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No.2

雪原ゆきはら、サイレントブラックを知っているか?」


「ゲンジさん、オレ確かに新米ですけど…

一応1年いるんスよ、この世界」


誰もが知っている、その名前。

誰も知らない、その姿。

実際にいるのかいないのか分らないほど、その姿は曖昧で、

通り名だけがこの暗黒世界で時折雷鳴を轟かせていた。


「サイレントブラックを、探せ」


「死ねってことですか?」


なぜその素性がつかめないのか。

答えは簡単だ。

調べたものが、皆死ぬからだ。

死人に口なしとはよく言ったもの。

命令された標的を私情なく消去する。

それはこの暗黒世界に生きる者全員に共通のルールである。


それはサイレントブラックも、同じ。


「お前の能力を駆使すれば、これが罰則ではないことくらい明白だろう」


「いや、ゲンジさん。

確かにオレは探索型ですけど、こういうのは戦闘型のほうが向いているんじゃないですか?」


「雪原、俺は死ねと言っているんじゃない。

任務を伝えただけだ」


…無茶な話だ。

ツチノコかドラゴンを探して来いって言われているようなものだ。

死なない分、むしろそっちの方がいい。


「上層部はお前の能力に期待してるんだ。

良い報告を待っている」


ジンギとの待ち合わせに使ったプレハブ小屋を後にする。

辺りは砂漠に近い荒野。背の低いサボテンが点々と黄色い大地を彩っている。

ゴーグルをかけながら、いつものため息…より重く吐く。


「そんな珍しい能力じゃねーだろ…」


確かに理屈で考えればオレの能力なら、サイレントブラックの行方をつかめる。

でも、見つかっても失敗しても、死ぬ。

見つからずに行方を探りつつ、その情報を漏らさねばならない。


「ま、どのみち…」


この世界に生まれたならば、この世界のルールに従わなければならない。

そうでなければ、死ぬだけだ。


「さて、と。

『張り込み』やりますか」


そうしてオレは、荒野に寝そべった。

こう見ても、仕事は始まっている。

木や土、石や岩などの自然物を手始めに、情報ネットワークを構築し、

蓄積されている広大な粒の情報を拾い上げていくと同時に現在の情報も蓄積していく。

分かりやすく言うなら、根っこを張っているのだ、この地球全体に。

サイレントブラックが地球上にいるなら、この情報網からは逃れられない。


とはいえ、今までこんな大規模な情報ネットワークを張ったことは一度しかないから、時間がかかる。

あと2日くらいか。


「いっそのこと太陽にでもいてくれよ、オレが絶対手出しできない星にさ」


寝そべりながら吐いたため息は、黄色い風にさらわれて上空に飛んで行った。


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