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第5幕◆竜の戦い

観ていた生徒のほとんどは目の前で起きている事態についていけていなかった。


ーーー生徒会長と庶務を除いては…


「ぐ、軍ですら採用を見送ったパラダイスボムの使用…」

「思いきりがいいね。アレはヒューマンかアーマノイド以外には脅威の武装だ。ほぼ1発で勝負が決まってしまう」

「いえ!そもそも軍ですら採用を見送ったものをどうして彼女がーー」

「そこまではさすがにわからないね。しかし、あれは様々な要因が絡みやすいから使いにくい一面もある。それを迷うことなく使用に踏み切る彼女の胆力には敬意を評するよ」

「それはそうですけど…。でも、あのドラゴニクスも凄まじいですね」

「さすがに俺でも驚きだね。あれだけの魔法を撃ち込まれてもほとんどビクともしてないというのは御三家のドラゴニクスでもいないんじゃないかな?どう思う、エターニア家次期当主様?」


生徒会長の声で庶務は自分の隣へといつのまにか立っていた1人の藍色の髪をなびかせた片角の女性のドラゴニクスへと目を向けた。


「いつから気づいていました?」

「アスナってのが突撃かました辺りかな。気配を消して立つのは勝手だけど、俺達は君達とは敵なんだから静かに立つのはやめてくれ」

「許可を取るようなことでも無いでしょうから」

「まぁいいけど。で、先ほどの質問には答えてくれるのかい?」


ドラゴニクスの女性は目線を生徒会長から戦場となっている体育館を駆けるアスナに戻すとーー


「いませんね。私でもあれほどの肉弾戦は忌避します」

「つまり、並のドラゴニクスでは不可能な戦闘ってことかな?」

「私としても興味が湧きます。いったいどうすればあれほど強固な鱗盾を創りあげることができるのか…」

「あの、鱗盾というのはドラゴニクスの皮膚を覆う生命エネルギーと聞きますが、強度はどういうものに依存しているんですか?」


庶務の質問に女性は視線だけを向ける。しばらく眺めた女性は再び戦闘に視線を戻しーー


「基本的には遺伝子です。ゆえに、底辺層で産まれたドラゴニクスはより上位のドラゴニクスに挑むことはなく、これによって現在の貴族制度を支える一端を担っています」

「しかし、そうですとおかしくないでしょうか?」

「庶務よ。言いたいことはわかるがそれに対する答えは次期当主様は持っていない。だからこそ、興味が湧くのだろうが…」

「えぇ。本来であれば、あれほどの魔法を撃ち込まれた場合…鱗盾はその強度を保つことが出来ずに砕けます。その場合には我々ドラゴニクスの取る次の対応としては『半竜化』というものを用いりますが…、さすがに底辺層の者ではそこまでのものは使えはしないでしょう」

「なるほど。となると、気になるね。彼女はこのあとどうするのか…」




◆◇◆◇◆




幾度目の突撃か…。アスナの顔に焦りが浮かぶ。


(さすがは四属性の使い手…。他の2人をなんとか昏倒させはしたが彼女には近づくことすら叶わんのか…!!)


距離を詰めようと前進すれば地の魔法によって道を塞がれ、それをかわした先から炎と水の弾丸が風によって強化されて飛んでくる。

さすがに強化された魔法を防御せずに食らうのはアスナとて鱗盾を貫通される恐れがあり、距離を詰めようとすればするほど良い的になりつつある。


「いったいどれほど堅いのよ、あの盾の鱗は!」


対してポーラも焦っていた。魔法の弾丸は一つ一つは大した魔力を消費することのない魔法ではある。

だが、この戦闘が開始されてからもう10分が過ぎようとしており、撃ち出した弾丸数はそろそろ三桁に上る。

いくら四属性を使えるハイエルフとはいえここまで自身の魔法を連続で使い続けることは無い。


(相手の体力が尽きるのが先か、私の魔力が尽きるのが先か…)

(くそ…。鱗盾も強度は残り1割無いというのに…、突破口が開けん…)


アスナは一度距離を大きく開けた。そこでポーラも弾丸の生成を一時中断する。


(少し頭を冷やす。鱗盾を失えば勝てる戦いも勝てん…)


