スーパー厨二伝説
2012/11/22 ちょっと修正。
静寂の大地に、二人は立っていた。
「ふっ、皮肉な運命よな」
「そうだ、な……」
既にどれほどの戦を体験したのだろうか。彼らは年には見合わぬ貫禄を放っていた。
成長盛りの少年の身で、その道を完成させたかのような振る舞い。
――苦しみの果てに今の自分達が存在する。
本当はもう血を流したくはないのだ。それでもこの戦いだけは避けては通れない。
苦渋の想いで男と男は向かい合っていた。
他者の追従を許さぬ強大な力を秘めた二人。彼らは別格なのだ。
二人以外の誰もがこの場に立つことはできない。いよいよだ。
――決戦の時が今来た!
因縁のライバル同士、宿敵の二人が睨み合う。雌雄を決する時がついに来たのだ。
片や、目を瞑り腕を組む男――真田恭一は只静かにその場に佇んでいた。
一方、独特の構えで隙を見せない男――久世克也がそれを見て目を光らせている。
もう戦いは始まっていた。
ただならぬ空気が張り詰める。二人は動かない、否、動けない。一瞬の隙が命取り。
見えない力がぶつかり合い、互いの神経を削っていく。
流石は自分達が認めた好敵手。いつの間にこの領域にまで辿り着いたのだろうか。その成長力には目を見張るものがある。二人の頬に、汗が滴り落ちた。
互いに一歩も引くことはない。
ならば……その身が尽き果てるまで戦うのみ!
「我が"混沌の右手"で貴様を討つ!」
「ならば俺は"破滅の左手"にて貴様を蹂躙してくれるわ!」
まずは言葉での牽制。両者共、自分の実力には絶大なる自信を持っている。
恭一の固有能力『混沌の右手』は全てを無に還し、克也の『破滅の左手』は全てを破壊する。
まさに最強対最強。頂点に立つ者同士の生み出す圧巻の能力対決。
――勝つのは自分だ!
護るべきもののため、己の信念のために、決して譲歩することはない。
「ほう、言うな。ならば我が秘奥義を見せてやろう」
「くくく、言うわ。そんなもの、俺の最終奥義の前に塵芥と化すわ!」
今まで鍛え上げ、編み出してきた技の数々。その境地に辿り着くまでには、沢山の困難があった。
蔑み、嘲り、無理だと見下される。辛い時もあった。
だが漸く極めたのだ。研ぎ澄ませ会得した力を今、大事な御方のために使う時が来たのだ。
あの方のためならば例え死んでも悔いはない。
いざ尋常に勝負!
「ハハハ、神の化身たる我と同格とでも?」
「フフフ、神など恐るるに足らん。俺の真の力が覚醒を迎えた時が、貴様の最後だ!」
「いや、貴様など我が隠された力には及ばんぞ!」
「いやいや、我が力は最強なり!」
「いやいやいや、選ばれし者の眠りしパワー、甘く見すぎではないかな?」
「いやいやいやいや、俺の秘めたる力は、世界の頂点に立ち、全てを凌駕する!」
互いに眠れる獅子状態。今の実力が限界ではない。
目の前の敵の潜在能力は如何ほどか? お前は本当に俺を越えるのか?
戦闘力未知数の相手に、二人の間に緊張感が走る。
終わらない言い合いに、我こそはと睨み合う二人。
「…………」
「…………」
このやり取りはまだ続く。
「コホンッ、ならば我が――「えーい! 長いんじゃ、貴様! 空気を読まんか!」
「何を言うか! 貴様の方こそ先に折れないか!」
痺れを切らした克也が、宿敵恭一に怒りの咆哮を上げる。
無意味な時間稼ぎはやめにしよう。
阿吽の呼吸で、二人は頷いた。
「なれば、行くぞぉああああああッ!」
「望むところ! 勝負だぁああああああッ!」
強大な力のぶつかり合いが弾け、世界が、空間が耐え切れずに震動する。
――刹那の邂逅!
その速度たるや、何と時速三十億。恐るべきスピードとパワーが互いを削り――駆ける!
「ぐぬッ、うらぁぁああああああッ――エターナル・カオス・ブラスト!」
「くあッ――デス・エンド・バースト!」
「今だ! エターナル・ゴッド・フォース!」
「甘いッ! ファイナル・マキシマム・バースト!」
恭一が右腕を振るえば克也が吹き飛ぶ。克也が左腕をかざせば恭一が傷ついていく。
一進一退の攻防。
技と技、究極対究極が、世界を揺らす!
負ける訳にはいかない。
あの方――護るべき姫のためにも、自分はここで果てる訳にはいかないのだ!
「恭! 克也! お願いだからもうやめて!」
圧縮された時間の刹那、切羽詰った声が飛んだ。それは愛しきあの方の声色。いつも我らを案じてくださった声だ。
恭一と克也が振り向き、彼女を見つめる。
儚く、そして気高い我らが……
「「――姫!!」」
そう、今回の戦いのキッカケとなった姫がいた。
恭一と克也を罪悪感が苛む。彼らは身を引きちぎる想いで叫んだ。
全ては彼女を手に入れるため、己が宿命を全うするため。残酷な運命の悪戯なのだ。
もはや引くに引けない。
「お願い……もうこんなの嫌なの……」
彼女の痛々しい呟きが、二人の魂を揺さぶる。
苦しい。愛とはこれほどまでに苦しまねばならないものなのか。何故、何故なのだ!
それでも決着をつけねば先へは進めない。彼女を幸せにはできないんだ。
「くっ……しかし我らは」
「くぅっ、貴方のためなんだ」
ここでの彼女の立場は微妙だ。自分達もその力を危惧され監視されている。
今も人目を忍んで抜け出してきているのだ。
――ここは正に牢獄。
ここにいる悪漢どもは姫を否定している。
自分達を頑なに認めようとはしないのだ。洗脳などされてなるものか!
