No.1
すべてのことには理由が備わっている。
僕が焦っていることにも、きっと理由があるはずなんだ。
どんなにいい成績でも、場所でも言葉でも足りない。
なにも僕を癒せない。
なにが足りないんだろう。
どこが足りないんだろう。
満たされない、いつもの朝。
僕は出会った。
「お迎えにあがりました」
家族の食卓に、黒服の男たちがやってきて、僕の腕を引いてゆく。
ああ、母さん、父さん。
そんなに怒鳴らないで…。
家族に別れを残し、あっという間に黒い車に乗せられ、僕は知らない世界に連れさられた。
「まっていたよ」
優しげに笑う女性。知らない人だ。
車から降りると、そこは海岸だった。
丸いガラスの破片が砂浜に色を付けている。
女性は長い黒髪をゆらりと揺らしながら近づいてくる、右手には銀のアタッシュケース。
「これ、開けてみてくれないか」
潮風が肌をべとつかせる。
気持ち悪い。
そのアタッシュケースに触った途端、僕の心臓が高鳴る。
驚くくらい、突然に、体が反応し始めた。
震える指、汗で濡れる背中、乾く喉。
どくどくと脈打つ心臓を抑えて、僕は座り込む。
「体は正直だね」
女性の声が遠い。
深呼吸をして、もう一度ケースに手をかける。
―――ケースには、漆黒の銃が一丁あった。
「ありがとう…」
誰に言ったのだろう。わからない。
僕の心は、満たされていた。
―――この為だったんだ。
「そう。お前の体は、この銃の為にあった。
その指も、目も、頭も、
すべてに機能はこの為だけに」
そうだろ?と笑う女性。
僕は頬を濡らしながら、その銃を抱きしめていた。
「待っていたんだよ、『サイレントブラック』…」
僕を呼んだんじゃない。
その名前は、銃の名前だ。
ぼくは、サイレントブラックの為に生きているのだから。




