No.6
―――つかんだ。
もう長いこと寝転がっていたので背中が痛い。
ゆるゆると起き上がり、俺は久しぶりに目を閉じる。
彼の足跡を尾行しつつ、そのバックグラウンドもできるだけ挙げておかなければならない。
「今度は所長暗殺かよ、まったくキリないな」
あれからわずか3日と経っていないが、少なくとも今日だけで殺しの数は5人に達した。
普通の精神じゃない。つーか人間か?
俺は研究室の製造過程で偶然成功した試作品だ。
ベースは人間だけれど、脳みそはちょぴっといじってある。
特殊能力があるのも、半分人間じゃない俺ならうなづける。
でも俺のネットワークで該当人物の最終候補になった青年は、普通の18くらいの若者だ。
身体的に異常はなく、多少の訓練を受けてきたようだが、
…それにしては普通すぎる。
それなのに、彼は出現からの5年で、何千人の人々を手にかけたのか。
最初から大統領の暗殺。
鮮やか過ぎる手口。
「身元は完全に抹消されているが…顔がわかれば俺の検索に引っかかるだろう」
なんせ、情報ベースはこの地球全体だ。
頭がいっぱいいっぱいになるから、年に1回くらいしかやんないけれど。
「んー普通の情報には載ってないだろうから…非公式のサイトとかにないかな」
頭の半分を検索にかけながら、自由になっている4分の1の脳みそでふと考える。
「そういえば、俺も14で最初の組織に買われたんだっけな…それで訓練と試験を勝ち残って…」
俺は特殊な人間で、生きるためにこの仕事をしている。
本当なら、面倒くさいことはやらないで、のんびりあったかい島とかで過ごしていたい。
それなのに、この青年は普通の人間なのにこの世界に入ってきた。
そういう奴は他にもいる。
復讐怨恨借金…暗い過去を持って、入ってきた。
でも、こいつはどうなんだろう。
こいつも『仕方なく』入ったのだろうか?
『仕方なく』5年で何千人も殺したのだろうか?
「それにしちゃあ、殺しすぎ、だ」
一件の該当。
「これか、小学校の馬鹿な同級生がトピ立てたんだな。
同級生全員の名前とか特長とか書いてあるぜ、熱心だな」
トピを読み込んでいるうちに、4分の2でサイレントブラックを『尾行』していた脳の監視ネットワークから銃声がした。
また殺し。
今日の殺しで、6人だ。