額の汗を拭い、周囲の様子に目を向ける。目の前の相手であるポーラ以外のエルフ全員は宗士に集中しており、できるだけ早くこちらを片づける必要がある。神那はプログラムの行使のためか姿が見えない。


(…だが、私で勝てるのか)


突撃するだけでは突破口は開けない。頼みの盾も限界は近い。諦めにも似た気持ちが沸き、思わず顔を上げた先にーーーその人物はいた。


「あれは…リュイン・エターニア…」


藍色の髪をなびかせた右に大きく伸びた角を持つ女性ーードラゴニクス御三家、エターニア家次期当主候補筆頭リュイン・エターニア。

本来であるなら、自分のような底辺層の存在など気にも止めないはずの存在が今、自分に視線を向けていた。


「ふ、ふふふ…」

「…?」


俯いたかと思えば急に肩を振るわせるアスナにポーラはわずかに身構える。


「なぜ御三家が見に来ているのかはわからんが…。いいだろう、リュイン・エターニア。貴様も見ている以上、我は全力をもって目の前のハイエルフを倒すべきだと理解した」

「なに?」

「悪いがもはやこのような些末な戦いで負けるわけにはいかなくなった。ポーラとやら…。悪いが我はーー『切り札』を切らせてもらう!」

「…!?」


その言葉をもって、アスナが再び突撃へと挑む。だが、ポーラはもはや怯むどころか周囲に百とすら生ぬるく思える魔力の弾丸を出現させた。


「油断はしていないわ。この質量をもって貴女を押し潰す」

「やれるものならやってみせよ!」

「言われずともーー!」


ポーラはアスナに手を向けると、すべての弾丸が放たれる。アスナは回避行動を取ることすらなく、弾丸は爆発的な衝撃をもってアスナの場所を吹き飛ばす。


「ここまでやればいくら堅い鱗盾といえどーー」


もうもうと上がる土煙を前にその場の誰もがアスナの倒れた姿を思い浮かべていた。

だが、一瞬後にーー建物が先ほどの爆発とは比べ物にならないレベルで激震する。なんとなく観戦していた生徒達は衝撃に耐えきれずにこけたり膝をついていた。


「な、何が起きたというの…?」

「なに。我が手加減せずに床を蹴り抜いたせいだ」

「…?!」


ポーラが聞いた声はポーラの右側ーー建物の壁側から聞こえた。振り向いた先には、異形の腕で窓枠を握り潰し、異形の脚が窓枠を歪ませていた。


「な、なな…」

「驚くのも無理は無い。さすがに見たことはなかろうな。竜の腕と脚は」

「り、竜の四肢…」

「これがドラゴニクスの長達が持つとされる『半竜化』と呼ばれる切り札、だ!」


アスナが再び跳び、ポーラの視界から消えた一瞬。ポーラは自分が天井に叩きつけられた衝撃で起きた事態を理解し、そして床に叩きつけられたところで意識を失った。

激震と共に着地したアスナは落下したポーラを見下ろす。


「悪いな、ハイエルフ。我は、我を認めてくれた2人に見合う働きをせねばならん。そしてなによりーー」


アスナは先ほど見上げた先。リュイン・エターニアに目を向ける。


「御三家が見に来ている以上、全力を出す前に負けるのは我の意思が許さん」




◆◇◆◇◆




「…あれは、半竜化…」

「へぇ~、あれがドラゴニクスの切り札の1つ目か。君ですら切ったことのない切り札をあの子は切ったわけか。本来なら、使えないはずの切り札を…」

「これは、どう見るべきなんでしょうか…?」

「俺としては脅威までとは言わないが、強敵になりえるギルドが現れたのは確か、だな」


こちらを見上げていたアスナは視線を戦いへと戻すとゆっくりと歩いていく。それを見ながらリュインは目を細める。


「私以外にも、いたのですね…」

「うん?」

「もう行きます。次に会う時は、戦いの場で…」

「負けないがね、俺は」

「黒星は私がつけてみせます」


去っていく背中を眺めながら生徒会長は笑う。


「楽しそうだったな、あいつ」

「そうでしたか…?」

「あぁ。笑ってやがった。まるで、ライバルでも見つけたみたいだ」


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