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4話


主のにおいがした、ゆっくりと目を開くと辺りは黄昏を過ぎて宵闇が迫っていた。

チカチカと瞬き始めた星が目に飛び込み飛び起きるが、クラリよろめいて地べたに叩きつけられた。どうやら、主のベットに寝かされて居たようだ。

力の入らない足を殴り付け、寝台にすがって立ち上がる。足音がして、扉が開くと、少し息を切らした主が居た。


「だっ…」


口を開きかけ、閉じる。また、叱られた子供のような顔をして


「なんて顔してんですか」


思わず声に笑いが混じってしまった。

それに気づき、驚いた顔をした主に歩み寄ろうと足を踏み出すが、よろめいて寝台を手放し受け身も取れず、頬から地べたに崩れ打ち付けた。


昨日、食べたばっかりなのにその余力を、根こそぎ、持ってかれたようで、ひどい空腹だった。

よっぽどダメダメなヘボい魔術師なのか、あのわざとが効いたのか。たぶん、答えは両方で


力が入らず震える手足に、起き上がることをあきらめ、突っ伏したままため息を吐けば、駆け寄った主が壊れ物を扱うようにそっと抱き起こし、そのままベットへと運ぼうとする。


「結界を解かないと、セシル様の部屋の前までで良いので連れてってください」


暖かい腕の中、どうにか服を掴んで、情けない顔をした主に言うが


「明日にすればいい、」の一点張りで、以外に強情な主にベットに下ろされそのまま離れて行きそうなのをどうにかこうにか引き止め食い下がる。


「ヨリ!」


まるで言い含めるように、悪いことをした子を叱るように名前を呼ぶ。


「…、」


しばしのにらみ合い、今にも根負けしそうなったその時、


「…なにしてんのお前ら」


銀髪を揺らしながら、腕の中にセシル様を抱いて現れた客人によって打ちきられたのであった。





暗い室内、茶色を帯びたオレンジ色の球体の光に照らし出され、堅い表情のセシル様と客人が歩み寄る。


これだけ近ければ、結界を解くのはわけない。

意識すればパチンと、結界はシャボン玉のように壊れて消えて、それをセシル様がキョロキョロと不思議そうに見回した。


「ぉ、どした?」



セシル様を抱えなおした客人が問えば、蚊の鳴くように消えたの…と彼女は答えた。6才児らしい、かわいい声で。

どうやら、この銀髪はよっぽど信頼されているらしい。

そりゃそうか、一週間やそこらの―。そこまで考えて、はたと気づいた。この嫉妬のような…。


「主どの、」


それに歯噛みしながら、自分の考えをかき消すように声を出す。


「ど、どうした?」


慌てて耳を貸す彼には悪いが、


「牢での私の発言を覚えてらっしゃいますか?」


切羽詰まったように切り出した言葉に、主は不思議そうな顔をした。


ピンと空気が張り詰める。

それは主に銀髪の客人からで、緊張し警戒に似た感情を持ちながら場を見守っていた。それに気づいて苦笑する。この話しは、客人にも悪い話ではない


「…脅された事か?」


「違います」


火に油を注ぐようなソレをスパッと切り捨ててから、さらに警戒し出す客人にとっとと話を進めようと口を開く。


「妹君が癒えるまで、」


ギシリと主の座る椅子が軋む音が聞こえ、思いの外空気を振るわせた一言に、やはり伝わってなかったと思い、もう一度繰り返す


「主どの、妹君が癒えるまで、お供致しますとお伝えした事は覚えておられますか?」


と言い含めるように、視線をやった。

背後に控えていた2人が、主より先に反応を示す


「ん、んん、?」


「お兄様?そうですの?」



なにも言わない彼に焦れたのか、口を開いたセシル様にやっと振り返った。

彼がどんな顔をしてたかはわからないが、ひとつ肩の荷が降りた気がした。ゆっくりと、浅い息を繰り返す。


お腹がすいた。

ぎゅううと空腹を知らす胃に、もはや羞恥心など湧かぬほど疲れていた。



けれど、確認という名のごり押しの為くりかえす


「おぼえておられますか、」


人間、腹が減りすぎると眠くなるのか、まぶたが重たくて纏まらなくなっていく思考にイライラした。

彼がうんと言いさえすれば、その契約はさきほどの呪いの残りかすで受理されこの身に焼き付くだろう。



眠りに落ちるその直前、『わかった』という一言を聞いた気がした。






 深夜。まるで亡霊の館のような友の家から待たせていた馬車に乗り込み帰路急ぐ。ガタガタと音を立て舗装されてない畦道を黒々とした影のような林の合間を縫って駆けていく馬車に揺られ、ぼんやりと景色を見ていた。



 石や砂利などか飛んでくるため、あまり身を乗り出したりは出来ないが、ひんやりと吸い付く夜風は心地いい。金に輝く月と星空、濃紺の夜空を眺め、その月の色から、出迎えたアクマの目が潤みハチミツのようにトロリとした光を宿したあと、直ぐに黒いガラス細工のような色に戻った光景を思い出していた。



あれには驚いたが、ほんとうに綺麗だったと感じている自分が居て、ポリポリと頭を掻いた。

職業病か、王室を飛び出し宝飾を扱うせいか 綺麗な見目麗しいものにはめっぽう弱い。とりあえず、明日朝に一度だけ様子を見に行くかと心に決めて、寝る前に馬の様子だけ見に行こうと考える。


 そして早朝、夜も明けきらぬミルク色の空。

思いの外早く目覚めた自分に苦笑しながら、手早く支度する。

昨晩に指示しておいた乗馬服に着替え、簡単な食事を取ると 仕事の時間前には戻ると言い含め、馬を駆った。



朝の空気。

ひんやりと吸い付くそれを切って走る。市街地を抜け、煉瓦道から踏みならされた並木道を蹴る蹄の音が心地いい。明けていく空、日の光に肌を暖められながら、軽く汗ばみ始めた頃ようやく、幽霊屋敷ならぬ友人宅にたどり着いたのであった。



 どうせ来客も無さそうだと雑草だらけの庭を通りすぎ、玄関口まで馬を乗り入れて繋ぐと、届け物らしきカゴをひっつかんで扉をノックする。

しばらく待ってみたが恐らく寝ているのだろうか、まるで無人のように静かな気配に 遠慮なく中に踏み込むことした。

室内に差し込む朝日、甲高いきしんだ悲鳴を上げる扉を開けたとたん、既視感を感じた。


 まるで昨日のように悪魔が玄関に突っ立っていた。

目と目が一瞬かち合って、彼女が日の光に怯えたようによろめいた。


 思わず抱き抱えた。

柔く冷たい体に全神経が向いて、ドッと心臓が音を立てた。

それを誤魔化すように、投げ捨てひっくり返り中身が一部駄目になった籠に視線を投げ腕の中で脱力し冷たい床に腰を据えた彼女にようやく視線を戻し、違和感に気づいた。


 光を受けて艶やかに輝くはずの黒髪は全体的に灰を被ったように薄まり、黒曜石のようだった瞳は輝きを鈍らせ、滑らかだった肌は紙のように血の気を感じさせなかった。



劣化している、というよりも消耗しているようだった。

何故ここまで弱っているのか?

その時、キュルキュル鳴り出した細やかな音で目の前のアクマが空腹である事に気がついた。




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