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チートを貰えなかった平凡な○○○ですが異世界で頑張ります。

カッとなって書いてしまった。

今は反省している。

 


 ――気がつくと、そこは異世界でした。

 



 自分が立っているのは、複雑な光る図形の上。

 自分を囲うような円と、その内側に描かれる文字とも絵とも取れるそれは、私の知るそれと違いますが、恐らく魔法陣なのでしょう。

 周囲を観察すると、そこそこ広い石造りの部屋。部屋を照らす照明は、ロウソクのみ。窓は一切ありません。

 揺らめく輝きが照らしだすその部屋は、暗くはあるものの、豪華な調度品と、祭具が置かれており、清掃も行き届いています。

 恐らくここは地下室なのでしょう。地面の冷たさが足を伝って体を冷やしていきます。

 ともあれ、この世界の文明がどれほどかわかりませんが、この部屋の主の財力が嫌という程、感じ取れます。

 さすがに裸足だと、厳しいですがそんなことを言っている場合ではありません。



 ――囲まれています。


 自分を――正確には魔法陣を囲うのは黒いフードをかぶった男達。

 この魔法陣を制御しているであろう彼らがこちらを興味深そうに見ています。

 ……ああ、一人だけ毛色が違う方がいますね。それは、白のフードを被った一人の女性。

 白と黒。男に女。彼らとは対照的な姿はとても浮いており、同時に特別な立場な存在であるのを感じ取れます。


 銀色の髪に雪のように白い肌。目鼻立ちは整っていますが何より印象的なのはその瞳。

 目は口ほどにものをいう、といいますか。

 力強いその瞳は自分のなすべきことを成そうとする意志の強さを感じます。

 ノブレス・オブリージュというものでしょうか? 

 高貴な生まれの方なのでしょう。我らが誇り高き県民達とは方向性は違いますが、その姿勢には感銘を覚えます。


 その誇り高い彼女が頭を下げてきます。そして――


「お願いします。私どもをお救いください、勇者様」

 そのテンプレな展開に私は小さくため息をつくのでありました。


◆◇◆◇◆



 さて、私がここが異世界だと気づいたかというと、ここに飛ばされる前、女神と名乗る方から説明を受けているからです。

 何もない白い部屋。そこにいた女神はこの世のものとは思えないほど美しかったのですが、何かと失礼な方でした。

 人様を出勤途中で誘拐した癖に、人の顔を見るなり「ヒィっ」と悲鳴を上げますし……

 微妙に傷つきます。そんなに怯えなくてもいいじゃないですか。

 怯える女神から頼まれたのは何でも、魔物が跋扈する異世界を救って欲しいとのこと。

 よくある定番の話ですね。まぁ、私もそれなりに腕に自信があります。平凡な公僕ではありますが、公僕である以前に私は戦士なのですから。

 世界を救うのは戦士として最高の名誉。当然、お受けさせていただきました。

 え?お前はどこの国出身ですかって?

 日本国内に決まっているではありませんか。

 定番ですとここでチートが貰えると思ったのですが、『あなたにそんなもの必要ないでしょ!』と、怒鳴られてしまいました。悲しいかぎりです。

 


