第6幕◆決着
アスナの勝利を見ながら、宗士は口許を押さえて笑っていた。
(あれで友達いないとか本気かよ…。どう見たって並のドラゴニクス以上じゃないか)
対してエイーダは目の前で笑う宗士を見て驚愕と畏怖を感じていた。
(そんな…。彼女達があっさりとやられるなど…。そもそも、彼等はいったいどのような方法で意思の疎通を行っているというの…?!)
「しかし、俺1人で残りのメンバーを倒せるかと聞かれるというと…」
「えぇい!シアン、あなたが彼を倒しなさい!どのような手段を用いることも許可するわ!」
その声に怯えのような反応を示したシアンという少女は、ゆっくりとエイーダの前に立つ。
「か、覚悟して、ください…」
「そうか…。ところで、シアンだったか?俺はお前にちょっと話がしたいんだが…」
「聞く耳もちません!」
シアンから乱雑に次々と様々な魔法が撃ち出されていく。それを紙一重に冷や汗を流しながらも宗士は避けながら…
「まぁ、このままでいいから聞けよ。うちの参謀役が拾ってきた情報ならあんたもハイエルフなんだよな?なんで今はエルフに戻ってんだ?」
「う、うるさい!どうでもいいでしょう!」
「そうかよ…。じゃあ、話題を変えるが奴隷身分はさぞや虚しいもんだと思うが。あんたは今の身分に収まり続けられるのか?」
「ーーーっ」
その話に動揺したのか魔法はあらぬ方向へ飛び、観客席代わりの2階の柵を吹き飛ばして生徒達がパニックを起こす。
「不服なようだな」
「そ、それでも…。私はこの学園に残るためには他の手段を選んでる余裕はないの!」
「な~る。御家の困窮で在学が危ういのか」
「わかったでしょう!私は貴方を倒します!」
魔法を回避しながら宗士は思う。
人族ーーヒューマンにとってはこの学園を卒業したからといっても大した恩恵は無い。あくまでも他種族に対する知識を増やす程度のものだ。
だが、他種族はそうもいかない。ドラゴニクスのアスナも言っていたことだが、この学園を卒業出来なかった場合には家業の手伝いぐらいしかすることがないという。
さらにはシアンには下手をするとその家業すら残らない恐れが出てきたのだ。学園から去る選択肢すら封じられた今、このままなら放逐者という人権すら持ち得ない身分へと落ちる。
そうなれば今の奴隷身分よりも悲惨な道を辿る。それだけは避けたいのだろうとわかる。
(わからんでもないけどな…。だけど、そういった選択肢からは救いだしてやりたいよな)
「何を呑気に魔法の回避なんぞやっとるか宗士」
そこへようやく歩いてきたアスナが魔法を弾きながら近寄ってきた。近くまで来ると魔法を弾き飛ばして宗士はようやく一息つく。
「なぁ、シアン。こんなこと言うのもなんだが、それで幸せか?」
「ーーーーっ」
その言葉を聞いた瞬間、魔法が止まる。言葉の通り、空中にある魔法まで止まる。
その光景に宗士とアスナは目を見開いて驚愕していた。
「魔法の固定!?」
「あれで奴隷身分とかマジで言うておるのか…」
対してエイーダは苛立っていた。
「時間をかけたせいでドラゴニクスと合流されてしまったではないですか!」
そこへ、そばに控えていた1人のエルフがエイーダに耳打ちする。
「エイーダ様。今ならシアンの魔法を起爆剤に大規模魔法が使えます。これならいくらあのドラゴニクスといえども…」
「なるほど。なら、さっさとやってしまいなさい」
「構いませんか?」
「奴隷に気兼ねする必要でも?」
「御意に」
付き人が笑って大規模魔法の準備に入る中、宗士はその気配に気づいていた。
「アスナ、俺とシアンの両方を守れるか?」
「やれと言われればやるが…。あれは敵ではないのか?」
「幸せも知らずに学園生活の何もないだろ。大丈夫だ。ルールに嘘はないはずだ」
「よかろう」
笑ってアスナが駆け出す。それに気づいてシアンの目に再び光が宿る。
「シアン!そのまま2人を捕らえなさい!」
「ーーー!」
驚いて振り向いた先には完成された大規模魔法とそれを構えて笑うエイーダ。状況を飲み込めた瞬間、シアンの頭によぎったのはーー
(私もろとも撃つ!?)
