



 カフェへ着くと、二人とも明後日の方向を向いておった。


「一体どうしたのだ?」

「聞いてよ!秋人ったら、イベント会社のスカウトを断ったんだよ!」

「断って何が悪いんだよ!」

「まぁまぁ、そもそもの話しから聞かせてはくれぬか?」


話しによると、華道展の秋人どのによる演出が話題を呼び、イベント会社より就職のスカウトを貰ったらしい。だが、秋人どのは断ったそうだ。


「秋人には才能があるの!だから好きな事をして欲しいの!」

「才能があるかどうかは松乃ちゃんが決める事じゃぁ無いじゃん!」


フン!とまた明後日の方向を向いてしまった。

とりあえず冷静になろうと、一旦解散することになった。


帰り道、春樹どのが秋人どのは婿に入るつもりだと教えてくれた。


「秋人は松乃さんのご実家の家元を継ごうと思っているようです。それが結婚できる道だからでしょう。ですが、松乃さんは秋人に自由に生きて貰いたいと思っているようですね。」

「お互いがお互いを思い合っての喧嘩であるか。難しいものであるな…」

「そうですね。まぁあの二人は別れる事は無いでしょうから、成り行きを見守りましょう。」


皆も、将来に向けて色々と考えておるようだ。

棚から牡丹餅のような私とは違うな…何だか浮かれておった自分を反省した。




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