 さて、こうして私は、無事に異世界に召喚されました。

呼び出されたのは王の御前。

 金と銀に装飾された王座。腕の良い職人が作ったのでしょう。

 豪華であり、同時に権威を感じさせる造り。誰も見ないような天井には神話をモチーフにした絵が描かれています。

 王座に続く赤い絨毯の両脇には豪華な衣装に身を包んだ貴族達

 そして、その王座には、豪華絢爛な衣装に身を包み、王冠を頭に乗せた王が私を見下ろしています。

 よく出来た舞台装置です。

 味方には、心強さを、敵対する者には威圧感を

 これは大抵の人間は服従するでしょう。


 ですが、私を見る王の目には、怯えの色が見て取れます。

 世襲制の弊害でしょうか?初老に差し掛かる歳でこれではいけません。

 私の知るぞく、げふげふ、市長や県知事に比べるまでもありません。

「よくまいられた、異界の来訪者。いや、勇者よ!」

 さて、もったいつけて色々と言っていますが、まあ要約すると

 『人間を滅ぼそうとする魔王とそれに属する者を倒して欲しい』。

 見事なまでのテンプレです。拒否権は全くない様子。断った場合、どうなるか。明確にはしませんでしたがその態度で解ります。

 ……これでは戦奴と変わりありません。まぁ、元々、戦うつもりで来たので問題ありませんが


 こちらの不機嫌さを感じ取ったのでしょう。こちらをみていた目が逸らされてしまいます。

 いけませんね。ここまで無様に殺気を垂れ流しにしてしまうとは、戦士として失格です。

「シノムラ卿。後の説明は頼んだぞ」

「はっ!」

 誤魔化すような王の言葉に答えたのは女性の声。

 自分の隣に並び立つのは、黒髪の、間違いなく日本の女性。

「ようこそ、日本からの来訪者。同郷の者として貴君を歓迎する」

 凛々しくも美しいその彼女は、まさに侍。私は、その美しさにしばらく見惚れてしまうのでありました。



 



◆◇◆◇◆



 ……だったのですが


「いやー、ごめんごめん。王様の手前、あんな硬い言い方しかできなくてさー。気分悪くした?や、あの王様いっつもああだからさ」

 なんと言いますか。かなりフランクな性格の方でした。

 少しショックです。いや、こっちが勝手に幻想を抱いただけなのですが……

「それにしても日本語上手だねー。君、どこの国の人」

 肩を叩きながら、シノムラさんがいいます。

 いや、一応、自分も日本の『一部』で育ったものですが、地黒だからわかりにくいかもしれませんが……


「あー、それはごめん。え、えーっと、君、名前は? 私は、篠村蒔絵。あなたは?」

 田中 太郎です。ああ、ふざけてなどおりません。

 この名前、祖父がつけた名前なのですが、私の地元、かなり田舎でして、年長者の決定は誰も逆らえないのですよ。

「た、大変だねー」

 まぁ、みんな似たような名前でしたし、慣れればどうってことはなかったですけどね。


「そっかぁ。で、田中くん?いや、田中さん。あの女神から説明は受けているだろうけど、ここでは戦わないと生きていけないの。私の場合、剣道してたからそのまま剣を使うようになったけど、あなたは、何かスポーツとかしてた?」

スポーツですか、走ったり、槍を投げるのは得意ですが

「へぇ、田中さん。陸上やるんだー」

 陸上というより、狩りですかね。

「へ?」

 ああ、いや何でもありません。しかし、何も持たず転移しましたので、実をいうと獲物がありません。

 何か、武器ありませんか?

「うーん、武器。私、投げ槍は使わないからなぁ。あー、これならあるけど……」

 そう言って、篠村さんが何もない空間から取り出したのは、竹の槍。

「バンプースピア。いくら投げても無くならない魔法の道具だけど、竹の槍じゃあねえ?」

 あ、それでいいです。それより、さっき何もない場所から取り出したように見えましたが……

「え、ああ、これね。アイテムボックスとかいう空間系の魔法。手に入れた道具を亜空間にしまっておけて、結構便利。それより……」


 篠村さんが竹の槍を差し出す。

「本当にそれでいいの? 街に降りれば、もっといい武器があると思うけど」

 問題ありません。大戦時、祖父も竹槍で、アメリカのB29落としてたといいますし、未熟者の私にはこれで十分です。

「またまた、竹槍で戦闘機落とせるはずないじゃん」

 冗談ととったのでしょう。そう笑う篠村さん、冗談ではないのですが、というか県民であればこれくらい簡単なのですが……


「まあ、君はしばらく私と訓練。私が実戦に出るまで一年ぐらいかかったから、それくらいはかかると思って」

 そういえば、篠村さん、いくつです?女性に年齢を聞くのは失礼ですが、お若いようでしたので

「18でここに飛ばされて、二年くらいたったから、20歳かな?」

 おや?同じ年ですか。てっきり18ぐらいかと

「え?うそ!同じ年?」

 はい、先日、成人式を迎えました。

「へえ、あっちはもうそんな季節かぁ~。今年の成人式はどうだった? 私がこっちに飛ばされてくる時、髪の毛金色に染めた人が暴れて問題になってたんだ。ほら、テレビでも報道されてたじゃない。あれ、私の地元なの。彼ら何がしたいのかなぁ? 度胸試し?」

 ……? そもそも、成人式とはそれが目的ではありませんか?

