No.7
サイレントブラックを影で使っていた少女、ヒカリは、真っ白なレースのワンピースで、夕暮れの海岸を歩いていた。
周りは誰もいない、彼女の横を黒い車がゆっくりと追っていた。
やがてぴたりと止まるその細い足。
「定刻だ。行け」
独り言のように聞こえるが、彼女はインカムをしていて、それ通して命令を下していた。
これが、最後の。
潮風に揺れる黒髪をひるがえして、
ヒカリは海岸から道路に続いている短い階段を上り、
待っていた黒い車に乗り込む。
「出せ」
ヒカリの言葉で、車はゆっくりと走り出した。
頬杖をついて、マジックミラーになっている窓の外を見つめる。
ヒカリはこれまで、多くの人をサイレントブラックに殺害させた。
何人かは無関係なカムフラージュ用だが、
狙い通りのポスト人物を消すことができた。
…まったくいい『モノ』を手に入れたものだ
ヒカリは、サイレントブラックとの出会いに感謝していた。
絶対成功、絶対服従。
アレに出会えなければ、ヒカリの夢は本当に夢のまま終わっただろう。
夕焼けだった空が、明るさを隠し始めた。
沈黙の闇が始まるときが、殺しの時間。
車は、ある邸宅の前で停車した。
邸宅には、やわらかな明かりが灯っている。
「明日の昼に迎えにこい」
「お待ちしております、お嬢様」
黒い車は、夜の闇に消えていく。
ヒカリはそれを見届けてから、門を開いた。
優しい明りは白いワンピースをオレンジに照らす。
これが、最後。
ヒカリは表情一つ変えずに、
いつものように、
最後の道を歩いていく。




