第48話・会えない日々
はぁ…学食で盛大なため息をついてしまった。
「かぐやちゃん、元気ないね。」
「小梅どの、大したことではない。」
「最近、春樹くん学食にも来ないね。ちゃんと食べてるのかなぁ。」
「忙しいようでな。ゆっくり食べる暇も無いようなのだ。」
そんなある日、大学構内を歩いておったら春樹どのを見かけた。
「春樹どの~!」
嬉しくなって手を振ったが、春樹どのは軽く手を上げてそのまま行ってしまった。
避けられておるのであろうか…
嫌われるような覚えも無いのだが、何かしてしまったのか…
屋敷に帰って、スマホで調べてみた。
『相談しよ!』というサイトに、同じように殿方に避けられておる悩みを持った姫君達の記事が載っておった。
Q『最近、彼氏が冷たいんです!付き合って半年って普通はラブラブですよね?』
A『倦怠期に入っているのかもしれませんよ。』
倦怠期だと?!
確か最初に接吻を交わしたのは春樹どのの誕生日であるから、半年以上になるな…
Q『彼氏にヘタクソと言われちゃいました…でもプロじゃぁないし、高度なことを要求されても困ります。』
A『身体の諸所が合わないのでしょう。そんな彼氏はプロに任せて、別の彼氏を見つけましょう。』
身体の諸所が合わないだと?!
そういえば旅行から帰ってきてから、接吻さえもしてはおらぬな…
この夜は色々と考え過ぎて、明け方まで眠れなかった。
「かぐやちゃん、目の下のくまがひどいけど、どうしたの?」
「分かった!春樹とデートだったんでしょ♪」
次の日、学食で皆がわいわいと聞いてくるが、私の気は晴れなかった。
「はぁ…」
思わずため息をついてしまった私に、松乃どのが申し訳なさそうに謝ってきた。
「ご、ごめん。もしかしてケンカでもした?」
「いいや。ケンカする程、話も出来てはおらぬ。」
「そうなの?」
「忙しいようでな…」
それを聞いておった冬馬どのと秋人どのが、元気付けてくれた。
「もしかしたら、後継ぎ問題で色々と忙しいのかもしれないよ!」
「今度、俺達が聞いておいてやるよ!心配するな。」
「二人ともありがとう。」
皆に慰められても気は晴れず、一人とぼとぼと歩きながら爺やの迎えの車に乗り込んだ。
そうだ!やよい姉様に相談してみよう!
「爺や!今からやよい姉様のところへ行ってみる!」
「他の誰かに見られては大騒ぎになります故、屋敷に帰ってからお願いします。」
「分かった。」
屋敷に入り、すぐに念じた。
やよい姉様のところへ…
光の粒を纏い、ふわっと浮遊感を感じるのと同時に、天界の屋敷の庭へ降り立った。
「まぁ、かぐやではないですか。こんな時間に珍しいですね。」
「ちょっとご相談がありまして…出来れば二人で。」
「分かりました。」
やよい姉様は雪美を母上に預け、二人で部屋に入った。
「それで相談とはいかがされましたか?」
「最近、春樹どのの様子がおかしいのです。」
「おかしいとは?」
「避けられておるような…」
やよい姉様は少し首をかしげておられる。
「かぐやの勘違いではないですか?春樹どのはかぐやの中身を好いておられましたよ。」
「そうだと良いのですが、色々と調べてみたら、倦怠期とか身体の諸所が合わぬとか…」
ぷっ!やよい姉様は吹き出して笑い始めた。
「かぐやよ!それは考え過ぎですよ!」
「そ、そうは言われましても、旅行の後からは…」
「ふふ。赤くなって可愛いですね。」
「やよい姉様!真面目に話を聞いて下さい!」
「すまぬすまぬ。だが、心配することは無いと思いますよ。」
「そうでしょうか…」
「一度、春樹どのとゆっくり話をされてはいかがですか?」
そこへ、義兄上がやって来た。
「かぐやどの、来ておられたのか。」
「義兄上!も、もう用事は済みました故、すぐに帰ります!」
こんな話、義兄上に聞かせれるものではない!
そそくさと下界へ帰った。
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「すまないな。話の途中であっただろう。」
「大丈夫ですよ。春樹どのの様子がおかしいと悩んでおったようですが、話し合いをするよう申したところです。」
「春樹どのの様子がおかしいとは?」
「避けられておるようだと言っていましたね。倦怠期だとか身体の諸所が合わなかっただとか、可愛らしい悩みでしたよ。」
義兄上は黙って座り、やよい姉様にひそひそと話し始めた。
「実は義祖父どのに奉公しておる者が、一人行方不明なのだ。」
「え?」
「その者が下界に行った可能性がある。」
「では、春樹どのの様子がおかしいのは…」
「可能性があるな。義父上と相談してみるよ。」
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もうすぐバレンタインデー!恥ずかしいが、ホテルのスイートルームを予約してみた。そしてプレゼントとして、チョコレート入浴剤というのを買ってみた。
春樹どのは温泉に一緒に浸かりたいと言っておったが、透明なお湯はハードルが高過ぎる故、せめて湯を濁そうと思って用意したのだ。我ながら大胆になったものだ。
ドキドキしながら、久しぶりに春樹どのに電話を掛けた。
「春樹どのか?」
『かぐやさん、声が聞けて嬉しいです。』
良かった。いつもどおりだ。
「来週の14日なのだが、会えぬだろうか。」
『え?…』
「そ、その…一緒に過ごしたいなと思ってな。」
『…』
「春樹どの?」
『…非常に魅力的なお誘いですが、ちょっとスケジュールが空きそうもないです。』
ガーン…
「そ、そうか。忙しいのであれば仕方ない。頑張ってくれ!」
『あ、かぐやさ…』
何か言いかけておったが、電話を切ってしまった。明日にでも部屋をキャンセルせねばなるまい。
はぁ…盛大なため息をつきながら布団に入り、丸くなった。
春樹どのが忙しいという事も分かっておる。邪魔はしたくない。それでも逢いたいと思うのは、私の我が儘であろうか…
気付けばぽろっと涙が零れて、一晩中泣いてしまった。