「あれ?田中さん、結構、危険な人?」


 危険といいますか。何分、一人前の戦士と認められないと大人にはなれませんからね。

 私も度胸試しの為、バンジーをしましたが、蔦が切れて、地面に落下してしまいましてね。

 いや、あれはとても痛かった。傷も癒す間もなく、成人同士の決闘しなければなりませんでしたし……

 まぁ、運良く私もいい成績を収めたお陰で、県庁の職員になることが出来たのですが……

 ああ、そういえばあの時振舞われた豚の丸焼き。あれは絶品でしたね。私も十頭ほど豚を飼っているのですが、あれ程、肥えた豚はなかなか……


「ちょ、ちょっとまって!それ、どこの世界の話?」

 やだなあ、日本の話に決まっているじゃないですか。ああ、私の地元は田舎ですから、都会の人から見たら見たら野蛮かも知れないですね。

 あれ?篠村さん、黙り込んでどうしました?


「……田中さん。あなたどこの県出身?」

 私ですか、私は……


 答えようとしたところで、爆発音が響き渡ります。

「な、なんだ!」

「て、敵襲! 敵襲!」

 突然、騒がしくなります。断続的に響く爆発音。

 ああ、これは結構の数がいますね。上のほうで、なにやら争うような音が聞こえてきます。

 そうのんびりと考えていると、篠村さんが刀を取り出します。

 先ほどのおちゃらけた雰囲気はなりを潜め、その刀と相まって、まさに侍といった感じです。


 篠村さんが爆発の音のする方向――上の階に向かって走り出します。

「田中さん。ごめん、隠れてて」

 いや、女性に戦わせて自分は隠れているなんて、公僕として、戦士としても許せませんので

「でもっ!」

 ご心配なく、それよりほら、何かきましたよ。

 ぎぃぎぃ、という不思議な声と共に聞こえる男の断末魔の声。

 むせ返るような血の匂い。ああ、近いですね。

 階段を登りきるとそこは、血の海でした。


 通路を占拠しているのは三人の黒い甲冑の男達

 黒い鎧で身を包んでいるので解りにくいですが、人間ではなさそうです。

 鎧の隙間から見えるのは、爬虫類の目、尻からは爬虫類の尻尾が生えています。


「くっ!黒騎士隊! 何故、こんなところに!」

 篠村さんが、刀をふるいます。鋭くも力強い一撃。

 女子供が放てるものではありません。私はほうっと、つい感銘の声を上げてしまいます。

 しかし、流石の彼女も一体三は厳しい様子。


「くっ!田中さん! にげっ」

 あ、すみません、見とれてました。手伝えばいいのですね。

 手に持ったバンプースピアを正面の鎧にさくっと突き刺します。

 反応しようとしたのでしょうが遅いです。私の槍は、相手の鉄の鎧を貫き、その心臓を突き刺します。

 まず一人目。その隣で、篠村さんに斬りかかった鎧の顔面を兜ごとぶん殴ります。

 兜が変形し、首が明後日の方向へ。三人目は……

 あ、篠村さん、仕留めましたか。


 視界に映るのは、敵の首を跳ね飛ばす篠村さんの姿。

 青い返り血を浴びた様子ですが彼女の美しさは衰えることはありません。

 はぁ、はぁ、と息を荒らげながらも、行くわよ。と言って先に進みます。


 ともあれ、私は篠村さんの後を追います。

 色々と聞きたいことがあるのですが、とりあえず、彼らが何者か、聞いてみます。


「彼らは魔王軍の精鋭。黒騎士隊よ。まぁ、こっちの世界における特殊部隊だと思って頂戴」

 ふむ、あれが魔族の精鋭ですか。米軍の特殊部隊と戦ったことありますが、それに比べると練度が劣りますね。

「竹槍で鉄の鎧貫くわ。米軍の特殊部隊と交戦経験があるって……あなた一体何者よ」

 何者ともうされても、あ、篠村さん。そろそろ屋上に出ますよ。

 

 そして、広がるのは黒い雲。

 否、それは雲ではない様子。

「……嘘でしょ」

 篠村さんが言葉を失います。

 空を覆い隠すように飛ぶ魔物達。

 そして、屋上に降り立ち、その姿を堂々と晒しているのは……


古代竜エンシェント・ドラゴン

 ほう、これがドラゴンですか。

 金色の鱗に、2mはあるその体。

 翼を広げ、こちらを威嚇してきます。

 王者に相応しい風格を備えたおり、どこぞの王様と全然違います。



「あ、あ……」

 篠村さんが絶望した表情を浮かべています。

 篠原さん、どうしました?

「どうしましたって! この状況、どう考えても絶望的でしょう!

 空には、魔族の群れ。どう考えても中級以上、それが百匹!

 極めつけは古代竜!いかなる魔法をレジストし、その鱗は如何なる刃も通さない!

