No.4
「サイレントブラックの整備はどのくらいかかる」
「あと72時間後には全機能チェックが終了します」
ここは山の中の廃校。
校長室の古びた机にふさわしくない、最新式のノートパソコンが設置されてある。
画面の向こうでは、部下と通信画面がつながっていた。
「3日も必要なのか、故障箇所でも?」
「いえ、連戦の疲れを考えて休養期間を」
ふんと鼻で笑う彼女。
「そんなものは考慮するな、『弾込め』が終わったら連絡しろ」
返事を待たずに通信は切られた。
長い黒髪は腰まで流れており、四肢は華奢で水色のワンピースを着ている。
「分かっていないな。
アレは人間ではないと説明したはずだ」
伸びをして、後ろにある窓を開ける。
彼女の白い頬を、夏の太陽が照らした。
「アレを使って…もう5年か」
さわさわとクスノキが葉を揺らした。
サイレントブラックは彼女と出会ってから、戦い続けていた。
彼女が接触したのは、最初の発見時だけで、あとは整備担当の部下に任せきり。
サイレントブラックになった少年は、表世界から全ての痕跡を抹消され、5年の月日の間で死神のような存在となった。
「だが、まだ足りない」
彼女の瞳は、ぎらぎらと貪欲な光を宿していた。
その胸の内は、彼女の部下も知らされていない。
「待っていて、パパ」
ふんと鼻で笑う彼女。
と、パソコンから電子音が鳴る。
「ヒカリさま、準備・整備を完了いたしました」
「では、サイレントブラックの任務を送る」
廃坑の校長室には、優しい風が通り過ぎていく。
ヒカリと呼ばれた少女の姿を、クスノキだけが眺めていた。