だが一方で想うこともある。
――彼女はいつになったら幸せになってくれるのだろう?
姫に味方するものは少ない。今までにも色々と、周りの者達との確執があった。
いつも悲しげな顔をしている姫。世を憂いて我らを気遣う姫。事実、彼女は不幸だった。
いや、こうして争っている時点で、自分達のせいでもある。分かってはいるのだ。
それでも――
「「もう引けないんだ」」
どちらかを失えば彼女は嘆き悲しむだろう。それは分かっている。只の我が儘だ。
しかし、それでも決着はつけねばならない。所詮この世は弱肉強食。強いものこそが正義!
愛も戦いでしか獲得できないのだ。
姫を護るのは自分、姫を幸せにするのも自分だ。
そのためには――お前を討つ!
恭一と克也の決意は微塵も揺るがない。
二人の間に火花が散った。
「お願い! もう二人を見てられない! わたし、もう耐えられないの!」
「止めてくださるな、姫!」
「そうです、姫。これは我らが宿命!」
「ああ、だめ……」
姫の言うことにも耳を貸さない二人。
彼らの戦いはヒートアップしていき、ついには臨界点を越える。
新たな力が目覚めたのだ!
「これはッ!? 力が溢れ出してくる!」
「この力……俺は覚醒したのか!? まだ先があったのか!」
二人同時に覚醒。自分に満ちる制御不能の力に、驚嘆と畏怖を覚える。
辺り一帯もそれに応えるかのように、揺れ動いた。
「これは、天変地異! 俺は神となってしまったのか!」
「くっ、星が俺を呼んでいる!」
溢れんばかりの力が世界を侵食していく。彼らの力に世界が耐え切れないのだ。
足元がグラグラと鼓動し、二人の身体がよろめく。
もはや時間が無いとばかりに、短期決戦で挑んだ。
「これは世界の意志。ならば――」
「それならば――」
「「決着の時!」」
「トドメだぁあああッ――おおぉぉおおおおおおッ!」
「最終奥義! 喰らえぃ! はぁぁああああああッ!」
最高の力が轟く。二人の咆哮が響き渡った。
姫は切ない瞳で二人を見守っていた。
お願いだからもうやめて欲しい。心の底から神に祈るが、彼女の声はもう届かない。
今まさに男達は、常人では計り知れない程の戦いを迎えていたのだ。
強大な厨二パワーを持つ二人がぶつかり合う。
カスッ
コスッ
時速三十億ミリメートルの拳が遠慮がちに互いの頬を撃つ。
恐るべき勢いで彼らは吹き飛んだ。
「ぐッ、ぁぁああああああッ――貴様、これ程の力を隠し持っていたとは!」
「ぬぅがぁぁああああああッ――この力はぁッ! 貴様もやるな。その潜在能力、天才か!」
丁寧に膝を折り曲げながら、ゆっくりと地面に横たわる二人。
彼らは足を向かい合わせるように静かに寝転がった。
「……はぁ」
重度な厨二病患者二人を幼馴染に持つ不幸な少女――園川姫子。通称「姫」。
彼女はそっと溜息をつき、一言述べる。
「わたし、もう行くよ」
「姫ぇーーーーーーッ! 宿命に負けちゃダメだぁあああッ!」
「俺が必ず君を護る! だから行くなぁ、姫ぇえええーーーーーーッ!」
彼らは未だ中学二年生。発展途上なお年頃。
何の力も持たない只の一般人である。
ガッツリとした厨二ストーリーも良いかな、と思い……
厨二病の症状については、wiki先生にお世話になりました。
人物紹介
園川姫子
ごく普通の女子中学生。二年。校内一の美人で凛としているため「姫」の愛称で慕われている。
唯一の汚点が幼馴染の二人。自分の無実――彼らとは違うと触れ回るのが日課。
学校名物の校舎裏の死闘(厨二対決)は最大の頭痛の種で、やめさせるべく日々奮闘している。
彼らを庇う毎日で疲れきっており、幼馴染二人には悲しい表情(幼馴染命名:姫の憂い)と勘違いされているのが実情。
最近では、そのうちまともになるだろう、と諦めきっている節もある。
真田恭一
姫子の幼馴染その一。同じく中学二年生。来るべき日のために無駄に知識が広く、成績優秀。黙っていればモテる。
姫の永遠の騎士を自称する、末期の厨二病患者。
宿りし力(妄想)は『混沌の右手』。
長年の鍛錬の末、極めた秘奥義には、誰もツッコミを入れることはできない(下記一名を除く)。
選ばれし神の化身として、眠りしパワー(そんなものはない)の覚醒を待つ。
秘奥義その一:エターナル・カオス・ブラスト
混沌の光が永遠の無を呼ぶ(と思っている)。
秘奥義その二:エターナル・ゴッド・フォース
神の力が永遠の無を創り出す(と思っている)。
久世克也
姫子の幼馴染その二。同じく中学二年生。来るべき日のために身体を無駄に鍛えているが、実戦経験はなし。スポーツ万能だが帰宅部。我が道をゆくマイペースな男。
姫を守護する宿命が己にあると思い込んでいる、末期の厨二病患者。
宿りし力(妄想)は『破滅の左手』。
長年の鍛錬で身につけた最終奥義には、誰もついていけない(上記一名を除く)。
人類最強の男として、真の力 (そんなものはない)の覚醒を待つ。
奥義:デス・エンド・バースト
終わりをもたらす死の嵐が、全てを破壊する(と思っている)。
最終奥義:ファイナル・マキシマム・バースト
命を賭けた刹那の咆哮。最大破壊で敵を討つ(と思っている)。