 伝説の勇者が、聖剣を持ってようやく傷つけられるようなそんな化物よ!

 もう滅んだって聞いてたのに、そんな……」

「シノムラ卿!」

 背後から、20人程の騎士達が姿を表します。自分達を追ってきたのでしょう。

「何を惚けておる! 行くぞ!」

「ッ! ええ!」

 篠村さんと、騎士達がドラゴンに目掛けて突撃していきます。

 彼らもかなりの歴戦の猛者なのでしょう。その何らかの力が込められた剣を振り上げ、ドラゴンに叩きつけます。

 ドラゴンはまったく動じず。鱗に傷一つ付けることができません。


 悠然とドラゴンが、その顎を開き、その口から黄金に輝く炎が――

 あ、これはいけませんね。

 私は、手に持った槍を構え、息を肺に一杯吸い込みます。そして――



 レッツ!バンプー!!


 

 竹槍を投げます。

 一瞬の無音、そして遅れて響く、ヒョウっと風を裂く音。

 音速の壁をぶち破って、その竹槍は、ドラゴンの額を貫きます。


 その反動で、炎が天空に向けて放たれ、そして、ドスン、とその巨体が落ちる。

「へ? え?」

 篠村さんが呆然とこちらを見てきます。

 頭ごと吹き飛ばすつもりが、さすがは古代竜。頭を貫くことしかできませんでしたか。

 さて、残るは空に飛ぶ魔族さん達ですか。


 私は、ひざまづき、先祖の霊に祷りを捧げます。

 私の祷りが届いたのか、空には雨雲が立ち込めます。

「な、天候を操作しているだと!」

「操作しているなんてレベルじゃない。なんだ、あの巨大な雷雲は!こんなのそんなの宮廷魔術師が集まったって出来はしないっ!」


 なにやら話していますがトランス状態の私にはそんな声は届きません。

 届くのは精霊と祖先の霊の声のみ。

 

 カッ、と見開くと同時に、神の雷が空を飛ぶ魔族達を襲い掛かります。

 次々と落ちていく魔族達。何というか、蚊取り線香で落ちていく蚊をみているような気分になります。


「……なぁ、中位魔族って魔法効きにくいんじゃなかったっけ?」

「夢だ。これは夢だ。こんな無茶苦茶なことありえん!ありえない!」

 現実逃避する騎士様達。まぁ、あれ神の雷ですからねぇ。そんじょそこらの奴らでは防ぎ切れるはずがありません。

 十分もすると、魔族達はすべて消え失せ、綺麗な空が戻ってきます。


 それにしても……


 なんで皆さん、私に刃を向けているのですか?


◆◇◆◇◆


 ともあれ、私はお城を追い出されました。

 王様から『頼む!頼むから出て行ってくれ!』と泣いて頼まれてしまえば仕方ありません。

 現在、私の目の前に広がるのは、平原。

 そして、むすっとした表情で立っている篠村さんの姿。

「ちょっと、挨拶無しで出て行くなんてひどくない」

 そして、何より少しお怒りの様子。

 すみません、やりすぎて篠村さんを怯えさせてしまったようだったので、こっそり出て行ったほうがいいかな、と


「う、そりゃ、あれでビビった私も悪いけどさ」

 気まずそうに俯く篠村さん。

「けど、私、命助けてくれた相手にお礼さえ出来ていない」

 顔を真っ赤にして、篠村さんはいいます。

 私が怖いでしょう。それは震える手を見れば解ります。それでも、私の目をしっかりと見て話しかけてくれます。

「だから、その――助けてくれて、ありがとう」

 その言葉に、心が温かくなります。

 どういたしまして、私が言えたのはその言葉だけでした。


 そして、私は旅に出ます。

 ここは地球と違う異世界、どのような困難が待ち受けているかわかりません。

 ですが、この道の先に何があるか、考えるだけでワクワクします。


 チートを貰えなかった平凡なグンマーですが、この異世界で頑張っていきたいと思います。


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― 新着の感想 ―
[一言] グンマーにレッツ・バンブーさせたらどうなるか知りました。ぱねぇっす・w・;
[一言] やはりグンマーか あそこは日本であって、日本じゃないからな
[良い点] 日本にあって日本にない秘境グンマーの知られざる一面を見せてもらいありがとうございます(°∀°)b [一言] っておいい、グンマーそんな危ない所なの!? 山一つ越えた先そんななのかよ( ̄□ ̄…
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