「アスナ!」
「任せぃ!」
アスナが宗士を連れて突っ込んでくるのを見ながらシアンはパニックになっていた。それをアスナは抱えた瞬間ーー再び体育館を揺るがすほどの大爆発が空間を震わせた。
「ここまでやればいくらドラゴニクスといえども…」
「しかしエイーダ様。あれではシアンが…」
「所詮は奴隷。使い潰してナンボでしょう?」
『あ~あ~。そういったこと言うのは撃破したか確認してからにしろよな』
聞こえるはずのない声にエイーダと付き人が振り返る。煙が晴れていくと、シアンを支える宗士と魔法を真正面から止めたとしか見えないアスナが仁王立ちしていた。
「半竜化した我にその程度の大規模魔法でどうにかなるとでも思うておったか?あいにくとこれはドラゴニクスの到達点の1つ。それでは押し潰すのは不可能というものだ」
その宣言を聞きながら宗士は自分の腕の中で震えるシアンに優しく語りかける。
「使い捨てられる。それが奴隷だ」
「…わかって、いました…」
「今なら言いやすいから言うがシアン。俺の手を取る気はないか?」
「…えっ?」
不思議そうな表情を向けるシアンに宗士は笑って手を差し出す。
「手を掴め。そして、今から伝えることをそのまま言葉として紡げ」
耳元で必要な言葉をささやく。シアンは怪訝な表情をしつつも手を取ってからそれを声に乗せる。
「私、シアン・アトライトは『レギオン』のリーダー『月影宗士』を新なるリーダーとして認める」
「認めよう。俺は新たな仲間、『シアン・アトライト』を『レギオン』のギルドメンバーに迎え入れる」
2人の言葉に、審判として戦いを見守っていたEXTENDはーー
「承認します。『シアン・アトライト』を現刻をもって『レギオン』の正式なるギルドメンバーとなることを認める」
「なっ…!」
承認されたことにエイーダが驚きの声をあげた。その間に宗士はシアンを引き起こし、アスナはシアンの首にあった首輪を引きちぎった。
「これもルールブックにあることか、宗士?」
「あぁ。『引き抜き』っていう行為だ。あくまでもギルドリーダーとリーダー格以外のギルドメンバー間でのみが交わせる『特別越権行為』ってやつさ」
「そ、そのようなルール…、私達は知りませんわよ!?」
「そりゃな。ルールの詳細を調べたやつしか知らない情報だしな」
「ルールの詳細?」
「あいにくと答える気はない。っていうわけで、アスナ」
「トドメというやつか?しかし、我で構わんのか?」
「お前にだからこそ任す」
「了解した、リーダーよ」
アスナはそれに笑って答え、大きく息を吸い込んでいく。
「レギオン!!!!」
「お前達の敗けだ、Queens」
「竜砲ーー!!!!!!」
アスナの中で爆発的に圧縮された空気が大気を揺るがすほどの圧をもって吐き出される。それは瞬く間に衝撃波へと変わり、射線上にいたエルフ全員を壇上まで吹き飛ばしーー
「連鎖、爆圧!!」
吐き切ったはずのアスナが吼える。瞬間、大気の爆圧が勢いを取り戻し、壇上のエルフ達もろとも体育館の一面の壁が砕けて吹き飛ぶ。
それを見届けたEXTENDは軽く頷き、そして片手を挙げる。
「勝者『レギオン』!」
勝利したギルドの名を告げたことで今年度初のギルド間戦闘は幕を閉じた。