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第1話・不細工三人衆

 私の名前はかぐや。


月にある天界では一目置かれる上流貴族の家系だが、今日から下界の竹水門たけのみなと学園高等学校二年生という職務を天界の帝から命じられた。


それもこれも、あの顔だけ男のせいだ!



「や~い!不細工!」

「一族でお前だけ不細工!」

「貴様よくも石を投げたな!その侮辱許さん!」


幼少の頃からこの見た目で罵られ、喧嘩が絶えず、腕っぷしだけは男の子にも負けずに育った。


「かぐや、着物が汚れていますが、また喧嘩したのですか?父上に怒られますよ。ささ、我の部屋にて着替えなされ。」


この優しいやよい姉様は唯一私の味方で、下膨れの輪郭、細く切れ長の目、控え目な鼻、小さく可愛らしいおちょぼ口、平安の世から語り継がれ、天界の殿方を虜にする絶世の美女だ。

やよい姉様には毎日、求婚が絶えぬ。


「私は何故やよい姉様のように美人に育たなかったのでしょう。私には一人も求婚の話がありません。」

「かぐやはまだ若いからですよ。それに人は見た目ではありませんからね。あなたは身分に拘らず人の痛みがわかる綺麗な心の持ち主です。きっとそれを分かってくれる殿方が現れますよ。」

「そんなことありません。私のように大きい目をして、鼻筋が通り、ふくよかさが無いと、毎日のように喧嘩を売られてしまうのです。」


やよい姉様はクスッと笑った。


「かぐやよ。いくら容姿が良くても相手の中身をよく見る前に接吻をしてはいけませんよ。」

「分かっています。即時に婚姻となるのですよね。」


そんな私にも、求婚の話が舞い込んできた。

彼の名は藤原道彦。下流貴族だが、お姉様と同じく下膨れで細い目、ふくよかな体つきで、かなりの美男であった。私達は接吻をしなくとも、将来の婚姻を誓った。


ある日、婚約者に内緒で彼の家へ遊びに行ったのが事の発端だった。

藤原家の縁側から、道彦どのと見知らぬ女性の会話が聞こえてきたのだ。


「こんなところで逢い引きして大丈夫なの?」

「構わないさ。今日はかぐやは来ないよ。」

「でも、何故あんな不細工と婚姻の約束をしたの?」

「俺の地位が上がるからに決まっておる。あんな不細工は見るに堪えぬが、誰も貰い手がいなければ上流貴族の名が勿体無いだろ?だから俺が拾ってやったのだ。」


最悪だ!私の家柄目当てだったなんて!やよい姉様が言っていた中身を見ろというのはこういう事か。顔だけの男なんて最低だ!


私は彼と浮気相手の前に飛び出した!


「貴様、よくも騙しおって!!」

「ま、待て!かぐや!今のはほんの戯言だ!」


浮気相手と私を目の前にしながら、まだ言い訳をするつもりなのか?


「戯言だと?ふざけるな!」


バコーン!と制裁という名の鉄拳をふるい、こんな男あんたに熨斗を付けてくれてやるわ!と浮気相手に投げつけてやった。

その後、顔だけ男である藤原どのが一方的に暴力を振るわれたと言いふらし、天界を追われる身となったのだ。



 下界へ降りる日、やよい姉様が私の部屋へ来られた。


「かぐやよ、下界でも不自由なく暮らせるよう、爺やと婆やにも同行をお願いしておきました。」

「やよい姉様、ありがとうございます。」

「下界は簡単に接吻してしまう下品で野蛮な輩が多いと聞きます故、姉は心配でたまりません。」

「大丈夫です。私が殿方との喧嘩で負けたことありませんのを、やよい姉様もご存知でしょ。」


「下界に降りればかぐやにとって良い経験になるのは分かっておるのですが…」

「ご心配には及びません。それでは行ってまいります。」



 そして、今、竹水門学園高等学校の正門前に立っておる。

爺やの話では、下界でも名家のご子息が通う名門学校だそうだ。


天界には学校というものが無い。天界人は書物を一度読んだだけでほとんど記憶することが出来る故、不要なのだ。

だが、年齢的に下界では学校へ通わなくてはならぬようだ。


しかし下界の制服とやらは、何故こんなにも短いのだ?着物より動きやすいが、何故、皆が恥ずかしげもなく着ておるのかが不思議であるな…


ふう…一つため息をついて正門を潜り抜けた時、前方に妙な人だかりを見つけた。よく見えぬが、殿方を姫君たちが囲んでおるようだ。


「桃井くん、かっこいぃ~♪」

「浦和会長、一段と麗しいわ!」

「金城部長のたくましい腕に抱かれたい♪」


な、な、なんと破廉恥な発言をする集団なのだ!朝から人前で発言するものではない!

いくらやよい姉様が人は見た目ではないと言ったとしても、こんな破廉恥集団なんぞ関わり合いたくもないわ!


すたすたと傍を通り過ぎようとすると、人だかりの中から声を掛けられた。


「あ♪もしかして転校生ちゃん?」


うわっ!私より目の大きい人間なんて初めて見た!しかも薄っぺらい細さは何だ?下界の中でも名門のご子息が揃う学園と聞いておったが、貧困層の人間も通っておるのか?


「よう。」


目が鋭くギラギラしておる!それに何故逆三角形の体型なのだ?男なら父上のようなふくよかさが包容力を表すものであろう。その欠片も無いわ!


「分からない事があったら何でも聞いて下さいね。」


こ、こいつは男なのか?まるでおなごのような柔らかな顔立ちではないか!しかも顎は尖っておる!豊かさの象徴である二重あごは何処へ行った?


この見た目に加えて破廉恥集団とは救いようがない。三人の事は不細工三人衆と名付けよう。そう心の中で呟いた。


が、最後に話し掛けてきたヤツが私の手を取り、よろしくね!と、手の甲にいきなり接吻!


「きゃぁ~♪」


何故、姫君達から黄色い歓声が上がる!

何故、私がこのような侮辱を受けなくてはならぬのだ!


「貴様!何たる無礼を働くのだ!二度と私に近づくな!」


さっと手を払いのけると不細工三人衆を睨みつけ、足早に校舎へと入っていった。


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「あらら。珍しい反応だね~♪」

「喜んでもらえなかった女の子は初めてだ。」

「朝から面白いモノが見れたな!それより、時間ヤバいぞ!」


三人も続けて、校舎へ入っていった。


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 まずは職員室という部屋へ行き、先生の紹介を受けた。私が所属するクラスという学級の担任は道端先生だそうだ。

道端先生に導かれて入ったクラスには沢山の同い年と思われる生徒が座っておった。


自己紹介をするために教壇の前に立つだけで、何やらざわついてきた。やはり天界でも下界でも私を蔑む反応は変わらぬか…



 『みて!すごい美人!』

 『どこのお嬢様かしら!』



「竹野塚かぐやと申します。よろしくお願いいたします。」


見渡したところやはり私が一番不細工のようだ。うん、そのくらいのこと最初から分かっておったではないか。石が飛んで来ぬだけ良しとしよう。


クラスを改めて見渡すと、今朝見かけた不細工三人衆を発見!何とも嫌な予感のする学園生活が始まった。


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